●映画『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』ついに公開

現在公開中の映画『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』は、2023年7月から2024年1月まで全25話を放送したテレビシリーズ『ウルトラマンブレーザー』の劇場映画。頻発する巨大怪獣から人々の平和と安全を守る任務を帯びた特殊怪獣対応分遣隊「SKaRD(スカード)」のヒルマ ゲント隊長と4人の隊員の活躍は、テレビ画面からスクリーンへとスケールを拡大。首都・東京のど真ん中を揺るがす圧倒的ボリューム感の大怪獣・妖骸魔獣ゴンギルガンを迎え撃つ、SKaRDメンバーとウルトラマンブレーザーの激闘が描かれる。

『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』公開記念インタビュー、今回は主人公ヒルマ ゲント隊長を演じる蕨野友也、怪獣生物学に詳しく冷静沈着なナグラ テルアキ副隊長を演じる伊藤祐輝、そしてテレビシリーズのメイン監督・シリーズ構成も務めた田口清隆監督が登場。ニュージェネレーションと呼ばれる新世代ウルトラマンの中でも特に意欲的な要素を盛り込みつつ、さらにウルトラマンの根源的魅力をも追求した『ウルトラマンブレーザー』テレビシリーズのとっておきの裏話や、「本格怪獣映画」を目指した劇場版の見どころを語りあってもらった。

左から田口清隆監督、蕨野友也、伊藤祐輝 撮影:大塚素久(SYASYA)

○蕨野友也「SKaRDのみんなは基本“役名”で」

――『ウルトラマンブレーザー』ではSKaRDメンバーを中心に、リアリティを重んじたキャラクタードラマを志向されていたように思えます。

田口監督:それは当初からの狙いでした。通常のウルトラマンシリーズだと、防衛チームはすでに出来上がっていることが多いんですけど、今回は「知り合いじゃない人たちが突然集められ、チームになった」という部分から始めてみたかったんです。実際の俳優さんたちも劇中のSKaRDメンバーと同じで、撮影の日々を経ていくうちにだんだんとチームワークができあがっていった。役と現実がシンクロするような印象はありましたね。

蕨野:確かにそうですね。僕はゲント隊長として、SKaRDのみんなは基本“役名”で呼んでいましたから。テルアキはテルアキ。今までも、伊藤祐輝とは一言も呼んだことがない(笑)



伊藤:ゲント隊長が「これからもずっとテルアキとしか呼ばないかもしれません」と仰っていたので、たぶんこの先もそうなんだと思います(笑)

蕨野:それだけ、テルアキと呼ぶのが自然というか、身体に染みついちゃっているんです。テルアキにかかわらず、エミもアンリもヤスノブもまんま劇中のキャラクターというか、酷似しているというか、本名で呼んだことがほとんど無いかな、っていう感じ。それくらい、SKaRDメンバーとみんなの「素」に同じ部分があり、そして素じゃない部分もうまく織り交ぜながら、作品世界に同化していったように思っています。



田口監督:最初にオーディションというか“顔合わせ”を行ったときから、すでにゲントさんはゲントさんとして、その場に存在していました。テルアキさんも、最初に会ったときすでにテルアキさんでした。1番初めに「僕は怪獣について、こういう思いを抱いています」と言われたのを強烈に覚えています。ふつうは役が決まって、衣装合わせをするときに交わすような会話を、すでに最初の段階でやっていた(笑)。僕も怪獣に対する愛情とか熱意がありますから、その場で2人の「怪獣論」をぶつけあっていた。その瞬間「この人、テルアキさんだ。いまテルアキさんが来ましたよ」って感じでしたね。

