昔のiPhoneに付属していた5Wの充電器は遅い。最新の急速充電を体験すると、その速さに驚くはずだ(筆者撮影)

最近のiPhoneには、充電器が付属していない。だからといって、昔iPhoneに付属していた小さな充電器を使ってはいないだろうか? 実は、それだと最近のiPhoneのパフォーマンスを十分に引き出すことはできない。何で充電するのが正解なのか。

最初に結論→27W以上のPD充電器を選ぼう

充電に関しては語ると長くなるので、シンプルに結論からお話ししよう。

iPhoneをなるべく早く充電するには(現時点では)27W以上のPD(パワーデリバリー)対応の充電器を用意すればいい。ケーブルはUSB-Cであれば何でもいい。

ただし、アマゾンなどのECモールで売っている充電器やケーブルには、表記されているスペックを満たしていない商品もあったりする。選択眼に自信がなければ、純正品やAnkerやUGREENなどの有名メーカーの商品を選ぶか、信頼できる家電量販店の店頭で選ぶといい。


アップル純正品にこだわるなら、MacBook Airなどに付属する30Wアダプター(左)や、iPad Proなどに付属する20Wアダプター(右)がおすすめ(筆者撮影)

充電器、ケーブル、モバイルバッテリーなど電気系統の製品は、数値上同じスペックの商品だったとしても、安全回路などのクオリティや、ケーブルそのものの太さ、端子内部のハンダ付けがどのぐらいしっかりしているかなど、品質にはけっこうなバラツキがある。安価な製品では、熱を持ったり、場合によっては燃えたりする危険性もあるので注意が必要だ。安物買いの銭(どころか家)失いにならぬよう、充電周りの備品には、安心できるよう十分なコストをかけたい。

なお、パソコンなどを充電できる45W、67W、100Wなどの大出力な製品を選ぶのも可。充電器は充電される側が電圧、電流を制御するし、PDであれば内蔵されたチップが、お互いに流せる電圧、電流を認証し合ってから充電を開始するので、大出力の充電器だからといって、大きすぎる電力が流れてスマホに負荷がかかるというようなことはない。


左から、昔懐かしい純正5Wアダプター、サイズはほぼ変わらないが、高速充電が可能なAnkerのNano 3(30W)、MacBook Airでも利用可能なNano II(45W)、MacBook Pro 14インチでも十分使えるGaNPrime(65W)(筆者撮影)

昔の付属充電器は最大5Wでしか充電できない

ここからはもう少し、詳しい話をしよう。

そもそも、スマホなどに内蔵されているリチウムポリマーバッテリーは、古くから使われているニッカドやニッケル水素などの充電池と違って、一般論として大容量の急速充電に耐えられない。20年ほど前には、バッテリーの容量と同じ電流(これを1Cと言う)でしか充電できず、そのキャパシティを越えたときには、燃えてしまったりすることもあった。

それを安全に使うために、電流を制限する回路などが設けられ、電解質・電解液に燃えにくい素材が使われるようになるなど、安全性は高くなっている。また、大電流での充電への耐性も高まっており、以前に比べて急速充電も可能になった。

最初の頃にiPhoneに付属していたサイコロのような小さな充電器は5V×1Aで、5Wの充電能力を持っている。当時はそのぐらいゆっくり充電する必要があったのだ。iPhoneの充電キャパシティは次第に大きくなっており、最新のiPhone 15 Proでは27Wまでを許容するようになっている。


昔、iPhoneに付属していた充電器は、5V×1A=5Wでしか充電できず、今のiPhoneも充電できないことはないが、非常に時間がかかる(筆者撮影)

W(ワット)数というのが仕事量で、V(ボルト)が電圧、A(アンペア)が電流。川の流れでいえば、それぞれ水量と、水位、川幅のようなものだ。実際に充電するときには、まず大きく電圧を規定して、電流量は細かく調整したりする。

アップル独自規格のLightning端子は、そのもう一端がUSB-A端子である時代が長かったが、見た目を変えずに電流量を増すなど規格のアップデートが行われてきた。iPhoneのバッテリーがどんどん巨大化、やがてiPadも登場したことで、一方がUSB-Aより電力効率のいいUSB-Cになる。やがてLightning端子もUSB-Cとなり、本格的な高速充電が可能になったのだ(なお、AndroidスマホではマイクロUSBという端子が使われていた時期もあったが、アップルは採用していない)。


