久保建英は右ウイングが最適 スペイン人記者がレアル・ソシエダで輝く理由を分析
久保建英が古巣マジョルカ相手に公式戦8試合ぶりのゴールを挙げ、レアル・ソシエダは公式戦連続無得点をクラブワースト記録タイの5でストップした。今回はクラブの地元紙『エル・ディアリオ・バスコ』で、レアル・ソシエダの番記者を務めるイケル・カスターニョ・カベージョ氏に、久保の活躍の源となっている、ポジションに関する分析をしてもらった。
【久保の活躍がチームの雰囲気を変えた】日本代表の一員として戦った久保建英にとって、アジアカップは忘れるべき出来事となったが、レアル・ソシエダに復帰してすぐ、ふたつの大きな喜びをチームやサポーターにもたらせてくれた。
久保建英はレアル・ソシエダに戻ってまた活躍し始めた photo by Nakashima Daisuke
ひとつ目はパリで開催されたパリ・サンジェルマンとのチャンピオンズリーグ(CL)の決戦2日前に、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)との2年間の契約延長を発表したことだ。契約解除金は変わらず6000万ユーロ(約96億円)のまま。「チームメイト、サポーター、そしてスポーツディレクターとの良好な関係が契約延長のカギだった」と明かしていた。
また久保は、今バスク語を学んでいるが、このこともまたサン・セバスティアンの人々にとって明るい兆しとなっている。
ふたつ目は先週末のマジョルカ戦で、ラ・リーガで4試合ぶりの勝ち点3をチームにもたらす、価値あるゴールを決めたことだ。
この久保がもたらしたふたつの喜びは、ここ最近低迷していたチームの雰囲気を大きく変えるものとなった。
【最適なポジションは右サイド】ラ・レアル2年目の久保は今季、攻撃の切り札的な存在となり、プレーに頻繁に関与することでレギュラーの座を確固たるものにしている。
久保がこのように活躍できる大きな理由として、クオリティーの高い選手たちにうまくサポートされていること、そして右ウイングというアウトサイドとインサイドの両方で違いを生み出すのに適したポジションでプレーしていることが考えられる。
計281分間出場し、準々決勝で早期敗退したアジアカップで、森保一監督は久保をトップ下で起用する決断を下した。おそらくインサイドでの役割を大きくし、その位置から決定機を演出する狙いがあったのだろう。
久保にとってこの大会のベストゲームとなった決勝トーナメント1回戦のバーレーン戦(3−1)では上田綺世とうまくかみ合い、前線でアレクサンデル・セルロート(現ビジャレアル)とコンビを組んだ昨季を彷彿とさせた。しかし大会を通じて久保の才能が存分に発揮されたとは言い難く、特に準々決勝のイラン戦(1−2)ではうまくいかなかった。
久保のプレーを見る限り、最適なポジションはスペースの少ないインサイドではないと思われる。また、久保が活躍する上で周りにいる選手のクオリティーが必要不可欠な要素のひとつとなるが、今大会はそれが十分ではなかったように感じられた。
さらにセルロートと前線でコンビを組み、主にセカンドトップを務めた昨季と比較した場合でも、右サイドを主戦場としている今季のほうが快適にプレーでき、自由度が増しているように見える。
【周囲のサポートも重要】ドリブル、突破力、電光石火の動きを大きな武器とする久保のようなタイプの選手にとって、スペースのあるアウトサイドで試合をスタートできる恩恵は計り知れず、インサイドからよりもチャンスを作り出しやすいのだ。
右サイドを起点とすることで攻撃に何度も絡み、相手DFと対峙しながらゴールライン際に到達し、クロスをあげるのが容易になっている。また、左利きの久保にとっては中に切れ込むプレーが一番やりやすく、カットインしてシュートを狙い、最後の局面で味方に決定的なパスも出せている。
ラ・レアルが今季ここまで3大会を戦い続けている要因に、久保のポジションが右ウイングである点が関係しているのは間違いない。そこでプレーすることによって久保の長所がより引き出され、相手にとって昨季以上に脅威となっている。サイドアタッカーながらすでに7ゴールを決めており、昨季の9ゴールを上回るのはほぼ確実だ。
久保には周囲のサポートが重要だということを前述したが、今季はサイドバックのアマリ・トラオレ、インサイドハーフのブライス・メンデスとともに右サイドを形成している。特にこのふたりがピッチを動き回ってハードワークすることで、久保はサイドに大きく開いてボールを受けやすくなり、外から中に向かって相手サイドバックと対峙できる有利な状況が作られている。
彼はここサン・セバスティアンで自分の才能を存分に発揮できる居場所を見つけ、選手として大きく成長し、スペインだけでなく、ヨーロッパのトッププレーヤーの仲間入りを果たすところまで来ているのだ。
【チームに勝ち点3をもたらす貴重なゴール】先週、多くのサッカーファンがパルク・デ・プランスでのCLラウンド16第1戦、パリ・サンジェルマン戦(0−2)に先発出場した久保のプレーを目撃した。
強烈なシュート、アンドレ・シウバの頭へのクロス、DF裏へのスルーパス...。特に前半はすばらしいパフォーマンスを発揮し、マッチアップしたDFルーカス・ベラルドにとって悪夢のような存在となった。唯一犯したミスは、後半キリアン・エムバペにマークを外され先制点を許したことだろう。
この試合で久保は危険な存在であると改めて周囲に知らしめたが、連戦の疲れが影響してか、決定機をものにすることはできなかった。しかしその4日後、アウェーのラ・リーガ第25節マジョルカ戦(2−1)でその鬱憤を晴らす機会が訪れる。
試合を通じて活発な動きを見せ、すばらしい個人技で相手センターバックを釘づけにし、今季の7点目となる同点弾を記録した。得点後にゴールパフォーマンスを行なわず、マジョルカサポーターに謝罪するポーズを取ったが、「ここは僕がスペインに来てから一番良かった場所だ。マジョルカとサポーターに大きな愛情を持っているし、大いにリスペクトしている」という理由によるものだった。
またこのゴールは512分間続いたチームの無得点に終止符を打ち、最近不調のラ・レアルに再び光を灯すものとなった。
久保は臆することなく最後まで仕掛け続け、イエローカードを誘発し、後半アディショナルタイムにはゴール左上隅をわずかに外れる惜しいシュートを放つなど、パリで見せた調子の良さをキープしていた。
久保は試合後、チームが抱える決定力不足という問題について、「シーズン開幕時の輝きを取り戻す必要がある。タフな試合だったけど、この勝利に満足している。僕たちは後半(マジョルカDFアントニオ・ライージョの退場で)ひとり多かったが、プレーの内容はあまり良くなかった」と反省。
さらに、「今後の試合に向けてしっかり回復しなければいけない」と久々の勝利に酔いしれることなく、しっかりと先を見据えていた。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)