伊藤:ありがたかったです。

田口監督:エミちゃん(搗宮姫奈)は最初に会ったとき「この人、腹割らないタイプだろうな」っていう印象で(笑)、そこがエミらしい! 君がエミだ! とすぐ決まりましたし、アンリさん(内藤好美)は「アンリっぽい人がいる」と初めから言われてた(笑)。ヤスノブ(梶原颯)は最初、北海道出身の青年のつもりで考えていたけど、本人に会うとナチュラルな関西弁がとてもよかったから、彼の持ち味を活かして設定をぜんぶ変え、キャラが広がりました。そんな感じで決めていったので、5人が集まって何気ない会話をしているだけでもうSKaRDになっていましたね。脚本に書かれた人物を「演じる」というよりも、役を自分のものにしてほしいとお願いしました。

――こうしてお話をうかがっていても、蕨野さん、伊藤さんは背筋がしっかり伸びていて、ゲント隊長、テルアキ副隊長そのままだなと思いました。

田口監督:確かに、2人ともすごく姿勢いいよね。

伊藤:それは今着ているユニフォームのおかげかもしれないです。

蕨野:そう。衣装によって、キャラクターの個性を呼び覚ましてくれることがありますよ。たとえば、もっと自由な自分が出せるスエットの上下とかであったら、今みたいな感じじゃなくてもっとだらしない姿勢になるかもしれません。衣装だったり、身に着ける装具だったりがゲントという人物像を築いてくださるんです。

○「TSUBURAYA CONVENTION(ツブコン) 2023」裏での会話は?

――2023年12月に開催された「TSUBURAYA CONVENTION(ツブコン) 2023」のニュージェネレーションウルトラマン大集合イベントで、歴代ウルトラマン俳優のみなさんがフリートークをしているときでも、蕨野さんはゲント隊長のイメージそのままだったように思います。

蕨野:そうでしたか? あのトークイベントは人数が多かったから、もういちばん端の『ウルトラマンギンガ』キャスト(根岸拓哉、宇治清高)たちが話しているときなんて、ぜんぜん加われなかったんです。『ウルトラマントリガー』の寺坂頼我くん、『ウルトラマンデッカー』の松本大輝くんと一緒にこっち側のテーブルで「カレー美味いねえ」って言いながら(笑)、自由にやらせていただきました。



田口監督:僕はニュージェネレーションシリーズには『ウルトラマンギンガS』から関わっているから、ステージに歴代ウルトラマン役者が並んだのを観て、感動していました。みんな役を自分のものにしながら、年月を経ていい具合に変化している。『ウルトラマンジード』のリクくん(濱田龍臣)なんて、すっかり大人になっていましたね。ネギちゃん(根岸拓哉)も10年経って着実に成長しているんだけど、「行こうぜ!」っていうヒカルの決めゼリフを聞くと「相変わらずだなあ」って思えて、声出して笑っちゃった(笑)。そんな中、やっぱりゲントさんは最新ウルトラマンなだけあって、フリートークをしていてもゲントさんのままなのがすばらしい。プロフェッショナルらしい動きや姿勢を、ふだんから身に着けていてほしいと最初のときにお願いしていましたが、こちらの期待以上にやってくださいました。

●映画版ではあの建物を「3回に分けて丁寧に破壊」

○第8話「虹が出た 後編」の撮影時に実はイタズラ

――『ウルトラマンブレーザー』でのゲント隊長とテルアキ副隊長とのやりとりで印象的なのが、第8話「虹が出た 後編」のラスト近く、お二人が作業着を着て畑仕事をしているシーンでした。

蕨野:テルアキの実家の農園を手伝って、一息ついた場面ですね。そのとき、本番直前にラムネの瓶を思いっきり振って、テルアキが栓を抜いたとたん炭酸がブシューッと噴き出すのを楽しみにしていたんですけど(笑)



田口監督:そんなイタズラをやってたのか(笑)

伊藤:でも、僕はあそこでラムネを飲まなかったから、何事も起きずに芝居を続けられました。

蕨野:僕は「うわ〜面白くねえ」と思っていた(笑)

伊藤:隊長からラムネを手渡されたテルアキが、しみじみと「あのあと、横峯教授はどうなったんでしょう」と尋ねるシーンだったので、そこでラムネが噴き出していたら、絶対セリフなんて言えなかったと思います。

蕨野:それはわかっていたんだけど、予期せぬ出来事が起きたとき、どんなテルアキの表情が出てくるか、そこが見たかったんです。

伊藤:OKが出たあと、ゲント隊長すごく悔しがってましたよね(笑)

田口監督:ラムネの瓶を振ってたの、テルアキさんは気付いてた?

