人口密集地を低空飛行する航空機(写真:時事通信)

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都知事選の主要4候補のうちで、蓮舫氏は「廃止」、石丸氏は「代替ルートの検討」を表明した羽田新ルート。ルート下の住民たちはどのような生活を送っているのだろうか。声を聞いた(前後編の後編)。

■騒音で、子育てができない、視覚障がい者が道を歩けない

「長女が生まれたころ、飛行機が自宅マンションのすぐ上を飛ぶようになりました。すさまじい轟音で、昼寝をさせていても、すぐ起きて泣き出してしまうんです。しかも、いつ飛ぶかわからないのがとてつもないストレスで、飛行機が飛び出して娘が泣き始めると、私も涙がこぼれてきて……。育児ノイローゼになって心療内科に通いました。第2子も考えていたのですが、この環境では諦めざるを得ません」(品川区在住30代女性)

2020年3月、羽田空港の発着枠を増やすために運用が始まった新ルート。年間の約4割を占める南風時に、新宿区、渋谷区、品川区などの東京都心や川崎市臨海部などの上空を、旅客機が低空飛行するようになったが、激しい騒音が子育て世帯を苦しめている。

また、音の問題はこんな影響も。

「緑内障の影響で視力が悪く、道を歩く上で音は大事な手掛かりです。飛行機の音で、近づいてくる自動車や自転車の音が聞き取れず、接触したり、ひかれそうになったことが何度もあります。飛ぶ日が事前にわかっていれば、外出を避けるなどができるんですが、風次第ということなので……。外出先でひとたび飛び始めると、まるで真っ暗闇に突き落とされたようになるんです」(港区在住60代女性)

音に敏感な乳児や、音を頼りに生活をしている視覚障がい者ほど、顕著な影響を受けているのだ。

■人口密集地で東京タワーより低空を飛行

ルート直下の品川区民で、「羽田増便による低空飛行ルートに反対する品川区民の会」共同代表の秋田操さん(85)は、騒音被害についてこう語る。

「南風のときは15時から19時まで、最大で1時間あたり44本の旅客機が上空を低空飛行しています。こんな人口密集地上空を飛ぶなんて、世界でも前代未聞です」

秋田さんが自宅周辺で測定したら、77デジベルあったという。これは、幹線道路近くの自動車騒音なみの数値だ。

「とくに南風の多い夏場は窓を開けていることも多いので、飛行機が上空を飛ぶたびにテレビの音や電話の会話が聞き取りにくい。ものすごく威圧感もあります」

品川区の大井町や天王洲アイル付近では、上空を飛ぶ旅客機の高度がわずか300メートル。東京タワー(333メートル)より低いところ飛んでいることになる。

騒音に加え、“落下物”の懸念も。2022年3月には、新ルート上空にあたる渋谷区のテニスコートで、旅客機からのものと疑われる直径5cmほどの氷塊が3〜4個落下した。

「国交省は、『新ルートを飛ぶ旅客機から落下した氷塊かどうかは確認できない』と言っていますが、全国主要7空港で年間約1,000件の落下物が確認されていますから、いち空港あたり年間約140件の落下事故が起きていることになります。

アメリカで2009年に、両エンジンの推進力を失った旅客機が、ハドソン川に不時着して奇跡的に乗客も地域住民も助かったという事故がありました。品川上空にはそんな川もないので、万が一墜落事故が起きれば大惨事になります。〈他の地域に危険を押し付けるのか〉と言う方もいるが、住民対立に持ち込んで政治が責任逃れをすることのないようにしてほしい」(秋田さん)

品川区で昨年行ったアンケート調査でも、約45%の住民が、騒音や落下物への不安など「暮らしに何らかの影響がある」と回答。現在、ルート直下の住民29人が運用の取り消しを求めて国を提訴している。

7月7日に決まる東京都知事は、住民の声に耳を傾けてほしい。