Image: Artem Golub / Gizmodo

宙ぶらりんなのに値段だけ高すぎ、と。

Microsoft(マイクロソフト)のPCブランド「Surface」の2-in-1モデル、Surface Proの第11世代が発売されました。パフォーマンスが上がったのはもちろんですが、時節柄AI機能に特化したCopilot+ PCである、という触れ込みです。

…が、米GizmodoのKyle Barr記者のレビューによると、値段に納得できる要素が、処理性能くらいしかないみたいで…。

この記事の要点

・Surface Pro(第11世代)を試用してみたが、欠点が目につき、実質約29万円/約37万円という価格には納得がいかなかった。
・目玉のAI機能は全体的に無意味。デザインも新味に欠ける。
・いい部分もちゃんとある。明るい有機ELディスプレイは見やすく、パフォーマンスもApple M3を超える。エミュレーターのPrismでARMチップ搭載機であるがゆえの制約を緩和しており、アプリはほぼほぼ動作する。
・ただ、トータルで見ると、設定された価格を納得させるほどの魅力があるとは言いがたいのだ。

新Surface Proは、パフォーマンスだけはしっかりしてますが、価格に見合っていません。

2024年のSurface Proは、キーボードとペンのセットが別売りであることを考慮すると、高すぎです。性能は十分ですが、互換性の問題で使えないアプリがあったり、無意味なAI機能が入ってたりするのを補えるほどじゃありません。

いいところもあるけど、肝心のAI機能が無意味

Copilot+ PCを標榜するSurface Proを数週間使ってみましたが、うんざり、以外の言葉が見つかりません。使っている間、体中の血の温度がつねに若干上がってる感覚があり、ときには煮えたぎるほどでした。

鳴り物入りのCopilot+ PCにはもともと期待してませんでしたが、それでもガッカリです。Surface Proの新しいチップは、レビュー機ではSnapdragon X Eliteで、たしかにたいていのタスクにおいて十分ですが、まるで何でもできるかのように誇張されてます。AI系の機能は、今のところ意味がありません。

いいところもたくさんあります。キーボードをひざにのせ、スクリーンをデスクに置いてのタイピングはよかったです。明るい有機EL画面は、長時間の作業も楽になります。どんなタスクでも(それが互換性のあるものである限り)十分速くこなせます。

実は超高価

でも最大の問題は、価格です。Surface Proの最低価格は999ドル(日本価格20万7680円)ですが、それはほとんど事実の歪曲です。新デザインのフレックスキーボードが450ドル(同8万80円)で別売りなので、普通のノートPCに相当する、画面とキーボードを手に入れるには、ベースのSnapdragon X Plusチップ搭載モデルでも1,500ドル(同約29万円)弱払わなきゃいけません。

レビュー機は、16GBのRAMと512GBのSSD、よりパワフルなSnapdragon X Eliteチップを搭載していて、1,950ドル(同37万5760円)です。PCとしてはなかなかのお値段ですが、タブレットにもなるからその分お得かというと…実際にはうまく使えない部分もあり、全然お得とは言えないと思います。

キーボードには、ワイヤレス接続非対応な代わりに値段が半額くらい(日本価格4万5320円)になってるモデルもあります、一応。

Windows 11にタブレットモードがないのが痛い

Surface Proは見た目、タブレットのようです。タブレットと同じ電源ボタン、音量ボタンがありますが、タブレットではありません。Microsoftは「もっとも柔軟なノートPC」と言っていますが、言い換えれば、キーボードなしではうまく使えないコンバーチブルマシン、なんです。

そもそもWindows 11には、タブレットモードがありません。本体をタテに持てばディスプレイもタテ表示に切り替わる、それだけです。Microsoftは去年のSurface Proでもキーボードを同梱していませんでしたが、2024年モデルではキーボードの不在がすごく大きく感じられます。キーボードなしで999ドルの本体も高いし、別売りのフレックスキーボード(ペン込み)の450ドルも高いです。

新型チップ搭載ゆえに「まだうまく動作しないアプリ」がある

Copilot+ PCはどれも仕事用デバイスという位置づけですが、Surface Proに入ってるようなARMベースのチップは、まだWindowsエコシステムでは新参者であることに要注意です。

Microsoftは2019年にもARMベースをトライしてましたが、対応するアプリが少なすぎて、それ以来ARM搭載の野望は引っ込めてました。

2024年の今でも、よく使われるアプリのうち、Surface Proのチップでネイティブで動くものはまだごくわずかです。エミュレーターのPrismが新たに入りましたが、Prism上でうまく動作しないアプリもあります。僕の場合、いつも仕事で使っているアプリの中でARM対応バージョンがないものもありました。Apple Musicのように、ARM上のWindowsに対応していないアプリもあります。

バッテリーがぜんぜんもたない?

