Daoko、サカナクション山口も憧れる「シティポップの重要作」…46年前、日本の音楽シーンを変えた「スゴいアルバム」

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ドラマー、シンガーとしてのみならずコンポーザー、プロデューサーとしても日本の音楽史に多大な影響を与えた高橋幸宏。

逝去から約一年、ソロデビューアルバム『サラヴァ!』(1978年)、続く2nd『音楽殺人』(1980年)のリリース記念日にあたる6月21日に合わせ、高橋幸宏の魅力を探求する特集を実施。

高橋幸宏のソロデビューアルバム『サラヴァ!』はYMOデビューの約半年前、1978年6月21日にリリースされた。フレンチポップ、ボサノヴァ、ソウルミュージック…様々な要素がちりばめられた今なお色褪せぬ名盤は、のちにYMOのリードボーカルとなることを予期させ、コンポーザー/プロデューサーとしての感性も存分に発揮された高橋幸宏の世界観を堪能できる作品となっている。

本作は高橋幸宏と坂本龍一主導の元、細野晴臣、鈴木茂、高中正義、山下達郎、吉田美奈子、ラジ、BUZZ…と錚々たる顔ぶれで制作されていることも聴きどころの一つである。

そんなジャパニーズ・シティポップの重要作品『サラヴァ!』について、高橋幸宏をリスペクトする10名の方々から寄稿文を寄せていただいた。

※この記事は2024年6月21日にキングレコード発の音楽メディア「SOUND FUJI」に掲載された記事を再編集したものです。

寄稿者:いとうせいこう、澤部渡(スカート)、Daoko、竹中直人、TOWA TEI、哲夫(笑い飯)、野宮真貴、のん、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)、山口一郎(サカナクション)

いとうせいこう

1978年、自分は17才。そのアルバムの名はなんとなく知っていた気がするが、あの大人の洒落た世界にはリアルタイムには触れられなかった。

結局80年代になって、1975、1977年のマイケル・フランクスにはまり、1974年のニック・デカロに遡って初めて、つまりトミー・リピューマのプロデュース作品に音楽的薫陶を受けて初めて、私は幸宏さんの『サラヴァ!』の甘やかで端々のほろ苦いサウンドの世界を、振り向くようにして知ったのである。もちろん、その先見性を含めて。

その皮肉な時間のズレの中で、いまだに幸宏さんは「幸あれ!」と微笑んでいるだろう。

1961年生まれ、東京都出身。

1988年に小説「ノーライフキング」でデビュー。1999年、「ボタニカル・ライフ」で第15回講談社エッセイ賞受賞、「想像ラジオ」で第35回野間文芸新人賞受賞。近著に「ラジオご歓談!爆笑傑作選」「東北モノローグ」などがある。

日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。現在は、ロロロ(クチロロ)、いとうせいこう is the poetで活動。テレビのレギュラー出演に「楽しく学ぶ!世界動画ニュース」「フリースタイル日本統一」(テレビ朝日)などがある。 NHK朝の連続テレビ小説「らんまん」では主人公が憧れる植物学者を演じた。NHK ドラマ10「燕は戻ってこない」に第8話から出演予定。

澤部渡(スカート)

『Saravah!』はきっと1978年という、あらゆるものがクロスしていたその時代にしか作れなかったレコードなのだと思います。かつて幸宏さんがこのアルバムを語った際に「背伸び」という言葉が出てきたこともありました。確かに「背伸び」なのかもしれませんが、不思議と同時に「成熟」でもある、というあまり例のない特殊なレコードでもあります。15歳の時にまさに「背伸び」して聴いた私にとってはアレンジ、演奏、録音、音色、歌唱、ジャケット、全てに永遠に憧れ続ける一枚です。

2006年、澤部渡のソロプロジェクトとして多重録音によるレコーディングを中心に活動を開始。

2010年、自身のレーベル、カチュカ・サウンズを立ち上げ、1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースした事により活動を本格化。

