松田理奈、心躍らせ晴れやかに~ヴァイオリンの魅力を詰め込んだコンサート開催へ

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ヴァイオリニスト・松田理奈が東京オペラシティコンサートホールと大阪のザ・フェニックスホールでリサイタルを開催する。彼女は、14歳のとき、当時住んでいた福山のリーデンローズで初めてのリサイタルをひらいたのであった。それから25年、彼女のいまを聴く今回のリサイタルは、東京と大阪でまったく違うプログラムが組まれている。

――まずは、東京のリサイタルの選曲について教えていただけますか?

去年に続いて、清水和音さんと東京オペラシティコンサートホールでリサイタルをすることにしました。去年は、モーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ K.379」、バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番」、ベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ 第9番《クロイツェル》」という(ヘビーな)プログラムだったので、今年はガラッと変わって、明るく、演奏会場をキラキラとした空間にしたいという気分で、大好きなモーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ K454」と、バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番」、そしてフランクの「ヴァイオリン・ソナタ」を選びました。フランクのソナタは、途中で暗いところもありますが、第4楽章ですべてを乗り越えて、明るい気持ちにしてくれる作品です。

――昔からモーツァルトを得意とされてきましたね。

モーツァルトのヴァイオリン・ソナタは、和音さんと全曲弾きたいくらいなのです。今回のコンサートの最初はモーツァルトと決めていて、始まり方を考えたときに、K.454が思い浮かびました。ファンファーレとまではいかないですが、ちょっとした前奏部分があり、序曲的な雰囲気がぴったりだなと思います。モーツァルトは、ピアノがヴァイオリンに寄り添って、会話するヴァイオリン・ソナタがたくさんありますが、最後の大きな4つのソナタ(K.454、K.481、K.526、K.547)は、少し音が減っているように私は思います。モーツァルトが音符の数を少し削ぎ落しているので、ピアノとのやりとりがよりクリアに聴こえます。弾くときに神経を使う曲ですが、私はそこをすごく楽しく弾いています。

――モーツァルトのこのソナタの聴きどころを教えてください。

美しい第2楽章でしょうか。緩やかに感情が行き来して、背景が変わっていく曲。明るく優しいふわっとしたところから、シリアスに悩むところ、そしてまたふわっとする瞬間とか。モーツァルトって、割と天真爛漫で元気なイメージがありますが、この楽章ではモーツァルトの大人な一面が詰まっていて、そこが聴きどころだと思います。本当に良い曲だなと思いますし、モーツァルトを弾くのが年々楽しくなっています。

――バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」第3番についてはいかがですか?

パルティータ第3番は、いろんな様式の舞曲の舞曲が詰まっています。バッハの無伴奏ヴァイオリン曲はシリアスなものが多い中で、パルティータ第3番は優しく、明るいだけではなく、慰めてくれるかのような優しさを感じます

昨年もバッハを弾きましたが、今年も弾きます。東京オペラシティコンサートホール(三角屋根の構造)で弾くバッハは特別な経験です。自分の音が上から降ってくるのを味わえて、何とも不思議な感覚になります。

昨年、ヴァイオリンの音を出す直前にブレスをして、その自分の呼吸だけが響いたときにヴァイオリン1本なんだと自覚して、しびれました。最初の「レレー」の伸ばしの残響を聴いたとき、お客さんが入った状態でのオペラシティでの無伴奏はこういう響きだと実感し、弦4本であの空間で響かせるのはすごいことだと感じました。今回は全部明るい曲で、上から降ってくる音が自分でも楽しみなのです。

――最後はフランクのヴァイオリン・ソナタですね。

フランクのソナタは、ヴァイオリニストのイザイの結婚のお祝いとして書かれました。フランクが結婚生活の何を表わそうとしたのかはわからないですけど、フランクの経験やメッセージが込められていると思います。