伊藤:ぜんぜん気づかなかったんです。

蕨野:セリフのあと、座っていた俺が立ち上がったから、ラムネを飲むチャンスがなかったのかも。

伊藤:そうかもしれません。もうちょっと間があったら、手にしていたラムネを使っていた可能性もありますね。



蕨野:まあ、ラムネが噴き出ていたら、そのシーンは使われてなかっただろうね(笑)

伊藤:作業着にラムネがかかって、大変なことになってました。そして撮り直し(笑)

蕨野:そうなったら、俺は知らない顔で「早く乾かねえかな〜」なんて言いながら待っていたと思うね(笑)

田口監督:それ、助監督がめちゃめちゃ怒られるやつだよ(笑)。濡れなくて良かった!

――テルアキ副隊長といえば、SKaRDとウルトラマンブレーザーが戦ってきた怪獣たちの特徴を子どもたちに向けて解説する、テルアキ先生の「ブレーザーかいじゅうアカデミー」のYouTube配信もファンの話題を集めましたね。毎回、テルアキさんが極めて真剣に怪獣のモノマネをするところが好評でした。

伊藤:怪獣の写真を見ながら、毎回一生懸命やっていました!

田口監督:あの映像は別のチームがやっていて、僕のほうにも「こういう感じで行きますが……」と確認の連絡が来るのですが、テルアキさんがあそこまで頑張って怪獣のモノマネをやってくださると、僕からは何も言うことがありません。

蕨野:第20話の「怪獣が出てきた時の対処法講座」と同じで、テルアキの「かいじゅうアカデミー」もSKaRDの任務としてやってるわけなんだよね。

伊藤:テルアキとしては、どんな任務であっても全力で取り組む姿勢でした!



田口監督:「SKaRD体操」もそうなんですけど、ああいう広報活動について、それまで上層部と現場の間に入ってくれていたハルノ レツ参謀長(加藤雅也)が外されたことにより、上からの無茶な命令がSKaRDへ直に降りてくるようになった時期の出来事だと考えれば、ああいった番組の存在も世界観がつながるんじゃないかと思うようにしました(笑)

伊藤:僕もそういう思いでやっていました。

田口監督:Blu-rayBOX特典のスピンオフドラマ『SKaRD休憩室』ではその辺も重点的に描いています(笑)

○映画のテーマは“家族の絆”

――映画『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』の、テレビシリーズと一味違うスペシャルな要素について教えてください。

田口監督:テレビと映画ではなるべく作風を変えたいという思いがありますから、シリアスなテレビの最終回との対比もあって、映画は“エンタメ”に振り切ろうと考えました。いい意味で「怪獣映画です!」と割り切って、ドドーンと勢いと迫力で見せていきたいと思って作り上げました。テレビの25話分でSKaRDメンバー個々のキャラクターやチームワークについてはできあがっていますから、それを活かしつつ、SKaRDのみんなが新しい事件に巻き込まれていくという“王道”の怪獣映画を目指しています。テレビの第1話で実際の都市(池袋サンシャインシティ)を戦闘の舞台にしましたから、映画ではあれを超えるものがないとつまらないのではないか、と僕自身が思ったので、ウルトラマンシリーズではあまりやらない“実在する建物”を登場させることにしたんです。クライマックスで派手にぶっ壊す場所はどこかと考えまして、国会議事堂に狙いを定めました。今回、1/25の精密なミニチュアを作り、3回に分けて丁寧に破壊しています(笑)