USB端子の種類(筆者撮影)

80%溜まったらバッテリー保護のためゆっくりと

USB-Cケーブルを使う場合、PD(パワーデリバリー)という規格があり、iPhoneをはじめとしたスマホも、現在はこの規格に準拠した仕組みで充電される。

PDの規格に合致したデバイスなら、充電される側と充電する側に、充電をコントロールするためのチップが搭載されており、それぞれが情報をやり取りして、電圧と電流をコントロールする。

PDの規格では、電圧は5V、9V、15V、20V、48Vが設定されており、現在の最新規格では48V×5Aで240Wまでの充電が可能とされているが、そこまでの出力を必要とするデバイスは筆者はあまり見たことがない。

この規格の中で、iPhoneで関係してくるのは5Vと9V。

iPhoneは、バッテリーを傷めないようにしつつ、可能な限り高速充電するために、ほかに類をみないほど非常に精密な充電制御を行っている。


小さくても最新型のiPhoneをフルスピードで充電可能なAnkerのNano 3(30W)。iPhoneなどスマホだけの充電を考えるなら、筆者一押しの充電器だ(筆者撮影)

iPhoneのバッテリーが空に近い状態で充電器に繋ぐと、まず5Vで起動して通信、リセットしてPD充電のモードに入る。

続いて残量が急速充電を必要とするほどすくなければ、9Vに変更し、最大3A(つまり27W)で急速充電を開始する。

しばらく急速充電した後、9Vのまま徐々に充電電流を下げていき、そして9Vで可能な限り充電した後、5W(つまり約0.55Aぐらい)になるまで調整してから、電圧を5Vに切り替え、しばらく5V×1A=5Wで充電。最終的にバッテリーがいっぱいになってきたら、徐々に電流を下げながら満タンになるまで充電する。

つまり、バッテリーが空に近いときは9Vで大きな電流で充電し、途中で5Vに切り替え、電流量を徐々に下げていくという実に複雑な制御をしているのだ。

ゆえに、『最初の急速充電を行うために9Vを出すことができ、途中から5Vに切り替えることができるPD対応の27W出力の充電器が必要』というのがより正確な答えだ。

また、最大の電流量はバッテリーの性能向上とともに変化する可能性があるので、現時点ではiPhone 15 Pro Maxでは27Wまで許容するようだが、将来的のiPhoneは、さらに大きな電力で急速に充電できるようになる可能性が高い。

非接触充電は熱を持つので涼しい場所でのみ使う

もちろん、充電ケーブルに電力に応じた性能が必要だが、USB-Cケーブルは少なくとも60Wまでは許容することになっているので、仕様的にはどのUSB-Cケーブルでも問題なく使えるはず。

しかし、たとえば基本的に通信を目的に作られた細いUSB-Cケーブルに大きな電流を流すのは、筆者的には少し不安だ。充電に使うなら、理想は充電アダプターに付属してきたもの、そうでなくても充電用の大きな電流が流れても不安のない太さ、信頼できるブランドのケーブルを使用したい。

MagSafe、つまり非接触充電は、最低で5W、仕様的にアップルの条件を満たしたものなら15Wまでの充電が可能。

ただし、非接触充電はコイルの電磁誘導を使った仕組みなので、暑い季節に非接触充電を行うと、熱を持ちすぎることがある。この熱がバッテリーを傷める可能性があるので、温度が高くなりすぎた場合、充電速度が制限される。


MagSafeは便利だが熱に弱い。熱を持ちすぎると充電速度が制限されるので、夏は冷房の利いた涼しい部屋で使おう(筆者撮影)

夏の暑い季節や、そうでなくても3Dゲームなど負荷のかかる作業をiPhoneにさせながら非接触充電を行うと、温度が上がりすぎて気が付かないうちに充電速度が抑制されていることがある。そうでなくても、温度上昇はバッテリーを傷めてしまうので、できれば避けたい。

非接触充電は、涼しい場所で、iPhoneに重い処理をさせずに、ゆっくりとつぎ足し充電に使う……ぐらいのイメージで使ったほうがいい。直接USB-Cケーブルで充電したほうが、高速だし、バッテリーに負担をかけずに済むはずだ。

まとめると、直接USB-C、もしくはLightningで、27W以上の出力の充電器で、しかも熱を持たない状態で充電するのが一番速いというのが結論だ。

(村上 タクタ : 編集者・ライター)