母が亡くなった時もそうだったが、父の死に対しても、大きなショックはない。ガンの闘病に付き添うことも、認知症の介護も親の「緩慢な死」の経過に立ち会うことだ。いきなり交通事故死するのと違い、徐々に「親の死」を受け入れていく作業だ。

 それなので、検視結果が出て、葬儀がいつできるかも分からない状態でも、友人・知人と「迷惑な親の最後の子孝行」な話として、笑いながらネタにもできている。前出の坂本氏からも「すばらしい最期ですね。5万円届けに来るところなんて、なんとダンディだろう。良い介護ができましたね。胸を張ってください!」とのメッセージをもらう。

「世の中的にはエアコンのない部屋で孤独に腐敗という強烈なエピソードの結末を『介護が不適切だった』と批判する人は少なくないでしょう。でもそんな社会の同調圧力に負けて無理に施設入所に踏み切っていたとしたら、最期まで好きな酒を飲んで、娘と孫と仲良しでいられることはできなかったでしょう」(坂本氏)

 悔いはない。父が元気な頃の口癖は「僕はワイドショーのプロデューサーが長かった。お前にも自分のことはいいことも悪いことも、全て書いて欲しい。それが人様を飯のタネに食ってきた人間の責任だ」だった。現在12歳になる息子と父の写真を見ながら、1人、献杯をした。天国では好きなだけ酒を飲んで欲しいものだ。

<取材・文/田口ゆう>

【田口ゆう】
ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1