蕨野:田口監督のお話を聞いて、監督の頭の中はどうなっているんだろうって改めて思いますね。これまでにない新しい映像製作にチャレンジしつつ、お客さんを楽しませる姿勢を崩さない。そういうところが田口監督の良さであり、ファンが多くついている理由なんだと思います。常にいろいろな映画やドラマを研究して、頭の中をアップデートしているがゆえに、我々を驚かせる発想が出てくるんじゃないでしょうか。そんな実験精神を『ウルトラマンブレーザー』で発揮してくれて、ほんとうに嬉しく思います。

伊藤:映画では、SKaRDがどんな作戦を立て、どんな戦いを見せるのか、繊細かつ大胆な、SKaRDメンバーの連携プレーにも注目してほしいです。テルアキが珍しく“激高”するシーンもありますので、そこもお見逃しなく!

蕨野:今回の映画のテーマは“家族の絆”。それがゲントの妻や息子との絆のことなのか、または映画の中で描かれる別の家族なのか、ぜひ劇場に足を運んでいただいて、確かめてください。待っています。



田口監督:映画を作る際に強く思っていたことは、この『ウルトラマンブレーザー』が生まれて初めての“怪獣映画”になるであろう子どもたちの存在です。僕が子どものころ、ワクワクしながら観ていた怪獣映画はこんな感じの作品だったから、今を生きる子どもたちにも同じワクワク感を味わってもらいたい! と思って取り組みました。もちろん大人の方々にも楽しんでいただける作品になっていると思います。ぜひ劇場へ足を運んでください!

■蕨野友也

1987年、宮崎県都城市出身。2007年に俳優デビューを果たし、『ごくせん』(第3シリーズ/08年)、『最高のオバハン 中島ハルコ』(21年、22年)をはじめとするテレビドラマ、『252生存者あり』(08年)などの映画に出演。2014年には東映『仮面ライダードライブ』でロイミュードのリーダー格・ハートを演じ、特撮ファンからの人気を獲得する。2010年より「みやざき大使」を務め、さらに2022年、都城市の「みやこんじょ大使」に就任。俳優業と共に故郷の魅力を県内外へ発信する役目も担っている。

■伊藤祐輝

1987年生まれ、北海道出身。映画『フレフレ少女!』(08年)、『海賊とよばれた男』(16年)、テレビドラマ『新警視庁捜査一課 9係』(10年)、『ラジエーションハウス』(19年)、『合理的にあり得ない』(23年)、舞台『飛龍伝21〜殺戮の秋〜』(13年)、『High Life』(18年)、ドキュメンタリー、MV、CMなど出演作多数。2009年の映画『ぼくはうみがみたくなりました』で主演を務めたほか、短編映画『MIRRORLIAR FILMS plus/ハレの夜』(21年)では脚本・監督・主演をこなした。

■田口清隆監督

1980年生まれ、北海道出身。日活芸術学院を経て、映画、テレビドラマの世界で助監督・美術助手・デジタルコンポジットを担当。同時に制作していた自主映画『大怪獣映画 G』が認められ、2009年にNHKの番組内企画『長髪大怪獣 ゲハラ』で商業監督デビューを果たす。映画『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』(14年)、『12人のイカれた

ワークショプ』(20年)や、テレビシリーズ『MM9』(10年)、『ウルトラゾーン』(11年)、『ゆうべはお楽しみでしたね』(19年)のほか、『ウルトラマンX』(15年)、『ウルトラマンオーブ』(16年)、『ウルトラマンZ』(20年)、『ウルトラマンブレーザー』(23年)をはじめとするウルトラマンシリーズで監督を務める。

秋田英夫 あきたひでお 主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌・書籍でインタビュー取材・解説記事などを執筆。これまでの仕事は『宇宙刑事大全』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『上原正三シナリオ選集』『DVDバトルフィーバーJ(解説書)』ほか多数。 この著者の記事一覧はこちら