さらに厳しいのは、バッテリーが1日持たないどころか、数時間しか持たないっぽいことです。この問題はMicrosoftに直接伝えていて、レビュー機固有の問題なのか、使い方のせいなのかを切り分けようとしてるところです。

普通のブラウジングやタイピングをしてるだけでもバッテリーがどんどん減っていきました。仕事用PCだとバッテリーが1日持つことに慣れきっていたので、こんな高級デバイスでそれができないのはありえないと思います。

「高いだけ」と思ってしまった…

ARMはたしかに将来有望かもしれませんが、現状では制約がありすぎます。ただARMの問題を抜きにしても、この「フレキシブルなノートPC」は、自分のアイデンティティがわかっていない、高価なだけのデバイスのように見えます。

デバイス面:「新型PC」って感じがしなかった

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今回Microsoftが提供してくれたレビュー機は、見た目は悪くありません。ブルーの色も落ち着いていて、895gという軽さのわりには感触がしっかりしています。

新たにハプティックタッチパッドを載せたキーボードも安定感があり、タイピングには驚くほどのクリック感があります。手のひらでの触り心地はよく、パームリジェクションの問題はたまにある程度でした。

それでも僕は、Microsoftにはユーザーが求めるものについて、古めかしい感覚しかないんだなと思ってしまいました。

Surface Connectポートは従来通りで、世にある独自ポートのどんなものよりスペースを取ります。Thunderbolt 4で充電できるのもいいんですが、このポートをもっと実用性の高い、たとえばSDカードスロットに入れ替えたほうがよくないでしょうか。

今までのSurface Proと同様、ひざ上での収まりがよくなく、テーブルに画面をのせて、キーボードを取り外してひざにのせるほうが快適です。フレックスキーボードの取り外しは簡単ですが、キーボードを使わないなら、Windows 11 PCをタブレットとして使う理由はほとんどありません。

スタイラスもちょっとは便利で、スクロールが簡単になるのはいいし、ハプティック(触覚)フィードバックもあります。でも、ペイントアプリでスタイラスを使ってAIコクリエイターモードを試してみましたが、カーソルは正確さとスピードを欠いていました。

Surface Proのデザインは、もっと使いやすくなってもよかったはずです。Surface Proのスリムペンには、Apple Pencil Proほどの柔軟性も、「バレルロール」みたいな独自機能もありません。キーボードもトラックパッドも基本の役割は十分果たせてますが、それ以外は全体に今までと変わってません。それでも価格は前より高くなっていて、向上したスペックもAIの機能もその値段の口実にはなりません。

スペック面:強力なCPU、でも言うほどじゃない

Microsoftいわく、Surface Proは、このクラスのPCとしては最大級のパフォーマンスです。彼らが想定するライバルは、AppleのMシリーズチップ搭載のMacです。そこで今回、Surface ProとM3搭載MacBook Airを直接ベンチマーク対決させてみました。

結果、そんなにドラマチックじゃありません。

Surface Proは、最新Macに搭載されてるベースのM3よりも確かにいい性能ですが、Microsoftが言うように「58%高い性能」ではありません。PCベンチマークのGeekbench 6では、マルチコアではSurface Proが15%いいスコアでしたが、シングルコアでは下回りました。Cinebench 2024のCPUベンチマークでも同じ結果でした。

Surface Proのスコアは、最初に「AI PC」を謳ったDell XPS 14のIntel Core Ultra 7 155Hも全部のCPUベンチマークで大幅に上回りましたが、もっとパワフルなIntelチップ搭載マシンとも互角に近い状態でした。

強力なゲーミングノートPCのCPUにはかないませんが、コンパクトなマシンの中で比べると、MacBook Airなどより長く使えそうなCPUではあります。

でも少し気になるところもあります。別のベンチマークでは、エンコードソフトウェアのHandbrakeを使い、4K動画を1080pに変換するのにかかる時間を測定しています。ここではHandbrakeのARM64バージョンを使っていて、Prismエミュレーション用ではないんですが、それでもSurface ProはM3搭載MacBook Airより長時間かかってました。

グラフィックス性能について

Snapdragon X Eliteチップはグラフィックス性能が売りではないので、それがベンチマークにも現れています。3D MarkのWild Life Extremeで比較したところ、Snapdragon X Eliteのスコアは6160に対し、ベースM3搭載MacBook Airのスコアは7561でした。