2021年4月にアニメ「オッドタクシー」オープニングテーマ「ODDTAXI」をPUNPEEとコラボで担当。

その他も数々のアニメーション作品、映画、ドラマの劇伴、楽曲制作に携わる。また、そのソングライティングセンスからこれまで藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)などへの楽曲提供も行っている。更にマルチプレイヤーとして澤部自身も敬愛するスピッツや川本真琴、ムーンライダーズらのライヴやレコーディングに参加するなど、多彩な才能、ジャンルレスに注目が集まる素敵なシンガーソングライターであり、バンドである。

Daoko

異国の街中の舞踏会にいるような気分になれて、手をとり旅へとエスコートしてくれる曲たち。

優しい歌声と二曲目の歌詞が今胸に沁み渡ります。

心地よいリズムとグルーヴに酔いしれてしまいますね。朝のお散歩でも、ドライブでも、夜のバーでも揺れながら聴きたいスイートなアルバムだと思います。演奏がかっこよくて、いつ聴いても感動してしまいます。当時の、この時代の空気感が少し味わえている感覚を覚え、不思議な気持ちになったりもします。私は父からYMOや高橋幸宏さんの音楽を教わりました。高橋幸宏さんの音楽遺伝子が受け継がれていく、今後の音楽シーンがたのしみです。私もその一員として頑張りたいとおもいます。

1997 年生まれ、東京都出身。

15 歳の時にニコニコ動画へ投稿した楽曲で注目をあつめ、2015年『DAOKO』でデビュー。

その後も米津玄師との「打上花⽕」、岡村靖幸との「ステップアップLOVE」など実力派アーティストとの共作を行いつつ、ソロでの活動も続ける。小説の執筆、絵画個展の開催、女優業など多様なクリエイティヴ表現を続け、国内外で注目を集めている。

2019 年に個人事務所“てふてふ”を設立。2021年からは自主レーベルでの活動を開始。ソロ活動と並行して、2023年4月からはバンド・QUBITでの活動も行っている。2024年5月22日に約4年ぶりとなる通算8枚目のフルアルバム『Slash-&-Burn』をリリース。

竹中直人

究極にオシャレなアルバム!めっさオシャレな幸宏さんを全て詰め込んだスペシャルな一枚だ。せつなくて、キュートで愛おしくて、一曲、一曲がスクリーンに映し出される恋愛映画みたい。そんな想いが胸にキュンキュン伝わってくる。

レコーディングのスタジオで、幸宏さんのロマンに包まれたミュージシャンたちはどんな思いで幸宏さんを見つめて、幸宏さんと目くばせして、音を奏でていったのだろう。最高の笑顔と最高の顰めっ面で、「ごめん、この音、もう一回演らせて!」なんて言ったりしながらこのアルバムを作っていったのかな… たまらなくロマンチックなアルバムだ♪

幸宏さん…あなたはいつも優しい人…ただとてつもなく。

竹中直人(俳優?映画監督?)

神奈川県出身。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。その後、劇団青年座入団。83年に「ザ・テレビ演芸」(EX)でデビュー。96年にNHK大河ドラマ「秀吉」で主演を務め話題に。『シコふんじゃった。』(92)、『EAST MEETS WEST』(95)、『Shall weダンス?』(96)では日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。主演も務めた初監督作『無能の人』(91)がヴェネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞、第34回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞したほか、監督作・出演作で受賞多数。その他の監督作に『119』(94)、『東京日和』(97)、『連弾』(01)、『サヨナラCOLOR』(05)、『ゾッキ』(21)、『零落』(23)など計10本の監督作がある。

TOWA TEI

78年、20代半ばにサラヴァでソロデビューを果たした幸宏さん。僕が初めて聴いたのは、音楽殺人をリアタイで聴いてた80年より少し後。10代だった僕は、「なんて大人で素敵なアルバムなんだろう!」とずっと思っていました。

20代半ばを過ぎて、自分もプロとなり、30を目前にソロになりました。40になっても50になっても「なんて大人で素敵」なサラヴァはずっと変わりませんでした。

50を前にしてバンド仲間になった幸宏さんからは、「サラヴァ、演奏は同じで良いんだけど、今の自分で歌い直したいんだよ。」と何度かお聞きしていました。今は、実現頂き、誠に嬉しいです。20代の幸宏さんと60代の幸宏さん。どちらも自分には大人で素敵です。この音楽はタイムレス。そして幸宏さんはYMOは、ずっと大先輩です。

