(写真:mits/PIXTA)

感情・表情分析の専門家として、保護者や小・中・高の教員向けにセミナーを行うなかで、「子供のスマホ利用は、心の成長に悪影響を与えるか?」という質問をよく受けます。その背後には、「スマホばかりいじっている子供をどうにかしたい」「何時間までの利用なら問題ないのか」という思いがあるようです。

そこで本日は、スマホを含め、デジタルメディアの利用と子供の心の成長の関係について解説したいと思います。

デジタルメディアは子供の心の成長に悪影響?

結論から書きます。一つは、デジタルメディアの利用時間よりもコンテンツに注意を払ったほうがよい、ということ。もう一つは、保護者のデジタルメディア利用が子供に悪影響を与えうる、ということです。なぜ、こう言えるのでしょうか。ナビら(2022)の調査が、興味深い知見を教えてくれます。

ナビらは、スマホ、コンピュータ、テレビ、ビデオゲームなどのデジタルメディア、読書や屋外活動などの非デジタルメディアに関わる平日・休日における子供の利用・活動時間、および、子供の感情理解度・共感力・感情調整力について、5歳から12歳の子供を持つ400人の保護者に尋ねました。

子供の感情理解度というのは、正確には情動知性といい、「私の子供は、自分の『嬉しい』ときを知っている」「私の子供は、自分の感情が変化するのを理解している」「私の子供は、ポジティブな感情を強調し、ネガティブな感情を抑えるというコントロールをする」というような質問から把握します。

共感力は、「私の子供は、自分より恵まれない人に対して、優しく心配する気持ちを持つ」というような質問から把握します。感情調整力は、「怒りっぽく、かんしゃくを起こしやすい、衝動的である」というような質問から把握します。こうした質問項目に対して、自身の子供が当てはまる度合いを保護者に答えてもらいました。

また、保護者自身のデジタルメディア利用状況も尋ねました。さらに、物語に登場するキャラクターの感情について子供に質問したり、子供と話をしたりするかなど、子供との感情的関わりを保護者がどの程度持っているかについて尋ねました。

調査の結果、次のことがわかりました。

子供のデジタルメディア使用時間と子供の感情理解度・共感力・感情調整力に関連は見られませんでした。つまり、デジタルメディアの使用時間は、感情に関わる心の成長に悪影響を与えるわけではないようです。

この研究では、デジタルメディアのコンテンツは問うていないのですが、暴力的な映像を笑顔で楽しむ子供とその後の子供の暴力的行為に関連を見いだす研究などがあることから(例えば、Ekmanら, 1972)、使用時間よりコンテンツに気をつけたほうがよさそうです。

子供の前で注意が分散され、無表情になる

一方で、保護者が子供のいるところで携帯電話を使用するほど、子供の感情理解度が低くなることがわかりました。ミュルスキーら(2018)の研究から、保護者が子供の前で携帯を使うとき、注意が分散され、無表情になることがわかっています。

このことと併せて考えると、子供は自身の言動や行為を保護者にちゃんと見てもらえず、保護者から有益な反応も得られず、ゆえに心の成長にとって必要な感情的関わりが希薄になると想像できます。

国立青少年教育振興機構による調査(2018)によれば、「私が、親と話そうとするとき、親は『時間がない』、『いま忙しい』などと言う」という設問に対し、「よくある」「たまにある」と回答した小学生の割合は44.1%、中学生の割合は36.5%となっています。

また、「親は携帯電話やスマートフォンを使用しながら私と話す」という設問に対し、「よくある」「たまにある」と回答した小学生の割合は47.4%、中学生の割合は47.5%という結果でした。

このことから、日本の少なくない子供たちが、親からの反応や関わりを求めているにもかかわらず、得られない、得られたとしても、注意が分散されていると考えられます。

ここで、子供の心の成長に寄与するためにできることが見えてきます。すなわち、子供と関わるとき、子供が関わってほしいと望むときは、携帯電話やスマートフォンを見ない、ということです。

「自分の行為に反応してくれている」と感じてもらう

「子供の可愛い顔を撮影するからスマホは必要なの」という場合には、お子さんの行為に、「あら、可愛い!」「素敵!こっち見て」「すごいね!」と言葉、表情、声、身体などで反応を見せることと併せて撮影すること。お子さんに、「自分の行為に親は反応してくれている」という感覚を抱いてもらうことが重要なのです。

「さらに積極的に子供と関わりたい!」と思われる保護者に、本調査結果の続きがあります。

子供の読書時間が長いほど、子供の感情理解度が高くなることがわかりました。また、子供との感情的関わりが多いほど、子供の感情理解度および共感力が高くなることもわかりました。

このことから、子供に物語を読み聞かせながら、登場人物の感情について想像したり、共感を示したり、感想を尋ねたり、感想を交換しあったりする。本が難しければ、テレビドラマや一緒に映画を楽しみながら、こうしたことをするのもいいかもしれません。子供の心の成長を促すことができるでしょう。

お盆休みを利用して、感情について想像をめぐらす時間をお子さんと共有してみてはいかがでしょうか。

■参考文献

国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター. インターネット社会の親子関係に関する意識調査報告書−日本・米国・中国・韓国の比較−. 国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター. 2018.
Ekman, P., Liebert, R. M., Friesen, W. V., Harrison, R., Zlatchin, C., Malmstrom, E. J., & Baron, R. A. (1972). Facial Expressions of Emotion while Watching Televisied Violence as Predictors of Subsequent Aggression. In Comstock, G. A., Rubinstein, E. A., & Murray, J. P. (Eds.), Television and Social Behavior, Vol. V: Television’s Effects: Further Explorations (pp. 22-58). Washington, D.C.: U. S. Government Printing Office.
Myruski, S., Gulyayeva, O., Birk, S., Pérez-Edgar, K., Buss, K. A., & Dennis-Tiwary, T. A. (2018). Digital disruption? Maternal mobile device use is related to infant social-emotional functioning. Developmental science, 21(4), e12610. https://doi.org/10.1111/desc.12610 
Nabi, Robin & Wolfers, Lara. (2022). Does Digital Media Use Harm Children’s Emotional Intelligence? A Parental Perspective. Media and Communication. 10. 350-360. 10.17645/mac.v10i1.4731.

(清水 建二 : 株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役)