ダークウェブの麻薬取引プラットフォーム「Incognito Market」を運営し、世界中の顧客が総額1億ドル(約156億円)以上の違法薬物を購入するのを助けたとして、23歳の台湾人である林睿庠(Ruisiang Lin) が2024年5月18日にニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で逮捕されました。林はプラットフォーム上で「Pharoah(ファラオ)」を名乗って活動しており、数百万ドル(数億円)の個人的な利益を得ていたとのことです。

Southern District of New York | “Incognito Market” Owner Arrested For Operating One Of The Largest Illegal Narcotics Marketplaces On The Internet | United States Department of Justice

https://www.justice.gov/usao-sdny/pr/incognito-market-owner-arrested-operating-one-largest-illegal-narcotics-marketplaces



Owner of Incognito dark web drugs market arrested in New York

https://www.bleepingcomputer.com/news/security/owner-of-incognito-dark-web-drugs-market-arrested-in-new-york/

Incognito Marketは2020年10月にダークウェブ上に設立された麻薬取引プラットフォームであり、約4年間にわたり多種多様な違法薬物売買の場となってきました。テクノロジー系メディアのBleepingComputerによると、Incognito Marketでは295kgのメタンフェタミン、364kgのコカイン、112kgのアンフェタミン、92kgのMDMAなどを含む、総額1億ドル以上の麻薬売買が行われたとのこと。

Incognito Marketの特徴は、インターネット上でのシームレスな麻薬取引を促進するように設計されていた点です。ベンダーが自分たちの商品をブランディングする機能や、商品の広告を出稿する機能、カスタマーサービスといった合法的なeコマースサービスに存在する機能がIncognito Marketにも組み込まれており、ログインしたユーザーは大量の商品の中からほしい薬物を探すことができたとのこと。

実際にIncognito Marketがどのようなサイトになっていたのかは、以下のスクリーンショットを見るとわかります。



Incognito Marketで販売されていた薬物の中には、誤ったラベルが付けられているものもありました。2023年11月には、覆面捜査官がIncognito Marketで鎮痛剤の「オキシコドン」と称して販売されていた薬物を手に入れました。この薬物を分析したところ、実際にはオキシコドンではなくオーバードーズで死に至るリスクが高いフェンタニルだったことが明らかになっています。

ところが2024年3月、突如としてIncognito Marketのユーザーから「仮想通貨の出金ができない」という報告が相次ぎました。これに対し、「ファラオ」と名乗るIncognito Marketの運営者は、出金システムの変更によるものだと主張しましたが、後にファラオがユーザーの仮想通貨を持ち逃げする出口詐欺を実行したことが判明。さらにファラオは、プラットフォームで麻薬を販売したベンダーに対して、「身代金を支払わないと取引情報やプライベートメッセージを公開する」と脅しをかけていたことも明らかになりました。

ダークウェブの麻薬取引サイトがユーザーの仮想通貨を持ち逃げした上に「身代金を支払わないと麻薬取引履歴を公開する」と脅す - GIGAZINE



そして5月18日、ファラオを名乗ってIncognito Marketを運営していたとみられる林が、ジョン・F・ケネディ国際空港で逮捕されました。林は23歳の台湾人で、Incognito Marketが3月に閉鎖されるまで運営者として業務の最終的な意思決定権を持っていたとのこと。アメリカ司法省は林について、「林は1000人以上のベンダー、20万人以上の顧客、およびサイトの管理を手伝った少なくとも1人の従業員をコントロールしていました」と述べています。

メリック・ガーランド司法長官は、「ダークウェブなら法の外で活動できると考える麻薬密売人は間違っています。嫌疑の通り、林睿庠はアメリカおよび世界中に致死性の麻薬を密輸する1億ドル規模のダークウェブスキーム『Incognito Market』の設立者でした。法律の長い腕はダークウェブにも及び、私たちはそこで犯罪を隠そうとする者たちを裁きます」とコメントしました。

林は犯罪企業に継続的に関与した罪で起訴されており、有罪になれば終身刑を宣告される可能性があります。また、麻薬の共謀やマネーロンダリング、粗悪または不当表示された医薬品販売の共謀といった罪でも起訴されているとのことです。