1990年にDeee-Liteのメンバーとして、アルバム『WorldClique』で全米デビュー。

現在、12枚のソロアルバム、3枚のSweet Robots Against the Machine名義、METAFIVEのアルバム等がある。2024年秋にはソロデビュー30周年を迎える。それに先立ち記念シングル「TYPICAL!」7inchアナログを2024年8月にリリース。

哲夫(笑い飯)

夏に流れると涼しくなり、冬に流れると暖かくなる、エアコンのような曲が集まっていると思います。言い換えますと、春や秋の穏やかな日に似た曲が詰まっていると思います。高橋幸宏さんはデジタル音楽の偉人でいらっしゃりながら、ここにはアナログの優しさと深みがあって、このアルバムこそ、発売当時のレコード盤で聴いてみたいなと望んでしまいます。そして旋律に包まれると高橋さんの渋さと温かさが蘇ってきます。おしゃれなバー、大きいワイングラスを眺めていらっしゃった眼差し、ご自身の作品に対する思い、気さくにお声をかけてくださったこと、数々の記憶と音楽が僕の宝物です。本当にありがとうございました。

1974年、奈良県生まれ。関西学院大学文学部哲学科卒業。2000年に西田幸治と漫才コンビ・笑い飯を結成し、2010年にM‐1グランプリで優勝。2014年、2024年には上方漫才大賞を受賞。

野宮真貴

2000年代の初め、都内のお寿司屋さんで偶然幸宏さんにお会いした。幸宏さんは奥様とカウンター席に座っていて、私は夫と息子と一緒。他にお客さんはいなかった。当時5歳の息子は世界の国旗に凝っていて、無邪気に投げかける国名当てクイズに、幸宏さんは柔らかい笑顔で答えてくれていたのが印象的だった。

アルバム「サラヴァ!」は、その時の幸宏さんのイメージと重なる。YMOのドラマーとしての幸宏さんはクールでシニカルな印象だけれど、実はとても楽しくて優しい人。このアルバムからはその彼の本質みたいなものが歌を通して伝わってくる。

幸宏さんと私が好きなものは、おしゃれ、バート・バカラック、そして映画「男と女」。「男と女」のピエール・バルーが「Samba Saravah」を歌うように、幸宏さんは「サラヴァ!」を軽やかに歌う。

これほど多幸感に溢れた素敵なアルバムを他に知らない。この先「サラヴァ!」を聴く度に、きっと私はあの日の幸宏さんの笑顔を思い出すだろう。 Saravah!祝福あれ!

ミュージシャン/エッセイスト/フィトテラピスト

1960年生まれ。1981年「ピンクの心」でソロ・デビュー。1982年結成のポータブル・ロックを経て、1990年ピチカート・ファイヴに加入。元祖“渋谷系の女王”として「渋谷系」ムーブメントを世界各国で巻き起こし、以来、音楽・ファッションアイコンとしてワールドワイドに活躍。2010年に「AMPP認定メディカル・フィトテラピスト(植物療法士)」の資格を取得。2021年にはデビュー40周年を迎え、記念アルバム「New Beautiful」をリリース。音楽、ファッションやヘルス&ビューティーのプロデュース、エッセイストなど多方面で活躍している。

www.missmakinomiya.com

のん

私にとって幸宏さんは、音楽の道を切り開いてくれた方です。幸宏さん主催フェスに呼んでいただいたこと幸宏さんに曲を作っていただいたこと、本当に自分は幸せなやつだと実感しています。