でも、単にサクサク動いてコンパクトな仕事用PCがほしいだけなら、グラフィックス性能はそんなに気にならないはずです。問題は、このパワーにより、前世代との価格差(もっといえば、普通のノートPCとの価格差)を正当化できるかということです。そのためにはソフトウェアの対応状況を考慮する必要がある…というわけで、次にソフトウェアの互換性を見ていきます。

ソフトウェア面:AI機能が微妙すぎた

Photo: Artem Golub / Gizmodo

自分の使うアプリがARMで動くかどうかなんて、多くの人は気にしてないことでしょう。Microsoftは、ソフトウェアがPrismエミュレーター上で動いていても、ユーザーにはわからないようにすると言ってました。それはたいていの場合その通りなんですが、アプリが動作するためにチップの性能が必要な場合はまたちがってきます

じゃあ、x64/x86(ざっくり言うとIntelやAMDのCPUが入ったPC──つまり今一般的なPC)で動くアプリは、どれくらいサポートされるんでしょうか?

ほとんどのアプリは問題なく動作する

ChromeからFirefox、Opera、Braveまで、Surface Proで問題なく動きます。ただArcブラウザのWindows版は動かなくて、インストールもできないし、Prismエミュレーターで動作もしませんでした。

Microsoft 365アプリは全部ARM向けに最適化されています。

Slackは普通のWindowsの機能と同じように動作してメッセージをポップアップさせます。

Photoshopをダウンロードしたところ、完全に問題なく機能しましたが、生成アート機能は全部クラウド側で動かしているようでした(せっかくのNPUが使えなかったのはなぜ…?)。

ただ、ARMやCopilot+に対応していないアプリを使いたい場合、厄介なことになります。今非対応のものは、今後も対応しない可能性が高いです。たとえばApple Music for WindowsをWindows Storeで検索しても見つからず、今知っている限りでは、Appleが対応する予定もありません。

とはいえほとんどのアプリは、Prism上でまったく問題なく動きます。ディスプレイの輝度のテストにDisplayCalを使ってるんですが、Surface Proでもとくにつまづくこともなく動かせました。

動作に制限があるアプリもあり

ただ、非対応のために制約を受けるアプリもあります。

PCやMacのテストにBlenderをいつも使ってるんですが、BlenderにはARM64バージョンがありません。Prismのエミュレーションを通した場合、あるシーンを処理させるのに5分かかりましたが、他の最近のPCでは平均3分以下です。Prismはほとんどのアプリでは使えるものの、負荷のかかるアプリに関しては動作が重くなってしまうようです。

ゲームは遊べるのか?

ということは、MicrosoftはARM搭載Copilot+ PCを、ゲーミングから極力遠いポジションに置こうとしていることになります。

Xboxのタイトルはうまくプレイできず

にもかかわらずMicrosoftは、Windows 11にXboxアプリをプリロードしています(PCでXbox Game Passにお金を払う人がいるでしょうか…?)

Microsoftは、ネイティブのXboxアプリにユーザーの持つタイトルをダウンロードしないようにしていて、クラウドゲーミングオンリーにしています。MicrosoftはMinecraftを傘下に所有していますが、Microsoft Storeからダウンロードすることもできません。「インストール」ボタンを押しても、待ち時間のグルグル表示が回り続けます。

それ以外のPCゲームは遊べなくもなさそう(タイトル次第)

とはいえ、任意のゲームアプリをダウンロードしようとすることを止めるものもありません。

僕は『バルダーズ・ゲート3』をSurface Proでプレイしてみて、最低の設定に限れば、比較的安定したフレームレートが出せることがわかりました。

Forbesでは、Surface Proでどのゲームがどれくらいプレイできるか(またはできないか)、詳細なテストをしています。

他のどんな今どきのPCと比べても、Copilot+ PCでのゲームはやりにくくてイライラします。

AIで画像生成やリアルタイム翻訳ができるけど、使い勝手はよくない

Surface Proで何ができるかはユーザー次第ですが、AIに関しては、売り文句通りの画期的な何かを期待しちゃダメです。

Copilot+ PCではどれも、ローンチ時点では、スクショ保存機能の「リコール」は使えません。でも長い目で見れば、それでいいんでしょうね。ユーザーのデータの安全性確保には、さらなる注意が必要なことがはっきりしています。またリコールは、使えるようになったとしてもデフォルトでは無効化されるようです。

