現在のハイルーフミニバンはここから始まった!

今見ると「商用バン?」と言いたくなる簡素な見た目だが、大ヒットですぐ立派になっていく

先代モデルあたりから販売面で元気のないホンダ ステップワゴンですが、その初代モデルは現在の売れ筋である「FF低床ハイルーフミニバン」の第1号であり、初代ワゴンR(1993年)と並び、日本の自動車に革命をもたらした画期的なミニバンでした。

今回は、シンプルだけど機能的、広いスペースを無駄なく効率よく使い、ファミリーカーとして究極の満足度を狙った初代ステップワゴンを、「90年代の歴史と文化に重要な役割を果たしたクルマ」として、その意義を振り返ります。

RVブームの中で存在感を高めたミニバン、しかし…?

油圧リフター式回転昇降シートを装備した「アルマス」…この種の福祉車両をラインナップしやすくなったのも新たな強み

日本のミニバン史は、1960年代にマツダの初代ボンゴコーチ、トヨタのミニエースコーチや初代ハイエースワゴンといった、大小様々の3列シート車によって切り開かれ、日産や三菱、いすゞも加わって、1980年頃からの初期RVブームで勢力を伸ばしました。

ただしそれらはあくまで「商用フルキャブオーバー1BOX車の広い車内を活かした3列シート車」に過ぎず、1990年に登場したスタイリッシュな初代エスティマも、乗用オンリーとはいえ大差ありません。

いずれも前席の下など床下でエンジンが轟々と働き、その振動や騒音が車内に入ってきますし、大抵はエンジンやミッションの上にあるセンターコンソールで、前席から2列目以降へのウォークスルーもできませんから、運転席のお父さんが「孤立」しがち。

一方、1980年代半ばに現れたFF乗用車ベースのミニバンは、エンジンやミッションがフロントのボンネットに収まっているため前席からのウォークスルーも可能でしたが、ちょっと背の高いステーションワゴンに3列目を設けた程度ですから車内スペースは狭くなります。

ホンダが1994年に発売し、そのスポーティ&スタイリッシュな外観から人気になった初代オデッセイでも、その本質は「天井がもっと広ければ」という欠点がありました。

つまり、商用1BOXベースでもFF乗用車ベースでも、「帯に短し、たすきに流し…」というわけで、どちらのユーザーもそれぞれの愛車の長所へは満足しつつ、短所はガマンするのが普通だったわけです。

ついに現れた、ホンダ版ハイエース

1列目のフラットシートが可能になると、フラットベッドと3列目を跳ね上げての荷物積載の両立が可能にになった

一方、そのような中でもホンダの販売現場が望んで止まなかった車種が、「ハイエースみたいなクルマ」です。

初代オデッセイが早くから構想されつつも、「これじゃホンダ車としてカッコわるい」と経営陣や開発陣から否定されるのみならず、販売現場からも否定され、なかなかモノにならなかった理由は、「ハイエースみたいじゃないから」だったかもしれません。

しかし、どうにか市販にこぎつけたオデッセイが、同時に「クリエイティブ・ムーバー(生活創造車」というコンセプトを打ち出し、オデッセイ自身のホンダ史上最大の大ヒット(何しろ初代シビック以上)を記録した時、ホンダの歯車の動きは加速しました。

第2弾以降のクリエイティブ・ムーバーは、走るベッド的なカップル向けトールワゴン「S-MX」、クロカン型シティオフローダーの「C-RV」で若者の新たなカーライフを創造しつつ、ファミリー向けの新たな生活感を想像する、新型ミニバンを開発したのです。

それが1996年5月に発売された、初代「ステップワゴン」。

素っ気ないほどシンプルながら合理的なデザイン、ホンダ得意のM・M(マン-マキシマム・メカ-ミニマム)思想により短いボンネットへ極限されたパワーユニット部分と、背の高いスクエアなデザインで極大化されたキャビン。

運転席周りはコラム式シフトレバーや、足踏みパーキングブレーキで足元をクリーンにして、低床ハイルーフなので腰を落とした卑屈な姿勢になる必要もなく、1列目から後ろへらくらくとウォークスルーが可能です。

ハイルーフ化は全ての座席で座面を上げ、広い視界を提供するとともに乗降時のゆとりも産み、縦方向のスペースを有効につかったので、3列シートまで8人フル乗車してもゴルフバック3つが積めるほどのラゲッジスペースを余すほど。

まさに、ホンダの販売現場が長年望んだ「ハイエースみたいなクルマ」は、初代ステップワゴンによって、最高の形で実現したのです。

簡素に見えて、随所に合理的なこだわりが!