サラヴァ!の幸宏さんの歌声は甘く優しく、インテリジェンスで素敵な大人の音楽にうっとりします。

時間がゆったりと動いて、この心地よさがいつまでも続くような幸宏さんの青春を覗き見しているような多幸感に包まれました。

なんだかひたすらに、尊い。

俳優・アーティスト。音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。

2022年9月、主演映画『さかなのこ』で、第46回日本アカデミー賞「優秀主演女優賞」を受賞。2024年12月、主演映画「私にふさわしいホテル」公開予定。DMMTVでの実写ドラマ「幸せカナコの殺し屋生活」今冬公開予定。音楽活動では、2023年6月に、ASIAN KUNG-FUGENERATION・元GO!GO!7188のノマアキコ&ユウ・堀込泰行・柴田隆浩(忘れらんねえよ)・ヒグチアイ・ひぐちけい・高橋幸宏らとコラボし、自身の楽曲も複数収録した2ndフルアルバム『PURSUE』をリリース。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

高橋幸宏さんはずっと自分の心の中にいるお人です。

とってもフラットにスマートに、ときにシニカルに、でも愛情深く、みんなで大笑い出来るブラックユーモアを教えてくれたりもしました。

幸宏さんに会う前に「サラヴァ!」は良く聴いていて、傑出したアルバムだと思っていました。

でも、いつも新しい音楽を追求している幸宏さんに、昔のアルバムである「サラヴァ!」を『大好きです』と何となく言えなくて、言えずじまいになってしまいました。

幸宏さん、俺は「サラヴァ!」無茶苦茶好きです。

表題曲の「サラヴァ!」とかずっとこの曲の世界の中に居続けたくなるし、エリントンの意外なカバーとかセシボンとかも格好良すぎます。とか、今言うと、『谷中くん、そういうこと後から言うよね、そういう人っているよね』とか冗談まじりに責められそうですね。

でも今言います。ちょっと他に類を見ない傑作アルバムですよ。幸宏さん凄いです。尊敬します。ずっと尊敬してます。俺達スカパラもまだまだ頑張ってますよ。

見ていて下さいね。

谷中より。

1966年東京生まれ。

世界各国で活躍するスカバンド、東京スカパラダイスオーケストラのバリトンサックス担当。谷中自身はスカパラの活動の他にも作詞提供・俳優・モデルなど活動は多岐に渡る。スカパラは今年デビュー35周年を迎え、11月16日に35th Anniversary Live スカパラ甲子園を開催。

山口一郎(サカナクション)

僕如きが「サラヴァ!」について語るなど大変烏滸がましいことですが、リアルタイムでこの時代に生きていなかったミュージシャンとして、そして幸宏さんの一ファンとして、感じていることを書かせていただきたいと思います。まずこの「サラヴァ!」というアルバムは幸宏さんのドキュメンタリーとして、日本の音楽史として、とても重要な作品になっていると僕は思っています。このアルバムには坂本龍一さんが編曲、細野晴臣さんがベースとして全曲参加しているのですが、これはYMO結成前です。

リリース後、幸宏さんはサディスティックスを解散させ、YMOの結成に至りました。つまりこのアルバム制作前後でYMOの構想が現実化していったのだと思います。そういう観点でこの「サラヴァ!」というアルバムを聴くと、非常に感慨深いものを僕は感じてしまうのです。それと幸宏さんが本格的にボーカリストとして作品を作った最初のアルバムであるという点も、今後の幸宏さんの物語として非常に大きい出来事だったと思います。参加ミュージシャンも凄まじく、山下達郎さん、吉田美奈子さん、鈴木茂さん、林立夫さんなど列挙仕切れません。このアルバムがリリースされた78年という年は、日本の音楽シーンが動き始めた重要な年です。そしてこの「サラヴァ!」というアルバムは、その歴史が動き始める非常に重要な導火線になったのは間違いありません。是非、今を生きる若者達にも、このアルバムを、当時の日本の音楽シーンを噛み締めていただきたいと切に願います。

「サカナクション」として、2007年にメジャーデビュー。

文学的な表現の歌詞と、幅広い楽曲のアプローチは新作をリリースするたびに注目が集め第64回NHK紅白歌合戦に出場、第39回日本アカデミー賞にて最優秀音楽賞をロックバンド初受賞するなど、その活動は高く評価されている。

2015年から音楽と様々なカルチャーが混ざり合うコンテンツを企画するプロジェクト「NF」をスタート。単著『ことば 僕自身の訓練のためのノート』を刊行するなど、多様な活動を行う。

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