テレビ東京は、昨年3月28日に放送した「激録・警察密着24時!!」で過剰な演出や不適切な内容があったとして石川一郎社長らの役員報酬の一部返上などを発表。今年5月28日に謝罪番組が放送され、5月30日には石川社長が定例記者会見で謝罪し、今後、警察密着番組を放送しないと発表した。

【画像】「本当に自殺する」「ちょちょちょダメ!」…“過剰な演出”が問題になった「警察密着24時」のワンシーン

 さらに6月18日付でこの番組について、BPO(放送倫理・番組向上機構)の審理入りが決まった。番組で取り上げられた会社役員らが、番組の放送時点で逮捕された4人のうち3人が不起訴処分になっているにもかかわらず、その事実に言及せず、さらに過度なナレーションやテロップを付けて放送するなど、4人の名誉を著しく傷つけたなどとして申立てを行ったという。

 テレビ東京の説明に対しては、警察という公権力とテレビという報道機関が共謀した「やらせ」ではないかという強い批判が上がった。テレビ報道を研究する上智大学の水島宏明教授によれば、この番組を悪質な「やらせ」だと考えるべきだという。何が問題だったのか、あらためて検討する。(全2回の1回目/後編に続く)


テレビ東京「激録・警察密着24時!!」より(2023年3月28日放送)

◆ ◆ ◆

通常は撮影できないはずのシーン

 テレビ東京の「激録・警察密着24時!!」では「鬼滅の刃」のキャラクターグッズの類似品に関連して愛知県警が商品を取り扱っていた会社の幹部4人を不正競争防止法違反容疑で逮捕するまでを警察側の視点で、ドキュメンタリータッチで描いた。押収した商品を警察官がその場で「アウトだ!」と評価する様子や、4人の顔写真をホワイトボードに貼って「最後が今回の主犯。こいつを調べていくと……」などと語り合う捜査会議の様子。そこに描かれていたのは、通常なら撮影できないはずのシーンの数々だった。

 テレビ東京はこれらの再現映像について、「再現」というテロップを入れて注意喚起をすべきケースだったが、それをしなかったのは「確認漏れ」だと釈明した。

 さらに、4人のうち3人を検察は不起訴にしている。そのことは放送前にわかっていたはずなのに番組では触れず、「4人が逮捕された」という結末を強調して番組が放送された。

 テレビ東京がこの問題で放送した謝罪番組や公式ホームページ、5月30日の社長会見の議事録を筆者が見た限り、問題の重大性を過小評価しようとするかのような姿勢が目につく。なぜそうなったのか。それが詳しく説明されない。テレビ東京は記者会見で「確認不足」「確認漏れ」があったと言うばかりだ。

 通常、こうした番組は春と秋の番組改編期に放送される。制作するのはテレビ局ではなく規模の小さな制作会社である場合がほとんどだ。制作会社のディレクターが小さなカメラ持参で全国各地の警察を密着取材した映像を集めて編集し、テレビ局が最終チェックして放送する。テレビ東京は不起訴などの事実を確認して放送すべきだったのに確認漏れでそれをしていなかったことが問題だったと説明した。

警察24時」ものの一線を超えた

 こうした「警察24時」ものの番組ではパトロール隊に同行したり、交番の業務を撮影していると違反行為を働く「困った人物」が見つかり警察がその場で逮捕したり補導や摘発するという映像が大半のシーンを占める。警ら中の警察官たちの様子を密着取材しているうちに偶然撮影できたリアルな映像などである。テレビ東京のこの番組でもそうしたシーンが放送されていた。

 しかし、今回の「激録・警察密着24時!!」最終盤で登場したコーナーはこうした「警察24時」ものの一線を超えていた。通常ならば撮影できないはずの、誰が首謀者なのか、どういう容疑で逮捕するのかといった捜査情報の秘密に関するシーンが撮影されていたからだ。

 筆者はこの場面を見た時に「ここまで撮影してもいいものなのか? 警察は撮影を許すのか?」と強い違和感を覚えた。

 番組では愛知県蟹江警察署の捜査員がゲームセンターの景品になっていた「鬼滅の刃」のコピー品らしき商品を回収して持ち帰ったダンボール箱から一つひとつ取り出して「こりゃあすごい」「(「鬼滅の刃」の)キャラクターのまんまだわ」「(ゲームセンターの)店主は本物だと思っちゃうよね」「これはちょっと悪質でしょう」などと話す映像が出てくる。

