「UNIVAS AWARDS 2023-24」でマン・オブ・ザ・イヤー優秀賞を受賞した菖蒲敦司【写真:大学スポーツ協会提供】

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「UNIVAS AWARDS 2023-24」で「マン・オブ・ザ・イヤー」の優秀賞を受賞

 一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)は3月11日、「UNIVAS AWARDS 2023-24」を都内で開催し、大学スポーツの発展に貢献した学生アスリートやスポーツに関わる学生・OB・OG、指導者、団体を全13部門で表彰した。そのなかで文武両道を実践し、他の男子大学生アスリートの模範となる選手を表彰する「マン・オブ・ザ・イヤー」の優秀賞に選出されたのが、早稲田大学競走部109代目駅伝主将を務めた菖蒲敦司だ。箱根駅伝で2年連続9区を走り、トラック種目では男子3000メートル障害で“世界3位”に輝いた。中学までは野球部に所属、高校から本格的に陸上競技に打ち込んだ菖蒲が、大学4年間で得たものについて振り返った。(取材・文=THE ANSWER編集部・谷沢 直也)

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「本当に手探りの状況で始まったので、自分でも『何をしているんだろう……』と思いながらやっていましたね」

 山口県の陸上強豪校、西京高校から早稲田大学スポーツ科学部に進学した菖蒲敦司だったが、入学と同時に待ち受けていたのは世界中を襲った未曾有のパンデミックだった。2020年春、新型コロナウイルスの蔓延により緊急事態宣言が発令されると、あらゆる社会活動がストップ。大学も休校やオンライン授業などの対応を迫られた。早稲田大も「6月末までは実家に帰れという指示だった」ため、「本当に大学1年生というより、高校生の延長戦というか、“高校4年生”をやっているかのようでした」と振り返る。

 誰も経験したことのない社会情勢の中で始まった大学生活。試合もほぼ開催されないため、「割り切って陸上競技を楽しむというか、飽きない程度にやっていこうかなくらいの気持ちでしか継続できませんでした」と苦しかった胸の内を明かす。

 しかし、そうした困難な状況下でも、菖蒲は自らを律しながら着実に前進を続ける。学業面では1年時、2年時と体育部員の成績上位10%に与えられる優秀学業成績個人賞を受賞。当時の駅伝監督だった相楽豊氏(現・チーム戦略アドバイザー)から「常々『成績は取っておけよ』と言われていました。相楽さんには競技だけでなく、人生において僕がこれから成長するために、というのを常に心がけて声をかけていただきました」というなかで、その言葉をしっかり実践した結果だった。

 もちろん競技面でも、コロナ禍という難しい環境の中で非凡な才能を伸ばしていく。

 高校時代から取り組み、全国高校総体(インターハイ)3位の成績を残していた3000メートル障害。大学入学時は「早めにやめて、5000メートルや1万メートルを主に走りたい」と考えていた菖蒲だったが、2年時の関東インカレで男子3000メートル障害に出場し優勝したことで「自分自身にエンジンがかかった」という。

「3連覇をさせてもらったのですが、初優勝した時が結構印象に残っていて。そこから大学陸上界の中に『菖蒲敦司』という文字が少しずつ見えてきたというか、そこで少しではあるのですがインパクトを残せたことで、その後の競技生活につながったのかなと思っています。

 総監督からも『世界を狙うならサンショー(3000メートル障害)をやったほうがいいぞ』と言われたので、そこでやめたいという気持ちから、この種目で戦い続けて世界を狙いたいという思いに変わりました」

 その決断は2023年8月、中国の成都で開催された“学生のためのオリンピック”と呼ばれる「FISUワールドユニバーシティゲームズ」で1つの成果として表れる。男子3000メートル障害に出場した菖蒲は見事に銅メダルを獲得。世界大会で3位に入ったことは、確かな自信となった。

箱根駅伝の熱量に圧倒「こんなに人が集まる大会があるのかと…」

 そして大学4年間の陸上競技生活を振り返る上では、駅伝シーズンの走りも印象深い。全日本大学駅伝に1年時から4年連続で出走した一方、箱根駅伝は負傷もあり、3年時の第99回大会が初出場となった。

 もともと箱根駅伝に「特別な思い入れはなかった」菖蒲だが、「やっぱり1回出てみると、考えられないほどの人の数というか。沿道の歓声も何を言っているのか分からないくらい、ぐわーっと来て。陸上競技でこんなに人が集まる大会があるのか、本当に凄いなと思いました」と、その熱量に圧倒された。

 大学3年、4年と2年連続で出場した箱根駅伝は、ともに9区を走り区間9位と11位。「2年目は活躍したいなと思って準備したのですが、あまり上手くいかなくて。でも2回走らせてもらって、本当になんて言うんですかね……。これから陸上競技を続けていく上で、ここがゴールじゃないんだぞというのを再確認できましたし、こんなにも多くの方々に見ていただけるのだから、さらに頑張らなくてはいけないなという思いにもなりました」と、駅伝チームの一員として箱根路を駆け抜けることができた経験に感謝する。

「(駅伝監督の)花田(勝彦)さんは自身がオリンピックに2度出られているので、その経験を語っていただけるだけでも僕自身にとってすごく貴重な話でしたし、実業団の監督もやられていたので『今日やった練習は、あの選手はできていなかったよ』とか言われると自信にもなりました。花田さんには本当に、競技面で伸ばしていただいたと感じています」

 早稲田での4年間を糧に、卒業後は花王陸上競技部に入部予定だ。「今年のパリオリンピック、次のロサンゼルスオリンピックは3000メートル障害で狙わせてくださいという話はしています」というが、自らの立ち位置は冷静に把握している。

 高い壁となっているのが、同学年の三浦龍司(順天堂大→SUBARU)だ。男子3000メートル障害の日本記録保持者(8分09秒91)であり、2021年東京五輪では同種目で日本人初となる7位入賞。「近い存在にああいう選手がいるのはすごく嬉しいこと」と語る菖蒲は、「彼に追いついたら、僕の最大の目標が達成できる。コツコツ、コツコツ練習していって、いつかその領域まで到達できたらなと思っています」と、“世界”を狙う1つの基準点として見据えている。

「(2028年の)ロサンゼルスオリンピックには確実に出て、決勝に進んで戦いたい」

 主体性を持ちながら「自分で考えてやらないといけなかった」早稲田大競走部での4年間は、菖蒲をランナーとして確実に一段階上のレベルへ押し上げただろう。この経験をいかに競争の激しい実業団で生かし、さらなる高みへ到達できるのか。

「コロナで始まった学生生活でしたが、本当にいろいろな方々に恵まれ、想像以上の支援をいただき、楽しい4年間を過ごすことができました」と晴れやかな表情を浮かべた早大109代目駅伝主将の、新たな挑戦が始まった。

(THE ANSWER編集部・谷沢 直也 / Naoya Tanizawa)