今、小川航基が旬だ──。

 昨年夏の7月、横浜FCから期限付き移籍でオランダのNECに入団したストライカーは、秋ごろからゴールの嗅覚に冴えを見せ、今年2月なかばの時点で公式戦10ゴールをマークした。小川の特集を組んだ全国紙『アルへメーン・ダッハブラット』(2月9日付)はこうだ。

「小川航基は今季、NECのビッグサプライズのひとりだ。その日本人ストライカーはたくさんゴールを決めたことによって、瞬く間にオランダのサッカーに適合した。まったくの無名選手としてNECが獲得した26歳のストライカーは、あっという間にその名を知らしめた」


オランダリーグで今季ブレイク中の小川航基 photo by AFLO

 オランダリーグ国内中継局『ESPN』は2月18日、アヤックス対NECのキックオフを目前に、小川の詳細なテクカルレポートをウェブサイトに掲載した。その冒頭は下記のとおりだ。

「横浜FC時代、左右両足・ヘッドで多彩なゴールを決めた小川航基は、オランダでもゴールの嗅覚を見せつけ、右足で4ゴール、左足で2ゴール、ヘッドで4ゴールを決めている。今季のエールディビジで『右・左・頭』でそれぞれ2ゴール以上決めているのは5人だけ。またヘッドの4ゴールは、ルーク・デ・ヨング(PSV)に次いで2番目である」

 小川のポストプレーが巧みなことも、広く知られ始めた。

 昨秋のこと、NOS局『ストゥディオ・フットボール』という番組で、小川がロングボールを苦もなくソフトタッチでトラップし、前線で起点を作ったシーンが映像で流され、フース・ヒディンク、ピエール・ファン・ホーイドンク、イブラヒム・アフェライといったオランダサッカー界の錚々たる面々を唸らせた。

 移籍直後、小川は開幕2試合連続でゴールを奪い、最高のオランダデビューを果たした。しかし、夏から秋にかけて元オランダ代表巨漢FWバス・ドストとのポジション争いに負けそうになったり、小川自身もゴールから遠ざかり、ポストプレーの精彩を欠いた時期もあった。

【アヤックス戦で5万人の観衆を黙らせたプレー】

 10月1日のフィテッセ戦、小川は残り10分のところでドストに代わってピッチに入ったものの、あまりいい印象を残すことなく試合を終えた。1-3で敗れたこともあって、観客のひとりから「今日の小川は何もしなかったじゃないか!」と筆者が怒号を浴びたことは今も忘れられない。翌節のヘーレンフェーン戦、小川は90分間、ベンチに座ったままだった。

 こうした試練を乗り越えてきたからこそ、今の小川の輝きには価値がある。11月5日のフォレンダム戦(3-3)で2ゴールを奪ってから、小川はレギュラー奪回を果たし、「チームのエースは俺だ」というオーラをまといながらプレーするようになった。

 2月18日のアヤックス戦は、後半アディショナルタイム4分でNECが2-2に追いつき、敵地ヨハン・クライフ・アレーナの5万人を超す観衆は静まり返った。アシストこそつかなかったが、右からのクロスに対して小川が敵ふたりを引きつけて潰れた動きは秀逸で、「まさにザ・ストライカー!」と太文字で記したくなるほど。相手ゴール前のデンジャラスゾーンを嗅ぎ分けて突っ込み、結果的に見事なおとり役となってロベール・ゴンザレスの同点弾につなげた。

 アヤックス戦後、小川はオランダで得点を重ねていることについて、次のように答えた。

「僕の特徴は『ゴール前での動き出し』です。僕がゴール前で工夫しながら動き出すと、オランダやヨーロッパの特徴なのかはわかりませんけど、僕の動きを見えてないセンターバックが多い傾向にある。

 前々節のゴールも、いいタイミングで相手の視界から外れたタイミングでゴール前に入ったら、やっぱりDFがボールウォッチャーになって僕に付ききれなかった。自分が(動き出しを)工夫しているところが1番大きいと思います」

「前々節のゴール」とは2月3日のヘラクレス戦、右からのクロスが上がる瞬間に、小川は自分のマークを振りほどいてニアに走り込み、ボールウォッチャーになったDFの前でヘディングシュートを放って決勝ゴールを決めた。

【チームメイト佐野航大が語る小川航基の特徴は?】

 アヤックス戦後、チームメイトのMF佐野航大に小川のことを尋ねてみた。

「クロスが航基くんに集まることが多い。航基くんの動き出しはやっぱり一枚上手なので、相手のセンターバックの隙を突いてくる。また、ボール保持者にとってけっこうわかりやすい動き出しをしてくれるので(縦パスを)出しやすいんです。

 逆に航基くんの動き出しがよすぎるので、今日の試合で俺も『出せる!』と思ってアウトフロントパスで出したんですが、相手にカットされちゃった(笑)。ホント、航基くんは『出せる!』と思わせる動き出しなんですよね。しかも、それをずっと続けてくれる。うしろから見ていて、本当に助かります」

 これまでの取材で何度も、小川から日本代表への熱い想いを聞いてきた。なかでも、昨年11月に語られた言葉は、今も忘れることができない。

「日本代表はクラブと一緒。『チーム日本』というクラブのチーム戦。選手はしっかりと準備し続けることを、マストでやらないといけない。いつ、どんな時も呼ばれたら行けるように、準備しておかないといけません」

 先日、アジアカップを見た感想を交えつつ、あらためて日本代表への想いを語ってもらった。

「アジアのレベルが上がっていくなかで、やっぱりもっともっと、日本は成長していかなきゃいけないと感じます。また、その力になりたい、とも感じています。

 早く(日本代表に)呼んでもらいたい、という気持ちは強く持っている。そのためにはやっぱり、自分が得点を決め続けるしかない。(日本代表で)やれる自信もあるし、日本を変える自信もあるし、得点を決める自信もあるし......すべてにおいて自信がある。僕はただ、がんばるだけですね」

 準々決勝で敗退したアジアカップでは、上田綺世(フェイエノールト)が5試合4ゴールと気を吐いた。だが、ストライカーの枚数は足りておらず、『大迫勇也・代表復帰待望論』も挙がっていた。しかし、どうだろう......そろそろ小川航基を試してみては──。