この計算を「計算せずに5秒で解く人」の頭の中とは?(筆者作成)

「算数から勉強をやり直して、どうにか東大に入れた今になって感じるのは、『こんなに世界が違って見えるようになる勉強はほかにない』ということです」

そう語るのが、2浪、偏差値35から奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏。東大受験を決めたとき「小学校の算数」からやり直したという西岡氏は、こう語ります。

「算数の考え方は、『思考の武器』として、その後の人生でも使えるものです。算数や数学の問題で使えるだけでなく、あらゆる勉強に、仕事に、人生に、大きくつながるものなのです」

そんな「思考の武器」を解説した43万部突破シリーズの最新刊、『「数字のセンス」と「地頭力」がいっきに身につく 東大算数』が刊行されました。

ここでは、複雑な計算も「置き換える」ことで「計算せずに」解けるようになる工夫を解説してもらいます。

複雑な計算を「計算せずに解ける」人の頭の中

みなさんは、算数や数学ができるタイプでしょうか? それとも、算数や数学が全然できないタイプでしょうか?


前回の記事(5秒で「441−96」を暗算できる人がやっている工夫)では、「441−96」をすぐに解けるかどうか、という点から、数に強いタイプとはどういう人なのかについてみなさんにお話ししました。

この問題は、「綺麗な数に直してから考える」という工夫をすることで、暗算でも簡単に解けるようにするものでした。要は「直感的にわかりやすい形に変換する」ことで、問題が簡単になるわけです。

今回も、前回とは違う角度から、数に強いタイプの人なら解ける、「直感的にわかりやすい形に変換すると簡単になるクイズ」をみなさんに出題したいと思います。

まずはこの問題をご覧ください。

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すごく面倒な問題ですね。この問題は、そのまま考えても答えを出すことは難しいです。「1/2+1/4は、3/4だな。で、それに1/8を足すと、7/8で……」と考えてしまうと、計算量が膨大になってしまうからです。

でもこの問題、あることに気付くと、一瞬で解けてしまいます

この問題を考える上で重要なのは、「置き換えて考える思考」です。算数や数学ができる人は、図に置き換えて物事を考える思考が優れているのです。そのおかげで計算のスピードが速く、問題を解決する能力にも長けているのです。

計算式を「図」に置き換える

今回の問題で考えてみましょう。この式は、1から1/2、1/4、1/8……をどんどんマイナスしていっていることがわかりますよね。これを、図的に表すとどうなるでしょう?

1cm×1cmの正方形の折り紙を考えてみましょう。これの面積は1cm2ですね。そしてこれを真ん中で折ると、どうなるでしょう? 面積が半分に減って、1/2cm2になりますよね。図にすると、下のようになります。


これは、「1−1/2=1/2」と同じですね。そして、1/2になった折り紙をまた半分に折ると、1/4分の面積が減って、面積は1/4cm2になりますよね。これは、「1−(1/2+1/4)=1/4」と同じ意味になります。図にすると、下のようになります。


ということで、「1−(1/2+1/4+1/8+……)」というのは、正方形の折り紙をどんどん半分に折っていくのと同じになるのです。これに気付くことができれば、答えは簡単です。

この図形の面積は、1/2に折ったなら1/2残り、1/4に折ったなら1/4残り、1/8に折ったなら1/8残ります。真ん中で折っていくので、次の図のように小さくなっていくことになるのです。


この問題では、1/1024で折るところまでが求められています。ということは、「正方形の折り紙を10回折ったときに面積はどうなるのか」という問いと同じになるわけですね。

そしてその答えは、ここまで確認したとおり1/1024に折ったわけなので1/1024となります。これが答えです。

計算なんてほとんどしていませんが、図に直せばこの答え以外は考えられないことがわかります。

奇数の合計を「正方形の面積」に置き換える

このように、式を図に置き換えると解けるようになる問題というのは多いです。こんな問題も考えてみましょう。

1から順番に奇数を足していって、50番目の奇数である99を足したときの合計はどうなるか。
つまり、
「1+3+5+7+……+99」
の答えは?

この計算って、パッとはできませんよね。順番に計算していっても、50回近く足し算をしなければならないからです。

この奇数の足し算は、まったく別のものに置き換えることができるのです。

それは、先ほど同様に、正方形です。次の図をご覧ください。


1タイルが1cm×1cmの正方形を敷き詰めて、新しい正方形を作っていくことを想像してください。1タイルの正方形を作った後、2cm×2cmの正方形を作るためには、右下に逆L字のタイルが3つ必要ですね。これで、1つのタイルに3つのタイルが加わって、4タイルの正方形ができました。

では、次に3cm×3cmの正方形を作るためにはどうなるでしょう? これも、同じことですね。4タイルに加えて、右下に逆L字のタイルが5つ必要です。これで4+5=9タイルの正方形ができます。

もう気づいた人もいるかもしれないのですが、この「正方形作り」と「1+3+5+7+……」の計算は、一緒です。この正方形の面積が、奇数の足し算の合計と同じ数になるのです。

だから、3番目までの奇数の合計は3×3の正方形の面積と同じで9に、4番目までの奇数の合計は4×4の正方形の面積と同じで16に、50番目までの奇数の合計は50×50で2500になるのです。

このように、図に直す思考はとても有効です。計算式を正方形に置き換えてみたり、碁石を使って考えてみたり、タイルを置くように考えてみたり……。

「直感的にわかりやすい」はやるべきことの整理にも

他にも、東大生は自分のやるべきことの優先順位を考えるために、マトリクスで考えるという思考法を実践している人も多いです。例えば、X軸を「すぐにおわるか時間がかかるか」、Y軸を「締め切りが早いか先か」で分けてグラフを作ると、このようになります。


こうすれば、やるべきことが可視化されて、どれから手を付けるべきなのかが明確になっていきますよね。

数式ややるべきことを図式化する思考法は、いろんな場所で応用できるものです。算数や数学の問題を解くだけでなく、実社会でも応用可能なものなのです。

この思考法をぜひ、意識してみてもらえればと思います。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)