住宅ローン破綻が目の前に…早期退職で起きた誤算、給料の減少、老後の設計を見誤った“年金世代”の末路

写真拡大

日銀の追加利上げ決定で今後さらなる、金利上昇が予想される「住宅ローン」。

住宅金融支援機構のデータによると現在、住宅ローンの破綻率は3.04%(2023年度)と、コロナ禍が明けて減少傾向にあるという。

しかし不動産コンサルタント会社『「任意売却119番』の富永順三代表は、「シニアの方、年金世代の方の相談は増えています。年金をもらうようになった時に住宅ローンが払えないと気付く方、もしくは実際に払えない人からの相談が増えている」と語る。

一体どのような事情で住宅ローン破綻に至ってしまうのか?

コロナ禍を通じた給料の減少で苦しむ男性、そして別の男性を襲った早期退職での誤算など、具体的なケースを取材した。

始まってしまった滞納の日々

富永代表と訪れたのは、関西地区に住む福田義之(57)さん(仮名)の自宅。

福田さんは11年前、46歳のときに1900万円の住宅を35年ローンで購入した。

購入のきっかけは、娘2人が中学生になり子供部屋を与えたかったからだ。

内装会社に勤務する福田さんの月給は基本給27万円ほど。

そこから約8万円がローンの支払いに充てられるが、家族4人での生活に支障はなかったという。

その理由は、残業。

会社からは、「金を稼ぎたかったら休日出勤していいよ」と言われていたため、子育て費用、住宅ローンを工面するために残業をして、基本給に加え、10万円以上稼ぎ出していたという。

しかし、コロナが直撃して仕事が激減し、会社の業績は悪化。

福田さんが当てにしていた残業がほぼ無くなってしまった。

住宅ローンの返済開始から9年が経った頃、支払いが1回、そして2回遅れて、3回目でようやく前々回の分を支払い、そしてまた1回遅れ…。そんな“自転車操業”のような状態が増えてきたという。

住宅ローンがまだ1500万円も残る中、滞納が始まってしまったのだ。

一般的に住宅ローンは、6カ月滞納してしまうとローン契約が破棄され、残金を一括で支払わなければならない。

もし一括で払えなければ、自宅は裁判所に差し押さえられ、競売にかけられてしまうのだ。競売では、安値で自宅が売られるため、福田さんの元には借金だけが残ってしまう。

そのため、競売になる前に不動産コンサルタントの富永さんの会社へ相談した。

銀行と連携し、競売よりも高く売れる「任意売却」を選び、一家で妻の実家へと引っ越すことを決断したのだ。

まだ買い手は見つかっていないが、福田さんは、この先の生活のためにも早い決断の方が有利と考え決断したという。

現在、1500万円で売りに出していて、売れればローン残金1500万円は完済できることになる。

富永代表は福田さんの事例について、次のように指摘する。

「最初支払いが滞っても、自分の中でどうにかなると思ってしまう人もいます。住み慣れた家にずっと住むことを前提に考えているので、退職金を切り崩したり、副収入でアルバイトをしたり頑張りますが、結局、体調を崩したりして払えなくなり、退職金も底が見えて、もう駄目だということでの相談が多いです」

ギリギリまで自分で何とかしようとして、どうにもいかなくなってしまうケースが多いので、早めの相談が重要だ。
 

福田さんのように“住宅ローン破綻”するより先に、危機感を持って早めに対処する人がいる一方で、誰もが陥り兼ねない“思わぬ誤算”によって住宅ローンが破綻した人もいる。

早期退職でまさかの破綻…

茨城県内で年金生活を送る田上修(69)さん(仮名)。

田上さんは14年前、55歳のときに1260万円で4LDKの家を15年ローンで購入。浴室は、天窓から日が差し込むおしゃれな作りだ。

大手半導体メーカーに勤務し、この家を買った当時の年俸は約950万円。

リタイアした後は、この家で悠々自適な年金生活を送るはずだった。

毎月の返済額は月々6万5000円。まさか住宅ローン破綻になるとは思いもしなかったという。

「早期退職を募っていたので思い切ってやめました」

実は田上さん、家を買った1年後に、早期退職を決意。

関連会社へ再就職する予定だっでしたが、ここで“1つ目の誤算”が生じてしまった。

「東日本大震災がきちゃったんです。そのとき思っていたのは、半年以内には再就職できれば、生活ができると思っていました。ところが2年間もかかっちゃったんで、退職金もかなり食いつぶしてしまった」

早期退職で得た退職金約1500万円は、2年間の住宅ローン返済・生活費として750万円ほどに減少してしまったという。

その後、ようやく関西地方で新たな就職先が決まったものの、“2つ目の誤算”が起きてしまう。

それは母親の介護。

再就職からわずか2年、田上さんが60歳の時に母親が認知症になり、介護のために退職を余儀なくされた。

それから田上さんは、車で1時間ほど離れた母親の家と自宅との2重生活を始める。

田上さんの妻はまだ60歳前で年金は受け取っていないため、田上さんの年金は妻の方に渡して生活をやり繰りし、田上さんと母親との生活には、母親の老齢年金でなんとかやり繰りしていたという。

しかし介護をしながらの生活は、毎月10万円の赤字。残していた退職金は底をついた。

家を購入して6年目、住宅ローンが滞るようになり、6カ月間の滞納をしてしまった田上さん。家には住宅ローン残金の約600万円を一括で返済するよう求めた通知が届く。

しかし、一括で支払える資金があるわけもない田上さん。自宅は裁判所に差し押さえられ、市場価格よりも安く売られてしまいかねない“競売”になる事態に陥る。

競売にかかっても、返済がすべて終わらず、さらに自宅から出て行かないといけない状態になることを恐れた田上さんがすがったのが、「リースバック」という不動産取引だった。

「リースバック」とは、投資家などに自宅を買ってもらい、毎月の家賃を支払うかたちで同じ家に住み続けられ、将来、もし貯蓄が出来れば買い戻すこともできる方式だ。

今年2月に買取りオーナーが見つかり、月々家賃として5万円を支払い、住み続けることができることになった。

「ローン返済に追われる日々から解放された」なんとか生活を続けられそうな田上さん。
 

一方で、自らの判断を誤って破綻を招くケースもあった。

後編(『年商5000万円の男性が陥った自己破産への道…今“年金世代”に襲いかかる住宅ローン破綻の現実』)では、催告書と請求書の山と生活をする木村敏夫(73)さん(仮名)の現実に迫る。