自然界の動物は特殊な感知能力や危機察知能力によって、広大な自然からエサを見つけ出したり外敵から身を守ったりしています。主にアフリカに分布するペリカン科のハダダトキは、「第六感」と呼ばれる優れた知覚能力を持っていますが、それにもかかわらず生息地を追われる危機にある理由について、南アフリカにあるケープタウン大学のアフリカ鳥類学研究所で研究を実施したカーラ・ジャクリーン・デュトワ氏が解説しています。

Good vibrations: remote‐tactile foraging success of wading birds is positively affected by the water content of substrates they forage in - du Toit - Journal of Avian Biology - Wiley Online Library

https://nsojournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jav.03243

Hadeda ibises’ ‘sixth sense’ works best in wet soil: new research is a wake-up call for survival of wading birds with this superpower

https://theconversation.com/hadeda-ibises-sixth-sense-works-best-in-wet-soil-new-research-is-a-wake-up-call-for-survival-of-wading-birds-with-this-superpower-228854



ハダダトキはサハラ以南のアフリカでは最もよく知られている鳥類の一種で、朝早くに大きな声で鳴く特徴的な鳴き声から英名および和名がつけられています。多くは川沿いの森林や沼地、マングローブなど水辺の近くに生息しており、昆虫や甲殻類、ミミズなどをエサとしています。

ケンブリッジ大学でポスドクとして研究をするデュトワ氏は、ケープタウン大学のフィッツパトリック・アフリカ鳥類学研究所で博士課程を過ごしており、その時からハダダトキについて研究をしていました。デュトワ氏の研究では、トキなどの海岸に生息する鳥類の多くが持っている「遠隔触覚」という土や水の振動を感知することで目に見えない地中や水中のエサを見つける能力を、ハダダトキも有していることが明らかになりました。

クチバシの構造から、ハダダトキが遠隔触覚を使用していた可能性が高いことは以前から予測されていました。そこで研究では、音や匂いといったさまざまな感覚の手がかりが、動物の刺激を感知する速度にどのように影響するかテストする一連の実験を行いました。実験では、土とミミズを詰めたトレイをハダダトキに与え、トレイの横にはホワイトノイズを流すスピーカーも設置しました。さらに、土にはミミズの粉末を混ぜることで、匂いで生きたミミズの位置を感知できないようにしたとのこと。結果として、ホワイトノイズも砕いたミミズもハダダトキがエサを見つける速度に影響しなかったため、ハダダトキは聴覚や嗅覚を餌探しに用いていないと研究チームは結論付けました。



さらに、遠隔触覚を使えるかどうか調べるために、動き回って振動を起こす生きたミミズと、振動を起こさない死んだミミズを土に配置しました。すると、ハダダトキは動いているミミズを動かないミミズよりも圧倒的に早く見つけたそうです。

研究ではハダダトキは優れた遠隔触覚を持っていることを示しましたが、一方で、ハダダトキの遠隔触覚が脅かされつつあることをデュトワ氏は指摘しています。見えない位置のエサを見つけ出すことから「第六感」とも呼ばれる遠隔触覚ですが、研究によると、その能力は土壌の水分量と密接に関係しているそうです。土壌に加える水の量がハダダトキの餌探しに影響を与えるかテストしたところ、ハダダトキは湿った土壌で素早くミミズを見つけ、乾燥した土壌では2倍以上の時間をかけていたとのこと。



ハダダトキは南アフリカで大規模に生息域を拡大させていますが、これまでの研究では、農場や郊外の拡大によって人口灌漑(かんがい)が進んだことで、ハダダトキの生息する水辺が増えたことが原因だと考えられていました。ところがデュトワ氏の研究により、ハダダトキがエサを感知するために十分な水分を含む土壌が必要だと判明したため、より乾燥した地域では生息できず、水辺の拡大によって生息地が広がったことが推測されます。

デュトワ氏が実施した別の研究では、ハダダトキのクチバシの構造は、同様の遠隔触覚を持つトキと比べて敏感であることを示しています。ハダダトキよりもさらに敏感だと考えられるヘラシギなどの種は、土壌の変化により絶滅の危機にあることから、土壌の水分量や気温変化による乾燥度合が変化する場合、ハダダトキの生息地も減少する可能性があるとデュトワ氏は指摘しています。

水辺に生息する鳥たちが、どのような種類の感覚によってエサを探しており、そのためにどのような基質の土壌を求めているかという点は、生態研究の中で長らく注目されていませんでした。鳥類の感覚についてさらに研究を進めることで、ハダダトキの生息地を守ることができるはずだとデュトワ氏は語っています。