私の勝手な解釈では、第1楽章から第2、第3、第4楽章と若返っていくようなイメージがします。第1楽章が一番落ち着いていて、将来、何もない所で時間を過ごしている二人みたいな。第2楽章は、二人の激しいバトル、言い争い。第3楽章ではかなり考え込んでいる、悩んでいる。第4楽章は今の楽しさ。うきうきとしたお祝い感があり、若い二人が追いかけっこをしているような感じがします。

フランクのヴァイオリン・ソナタはピアニストによって本当に演奏が変わります。ピアノの音が多いですから(笑)ラヴェル、ブラームス、R.シュトラウスらのソナタと同様です。和音さんの特徴的であるものすごくドシッとした音から信じられないくらいの軽やかな高音まで活かせる箇所がふんだんにあるソナタですから、共演が楽しみです。

――フランクは清水和音さんとCD録音もしていますね。

あまりテイクを重ねないで、作り込むよりは、ナチュラルに演奏しました。ほとんど切らずに録りましたね。あのときは、いつもより多く和音さんの音を浴びれてうれしかった。和音さんの音を真ん前で浴びると整体やマッサージへ行くよりも体の調子が整うのです。和音さんとの共演はいつも楽しみですが、今回は、モーツァルトの大きな曲をがっつりとやらせていただけるのが楽しみです。

――清水和音さんはどういうピアニストですか?

そのときそのときで、今日はこういう感じだよねとか、というスタイルの方。そして共演者が若手であろうとベテランであろうと、今はこういう風に感じているのねとキャッチしてくださる、そして毎回ベストを提供してくださる、合わせてくださる、寄り添い方がスペシャルな方だと思います。

――では、大阪でのリサイタルの選曲について教えていただけますか?

ヴァイオリンを楽しんでいただける名曲リサイタルになっています。「ツィガーヌ」の”どソロ”(無伴奏のソロ)でバーンと始めようかな(笑)。ヴァイオリンの超絶技巧のきらびやかさは他の楽器にない魅力なので、ヴィルトゥオーゾ(超絶技巧)を入れつつ、プログラムを組みました。

私は、フィンジ(20世紀前半のイギリスの作曲家)が大好きで、彼の「エレジー」を入れました。悲歌と訳すこともできますが、哀しみを歌っているわけではなく、希望を歌っている曲です。最後にちょっとした上行音型があるのですが、そこが少し泣けます。

あと、ヴァイオリンとピアノといえば、何かソナタを入れたかったので、ブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ 第3番」を選びました。第3番は、第1番、第2番より派手さもあり、キャッチ―なところもあります。第2楽章は名曲ですし、曲の長さもちょうど良かったので入れました。

そして、最後は鉄板の「ツィゴイネルワイゼン」で締めようかな(笑)と。みなさん知っている曲で、みなさんに弾いてくださいといわれる名曲です。

――共演の伊舟城歩生さんについて紹介していただけますか?

和音さんの門下で、まだまだ若手です。1音ずつバランスを確かめるようなこだわりを持っていて音を作る真面目な方です。これまでにアウトリーチなどで共演して、この秋は大阪だけでなく、長野と愛知でも共演します。

――会場のザ・フェニックスホールについては?

子供の頃、福山に住んでいたので、ザ・フェニックスホールは、学生音楽コンクールの大阪大会で小学校5年から中学1年まで毎年弾いていた、知り尽くしている会場です。

――リサイタルへの抱負、メッセージをお願いします。

東京は、ザ・王道プログラムですが、蓋を開けてみると多彩です。心が温まるとか、心が軽くなるとか、心が躍り、晴れやかになるプログラムで、3曲通して、ほっこりして帰っていただけるように取り組んでいます。気軽に来ていただいて大丈夫な内容だと思いますので、気軽にお越しください。

大阪は、ヴァイオリンの魅力をふんだんに詰め込んだプログラムです。「これ聞いたことがある」というメロディがたくさん出てきます。フェニックスホールは、1階2階で空間がぎゅっとしていて、ヴァイオリンの音をダイレクトに聴いていただけると思います。ヴァイオリンの音の振動を直に感じていただける曲を入れていますから、肌でそれを感じていただけたらうれしいです。

取材・文=山田治生 撮影=中田智章