それ以外のCopilot+ PC限定AI機能は、全体的に無意味です。

フォトアプリで画像をクリックして、AIリスタイルを使って画像をいじることは可能ですが、背景をぼかしたり前景にアシカか何か登場させて遊んだりする以外には、とくに役に立ちません。フォトアプリのイメージクリエーターとか、ペイントアプリのコクリエイターも退屈なおもちゃに過ぎません。

Surface Proには、音声や動画をリアルタイムに近い形で翻訳できるライブキャプション機能もあり、翻訳されたテキストは大きな透明ウィンドウに表示されます。でも僕がスペイン語の動画を見ようとしたときは、翻訳が思ったより遅く、トークが早い部分ではついていけなくなっていました。

AI画像生成はSurface Proのデバイス上で動きますが、生成中にプロセッサの限界が来ていることが見ていてわかりました。Copilot(MicrosoftのAIアシスタント)でクラウドベースで動くAI画像生成が使えるんですが、同じプロンプトを試した結果、比較にもなりませんでした。つまりSurface Proは、コンシューマー向けチップの中ではNPU性能が最高なのかもしれませんが、それでもクラウドにはかなわないようです。

さらに、たとえばCapCutやDavinci Resolveなどの新しいアプリは、NPUを活用しています。でもたとえばビデオ通話の背景ぼかしは、そもそもGPUに対しても、そんなに負荷が高くありませんでした。NPUはCPUやGPUの負担を減らせるという意味でナイスですが、PCを買う上での決め手にはならなそうです。

明るい有機ELディスプレイとしっかりしたWebカムはすばらしい

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Surface Proのすごくいいところは、明るくカラフルなディスプレイです。小さくて軽めのノートPCでYouTubeやNetflixを見るなら、これ以上のものはなかなかありません。

ピーク輝度は実測値が495ニトで、有機ELとしてはすごく高い値です。iPad Pro 2024のタンデムOLEDと同じくらいです。Surface Proを使った他のユーザーからは、文字が読みにくいとか白い部分の粒子の粗さといった問題が指摘されていますが、僕自身は数週間使っていてそういったことを感じませんでした。

Surface Proの機能でサプライズ的に良かったのはWebカムです。最近PCでWebカムに注目することはあまりありません。でも、撮れる画像の画質が、オフィスの暗い蛍光灯の下でもきれいで、いい意味で驚きでした。

バッテリーが1日もたなかった

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Surface Proのバッテリーは容量53Whrで、公式には14時間持つとされています。細かくいうと動画なら14時間、Webなら10時間もち、とにかく「終日もつバッテリー」のはずでした。

ベーシックな動画再生テストの結果、たしかにSurface Proでは、YouTube動画を14時間流し続けることはできました。

ただこういうテストより、実際使ってみた経験談の方が有効だったりします。

そういう意味では、Surface Proのバッテリーは、ほんの数時間使っただけで切れそうになりました。ごく基本的なタスクをやっただけ、輝度も最大ではなく、Windowsの設定は省電力モードでも、穴の空いたボートみたいに電力がどんどん流れ出ていく感じでした。

たとえば、朝に77%だったら、2時間くらい使った時点で50%以上使っています。省電力モードで画面輝度を下げても、朝の普通の仕事が終わる前には電力浪費しています。毎日いろいろ設定を試みましたが結局同じだったので、Surface Proというのは競走馬みたいな感じで、負けるとわかっていても走らずにはいられないのかな?と思ってしまっています。

レビュー機固有の問題なのか否か、Microsoftに直接問い合わせていますが、記事執筆時点ではまだ回答がもらえていません。

結論:性能だけでは欠点をカバーできず

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キーボードとスタイラスのセットが450ドルもするのは、どうも納得できません。Surface Proにはちがうキーボードも使えますが、本体とくっつける磁気パーツがなければ、持ち運ぶときに画面を保護できません。高価なオプションを買わずにはいられないように持っていくやり方、MicrosoftはAppleから学んでしまったんでしょうか?

(でもiPadは、300ドルのMagic Keyboardを買わなくてもタブレットとしてちゃんと使えます)

Surface Proは日々の利用に十分な程度にパワフルです。ただ、ARM64バージョンに非対応のアプリのパフォーマンスには、目をつぶる必要があります。

Surface Proが何なのかは、よくわかりません。タブレットとPCと、新ジャンルのAIデバイスの間で宙ぶらりんになっています。

性能がちょっと高いだけのマシンに2,000ドル近く払うよりは、もっと使いやすくて安価なマシンを買ったほうが、満足度が高いと思われます。