寄付金着服発覚前に決まっていた「愛は地球を救うのか?」

日本テレビ系大型特番『24時間テレビ47』が、8月31日18:30〜9月1日20:54に放送される。約半世紀にわたりチャリティーを呼びかけ、これまでに総額433億64万3146円の寄付金を集めてきたが、昨年11月に系列局での着服が発覚。信頼を大きく揺るがす事態に中止を求める声も相次いだが、「支援を必要とする方がいるならば、少しでも多くのチャリティーを届けたい」(森實陽三執行役員コンテンツ制作局長)という思いで、今年の放送を決断した。

そんな逆風の中で、「愛は地球を救うのか?」というテーマの刷新、メインパーソナリティー体制の見直し、“目的別募金”の新設など、大きな改革を断行して臨む今年は、どのような意識で制作されているのか。コロナ禍の2020年や昨年に続き、5回目の総合プロデューサーを務める吉無田剛氏に、本番への舞台裏と覚悟を聞いた――。

(左から)総合司会の羽鳥慎一チャリティーマラソンランナーのやす子、総合司会の上田晋也、水卜麻美アナ

○昨年の放送後に感じた“微妙なズレ”

今年のテーマは、1978年の第1回から長年掲げられてきた「愛は地球を救う」を見つめ直し、あえて“?マーク”をつけて「愛は地球を救うのか?」と自問自答するものになった。これは、寄付金着服という不祥事を受けて考案したと思われがちだが、実はその前に決めていたものだった。

大きな改革が必要になっていたのは、「昨年の放送は、コロナが明けてもう一度作り上げるという意気込みで、フォーマットを2019年以前の形に戻したのですが、放送が終わった後に、番組企画の一つ一つの問題ではなく、大きな枠組みの中で『24時間テレビ』と視聴者の求めるチャリティーの形に微妙なズレが生じていた感覚がありました」という理由から。

「コロナ禍を経て、民放テレビ局がチャリティー番組を放送するということへの視聴者との向き合い方を、より本質に考えていかないといけない」という意識の中で、昨年に続き総合プロデューサーに任命された吉無田氏。その際、福田博之副社長から「過去を踏襲しなくてもいいから、新しい『24時間テレビ』を作ってほしい」というミッションを、昨年9月に受けていた。

その日から2か月の時間をかけ、2020年にもタッグを組んだ総合演出・上利竜太氏と共に改革を示すテーマ、コンセプトとして「愛は地球を救うのか?」を11月初旬に社内プレゼンした。

しかし同月28日に、前述の着服事件が発覚。吉無田氏は「正直、来年はできないんじゃないかと思いました。それはプロデューサーとしてよりも、視聴者としての視点で思ったことで、“それでもやります”とすぐには考えられなかったです」と振り返る。福田副社長に対しても、「来年、本当にやりますか? 僕はこのままではできないと思います」と相談していた。

例年では準備が始まっている時期だったが、ここで制作がストップ。年が明けて2月1日に内部調査の結果と再発防止策を発表、同17日にこれまでのチャリティー活動と再発防止策に基づいた今後の活動について報告する特別番組を放送し、日本テレビとして2024年も放送することを決めた。

これを受け、再び動き出した制作チーム。まずは一旦決めた「愛は地球を救うのか?」というテーマをもう一度見つめ直す作業から始まったが、「チャリティーの本質を見直さなければいけないという決意と覚悟は、より明確になっているのではないか」と捉え、改めてこのテーマを打ち出すことにした。

○水卜アナの葛藤「あんなに悩んでいる姿は見たことがなかった」

「愛は地球を救うのか?」というテーマを発表したのは、6月20日。プレスリリースで吉無田氏が代表して制作チームの思いを発信したのと同時に、総合司会11年目になる水卜麻美アナウンサーが『ZIP!』の生放送で伝えた。一部では、「水卜アナが会社を代表して謝罪させられている」という批判もあったが、その構図は誤解であると説明する。

「水卜は昨年11月に着服の件が起きてから、会社としての謝罪や再発防止策などを発表した後でないと自分が個人で発信できないことも含めて、本当に悩んでいました。“募金よろしくお願いします”と10年にわたり最前線で言ってきたからこそ、ある意味プロデューサーの私以上に責任や葛藤を感じていて、あんなに悩んでいる姿は見たことがなかったです。そして今年のテーマを発表するときに、自分がどう思っているのかを自分の言葉で伝えることに決めた結果、彼女は自分が謝罪したいという気持ちで頭を下げました。だから、会社を代表して謝っているわけではないんです」

そんな水卜アナの気持ちと同じように、吉無田氏も悩み抜いた中で、「正直、まだ多くの方の理解を戴けているとは思っていません。一度、揺らいでしまった信頼はすぐには取り戻すことはできないと感じています」と、プレスリリースで本音を打ち明けた。

「公式な文書で出すことが正解だったのか分かりませんが、作り手としても放送することが当たり前だとは思っていないし、放送することに“違うんじゃないか”と思う方がいるのも当然だと思うんです。でも、放送しないことでチャリティーが届かなくなってしまうところもある中で、最終的に“やる”と判断をしたからには、なるべく多くの人に理解して、受け入れていただけるような放送にしなければ、という思いでした」