 テレビ東京の説明によると、これらの場面は実際に捜査員が回収した商品をリアルタイムで確認している場面ではなく、実は事後に、警察官に「再現」してもらったものだという。つまりテレビの撮影のために後から警察官たちに“演じてもらった”シーンなのだ。

 蟹江署には愛知県警本部からこうした著作権関連のスペシャリストとして生活経済課の石川完孝警部が派遣されて、この捜査では陣頭指揮を執っている。

「法律に照らしても『鬼滅の刃』は爆発的な人気があって、子どもたちも対象にしている商品がグレーゾーンで流通しているようでは大きな問題になる」(石川警部)

 彼と蟹江警察署長だけがこの捜査に登場する中で顔にボカシがない警察関係者だ。

 捜査本部では回収した商品が許諾の取れているものなのかを「鬼滅の刃」の権利者に確認してもらった結果を他の捜査員が石川警部に報告するという場面も出てくる。

「ゲームセンターから押収した商品について、著作権協会を通じて『鬼滅の刃』の権利者に確認してもらったんですけど、許諾していないという回答が得られたので」(捜査員)

「ない? 許諾ない?」(石川警部)

「模倣品の可能性が濃厚になりましたね」(捜査員)

 ここで、「著作権協会」からの回答の映像が差し込まれる。

「両社とも許諾していない旨の確認が取れています」「権限外での商品販売と言うことで間違いありません」などという文字を読みとることができる。

 石川警部と他の捜査員たちは打ち合わせをしている。

「許諾がなきゃ、商標法と著作権法と(関連法は)あるんですけども、不正競争(防止法)で行きますか」(石川警部)

 特に「鬼滅の刃」に登場する市松模様などは日本古来の柄・デザインであるため著作権法での摘発は難しいと判断して、不正競争防止法での摘発を考えたとナレーションで説明している。

「権利も取って正規の商品として流通させるべきモノを流行りに乗っかって、同じモノをコピー作って、何の努力もなく流通させてしまう。許すべき行為ではないと思います」(石川警部)

問題は「再現」テロップの有無ではない

 こうした捜査本部内の警察官同士の会話が映像になることは極めて珍しい。容疑者がクロなのかシロなのかを協議する、警察の捜査のデリケートな場面に部外者であるテレビマンがいてカメラを回すことは現実的には考えられない。

 テレビ東京は、こうした捜査員同士の会話は、摘発の後で捜査員たちに演じてもらった「再現」だと説明している。社長らの謝罪会見では本来であれば「再現」とテロップをつけるべきだったのにつけなかったことが問題だったと言っていた。

 だが、考えてみてほしい。通常テレビドキュメンタリー番組や報道番組でどうしても撮影することが困難で「再現」に頼らざるを得ない場合がある。その現場にカメラが入ることがどうしても不可能なケースで、しかし映像でその場面を再現して表現する方がわかりやすい場合だ。

 典型的なのは政治家同士の密室でのやりとり。たとえば今なら岸田首相と麻生自民党副総裁の会談の様子などがありうるだろうか。今後の政局を決めるような重要な会談について、報道番組で記者たちが集めた綿密な情報を元にして「再現」していく。

 でも、それは俳優など、その当人ではない「別の人」が演じるというのが通常の再現方法だ。こうした場面で岸田首相や麻生氏が自分で演じる姿を想像してみよう。当の本人が演じるケースはかえって不自然でウソくさくなってしまう。当の本人が演じることは何らかの意図があると考えられる。

 このため、問題はテロップをつけなかったことではないと筆者は考える。この説明は詭弁ではないだろうか。かつて行った過去の行為を担当する警察幹部に演じさせたにもかかわらず、「再現」というテロップをつけなかったのは実はつけるとかえって不自然になるから、番組制作側が意図的につけなかったと考える方が自然だろう。つまり、再現の映像なのに再現であることを隠してリアルなものだとして放送しようとしていたのではないかと思われる。

「本当に自殺する」「ちょちょちょダメ!」テレビ東京「警察密着24時」が“過剰な演出”に走ってしまった深刻なワケ〉へ続く

(水島 宏明)