単なる小物入れではなく、フタを水平に固定してテーブルにできる、アシストレイ付ボックス…このへんの工夫は、初代シティ以来ホンダが得意とするところで、ステップワゴンではフルに活かされた

初代ステップワゴンは特に前期型の外観がかなり簡素でしたから、コストダウンで安くまとめたように見えますが、安くともそれを逆手に取るような工夫や、課題をクリアするためのこだわりにあふれていました。

軽商用車以外のホンダとしては初、しかも快適性重視の乗用ミニバンゆえに、モノコックには高剛性ストレートラダーフレームやクロスメンバーで補強され、まだ両側スライドドアの必要性が薄い時代でしたから、片側スライドドアで開口部を減らし、ボディ剛性を確保!

ボディの継ぎ目が目立つ部分、特にテールゲート左右には縦長の大型テールランプユニットを配し、安っぽく見えない工夫と視認性の良さが一石二鳥。

シートは乗用ミニバンらしく3列ともにゆったりできるサイズと厚みで選ばれ、2列目が2人用+畳めばテーブルにもなる補助席、後ろ向きにすれば対面でくつろげるスペースを設けた「回転対座」と、2列目3人用ベンチシートを跳ね上げる「ポップアップ」の2種類。

これが上級グレード「W」と標準グレード「G」で、2列シート車の「N」(※)では2列目を跳ね上げれば自転車4台を積めるほど広大なラゲッジになります。

(※「W」「G」「N」の3グレード名で、「WGN=ワゴン」を表した)

さらに「ポップアップ」は2列目だけ倒して3列目をソファーベッドのように使う、3列目も倒してフラットベッドに使う(後の改良で1列目もフラット可)など車中泊や休憩用のさまざまなアレンジが可能。

しかも「シートとフロアのダブルフラット設計」により、フラットシートの下へスキーなど長尺物を積める工夫もあって、フラットシート上に荷物を積めば、長尺物とその他の荷物を分けて収納できるなど、多彩な使い方を可能にしていました。

左右跳ね上げ式のシートも含め、この種のシートアレンジは誰もが使うわけではありませんが、当時はどれだけシートアレンジの種類があるか、各社競ったものです。

現在まで続くハイルーフミニバンブームの原点

後期で設定された最上級グレード「デラクシー」…後期になると内外装のクオリティが上がり、「安くてよいクルマ」以上の見た目になって、ライバルへ対抗していった。

当時の低コスト開発車は多くは売れ行きとともに内外装が豪華になっていきますが、特に「大革命車」として初代ステップワゴンは大ヒットしたので、後期型はボディ同色バンパーやフラットデザインのテールゲートなど、大幅な改良で外観が立派になりました。

ビートルズの「オブラディ・オブラダ」をBGMに、「こどもといっしょに、どこいこう?!」というCMもあって人気は急上昇、ステップワゴンの人気を見た各社は、「FFハイルーフミニバンこそ大正解であり、主流になる」と追従していきます。

一時はスポーツ路線のロールーフミニバンが流行った時期もありましたが、ファミリー層向けにはハイルーフこそ正義で、トールワゴンのロングボディ型コンパクトミニバンも含め、初代ステップワゴンが現在まで続くミニバンの原点と言ってよいでしょう。

それだけに先代、現行型ステップワゴンがちょっと元気がないのは心配ですが、いずれ原点にかえれば、再び成功をつかめるのかもしれません…「答えは意外と自分の中にあるもの」です。

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