●メインパーソナリティー不在による募金総額の不安は…

2003年から昨年まで21年連続で旧ジャニーズ事務所のメンバーが務めてきたメインパーソナリティーを置かない決断をしたことは大きなニュースとなり、今年の改革姿勢を強く打ち出す体制となった。

ただ、彼らのファンたちが応援の気持ちも込めて募金するという行動は、コロナ前は毎年メイン会場前に長蛇の列ができていたことからも分かるように、間違いなく募金総額を大きく支えていた。アイドルのメインパーソナリティーを置かないことは、この支えを失うことにもつながると考えられるが、そこへの不安は「本当に、正直ありません」と断言する。

「もちろん、募金総額が大きくなれば、その分いろんなところに運用できると思いますが、募金総額も視聴率も、“過去との比較論”にとらわれ続けると、本来変えなくてはいけなかったことが変えられなくなってしまうので、今年変わったことによって出た数字が一つの結果だと思っています。長年にわたって旧ジャニーズ事務所の方たちに『24時間テレビ』のメインパーソナリティーとして支えていただいたのは紛れもない事実です。でも、その仕組みを踏襲しないとチャリティー番組が作れないかと言ったら、そうではないので、今年の形は今年の形で、新しいものが生まれるのではないかとも考えています」

○逆風での出演者は「本気の熱量と覚悟を持った人たち」

新たに総合司会を引き受けた上田晋也をはじめ、今年の出演者たちは “逆風”の中で参加を表明してくれただけに、「本当にありがたいです」と感謝。吉無田氏が総合Pを務めた4年前に「募金ラン」企画に参加した土屋太鳳は「この(制作)チームと一緒だったら」と賛同し、朝ドラ『まれ』(15年)に主演して以来、親交を重ねる能登で、輪島高校和太鼓部とパフォーマンスする。

練習する土屋太鳳と輪島高校和太鼓部 (C)日テレ

一方、初参加となる長嶋一茂は、これまでチャリティーとは無縁の人生を送ってきたそうだが、『NEWS ZERO』(現・『news zero』)を担当していた時から付き合いのある吉無田氏のオファーに「『24時間テレビ』もいろいろ言われてるけど、来年還暦になるのを前に僕もちょうどチャリティーをやりたいと思ったタイミングだったから」と応えた。一茂は、どんな企画をするのかを決めず、まずは能登に何日間も通って自分のできることを探し、結果として石川県珠洲市の宝立小中学校野球部に、レジェンドOBも呼んで野球教室を開くことになった。

今年の企画参加者とは、例年に増して密に会話して取り組んでもらっているのだそう。「よりシビアな目で世の中が見ている『24時間テレビ』に、画面を通して本気で取り組んでいることが見えないと乗り越えられないと思うんです。皆さんがそれを感じながら参加していただいているのを、すごく感じます」と印象を語る。

7月17日の記者会見では、「『24時間テレビ』の趣旨に賛同する24人で24時間をつなぐ」と発表していた。この時点では、まだ24人が決まっていなかったが、その後どんどん賛同する人が増え、最終的には40人規模になるという。「この逆風の中に入ってきてくださる皆さんは、本気の熱量と覚悟を持った人たちだと思います」と話し、今年の放送において大きな力になると感じているようだ。

チャリティーマラソンの“目的別募金”は原点

やす子 (C)日テレ

今年の改革を最も象徴する企画が、募金の使い道を明確化させる“目的別募金”となった恒例の「チャリティーマラソン」だ。様々な事情で保護者と暮らすことができなくなってしまった子どもたちを支援する児童養護施設に高校時代、お世話になっていた時期があるというやす子の発案で、『24時間テレビ』全体の一般募金と切り分け、その全額が全国600カ所以上の児童養護施設のために役立てられるようにした。

『24時間テレビ』の一般募金は、「福祉」「環境」「災害復興」の3本柱で行われており、従来も「福祉」として行われてきた児童福祉施設への支援を、やす子のマラソン企画で呼びかける時だけは、視聴者に分かりやすく目的別を明示し、QRコードで募金先を直結させるシステムを、今年は特別に構築したのだ。

「1978年に始まって募金箱を会場に持ってくるという時代から、コロナもあってインターネットで“自分はこれに募金したい”という形ができるなど、チャリティーを取り巻く環境や個人の関わり方が大きく変わってきた中で、やっぱり自分の募金が何にどのように使われているのかが、もっとクリアになってほしいのではないかと考えました。そこで、“この企画はこういう目的でやっているので、見ていて心を打たれた人はぜひ募金してください”とダイレクトに届く仕組みを作ったんです」

これは、番組制作チームと24時間テレビチャリティー委員会が密に議論し合って実現したもので、今年はほかにも、事業局と初めて連携する企画「Song for 能登! 24時間テレビチャリティーライブ」(神奈川・ぴあアリーナMM)や、「三代目・岩田剛典が挑む生アート制作 一流画家の作品をオークション」が、それぞれ能登の被災地復興支援への“目的別募金”として実施される。

新しい試みではあるものの、実は『24時間テレビ』第1回放送のメインテーマは「寝たきり老人にお風呂を! 身障者にリフト付きバスと車椅子を!」と、まさに“目的別募金”からスタートしており、いわば原点を見つめ直す形にもなっている。