リーバイス(Levi’s)は、2024年1月25日、卸売事業の収入減少を理由に従業員の10〜15%を解雇すると発表した。卸売は同社の事業の約60%を占めているが、前四半期には前年同期比で3%減少していた。

大手小売店を通じて卸売に進出するメリット



リーバイスの卸売事業が直面しているような困難がある一方で、多くのファッションブランドは現在、卸売事業への投資を好機と捉えている。ナイキ(Nike)の場合、卸売提携拡大のおかげで2023年の経費調整前の卸売収入は前年比で37%増加している。またトゥルーレリジョン(True Religion)は、2024年、卸売収入を倍増させる計画だ。卸売プラットフォームのジョア(Joor)によると、調査対象ブランドの75%が2023年に卸売収益を増やし、33%が特にD2C重視から混合型または卸売優先のアプローチに移行していると回答したという。

一方、デジタルマーケティングのコストは業界全体で急騰している。2023年のデジタル広告費の支出総額は6000億ドル(約89兆円)を超えた。LinkedInの広告価格でさえも高騰しており、2023年12月には1000インプレッションあたりの費用が300ドル(約4.4万円)以上に上昇した。直販による顧客獲得のコストがますます高くなっているなか、ブランドは小売業者のリーチを利用して新規顧客を獲得できる強力な卸売事業を持つことが賢明であると考えている。そのようなブランドは、数百の店舗を持ち、小規模な専門店よりも多くの消費者にリーチできるウォルマート(Walmart)のような最大手の小売店にますます注目している。

リーバイスのCEO、ミシェル・ガス氏は、人員解雇が発表される前に、最近の課題を考慮してもなお、卸売事業が同ブランドにとって重要であることを示唆していた。

ガス氏は「卸売事業は依然として当社にとって非常に重要であるが、より厳しくなっている。その理由には、たとえば物流センターの混雑などいろいろある」と、2024年1月初めに開催された全米小売業協会(National Retail Federation、NRF)のカンファレンスで語っていた。リーバイスのeコマース事業は過去3年間で総収益の2%から10%に成長している。

トゥルーレリジョンの主要成長分野である卸売



2023年年7月にトゥルーレリジョンのCMOに就任したクリステン・ダーシー氏は、同ブランドにとって卸売は主要な成長分野であり、2022年の収益は2億5000万ドル(約370億円)を超えたとGlossyに語った。

「当社の(D2Cの)eコマース事業は素晴らしいが、米国での卸売事業にはまだ成長の余地が多くある」とダーシー氏。その注力の表れとして、同氏は、2023年5月にジム・クシュナー氏を北米ホールセール担当エグゼクティブバイスプレジデントとして採用したことを挙げた。クシュナー氏は、ペリー エリス(Perry Ellis)やカルバン・クライン(Calvin Klein)などの卸売中心のブランドで10年以上の経験がある。「卸売において取り組めることは多くある」。

クシュナー氏は、300店舗以上を展開するパクサン(Pacsun)や700店舗以上を展開するアーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)など、幅広いリーチを持つ卸売小売業者にトゥルーレリジョンを参入させることに貢献した。トゥルーレリジョンのほかにも、卸売事業で成功を収めているデニムブランドがある。コントール・ブランズ(Kontoor Brands)傘下のラングラー(Wrangler)とリー(Lee)は、ウォルマートやディラーズ(Dillard’s)といった大手小売業者との強力な卸売提携のおかげで、2023年11月に両ブランド合わせて17%の利益増加を報告している。

小売で新規顧客を獲得するモニカ + アンディ



子供服ブランドのモニカ + アンディ(Monica + Andy)の共同創業者、モニカ・ロイヤー氏は、同ブランドはD2Cを中心にスタートしたが、ブランドの規模が拡大している今、その支援のために卸売を検討しているという。2023年には、同ブランドは最初の卸売パートナーであるウォルマートとの提携を開始した。現在ではウォルマートの1200店舗で取り扱われており、ウォルマート限定商品も発売されている。ウォルマートは同ブランドの単独卸売パートナーである。

「ウォルマートの1200店舗に進出すれば、全米のさらに多くの家庭にモニカ + アンディを届けることができる」とロイヤー氏はGlossyに語る。「ブランドの初期には14回ほどポップアップを開催したが、これは、顧客と出会い、顧客を獲得するための素晴らしい方法だった。だから今、全国各地に拠点があることは画期的だ」。

価値観が合う小売業者との提携がカギ



小売不動産開発会社、WSディベロプメント(WS Development)の小売エクスペリエンス担当バイスプレジデントを務めるカリーナ・ドノソ氏は、ブランドは卸売小売業者の「柔軟性の向上」に魅力を感じていると言う。2023年9月にオンライン卸売マーケットプレイス、フェアー(Faire)に出資したShopify(ショッピファイ)のようなハブ企業の新しいツールによって、D2Cの利便性の一部が卸売にもたらされていると同氏は話す。

「卸売は、特に同じような価値観を持つ小売業者と連携することで強力なマーケティングツールになる」とドノソ氏。「卸売は強力な成長戦略であり、購買チームとのやり取りを通じて貴重なフィードバックを得ることができ、購買チームはセルスルー分析や特定のコレクションの業績を提供できる」。

卸売のリスクと課題



しかし、卸売事業に問題がないわけではない。ブランドへの支払いが滞っていると伝えられているサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)のように、一部の卸売業者が苦境に陥っていることに加えて、卸売収入が減少しているブランドもある。

卸売の主なリスクは、ブランドが他社の運命に委ねられることであり、これは諸刃の剣となりうる。好調な小売店で取り扱われる場合は良いが、苦境にある卸売業者の場合はブランドのビジネスに影響が及ぶ可能性がある。

「卸売事業には固有のリスクがいくつかある」と話すのは、オンライン卸売マーケットプレイス、ニューオーダー・バイ・ライトスピード(NuOrder by Lightspeed)のアカウント管理ディレクター、トム・グローブス氏だ。「ブランドはストーリーテリングやイメージ管理をある程度放棄しなければならず、また生産状況を注意深く監視しなければならない。小売の需要を予測しすぎて過剰生産すれば、ブランドの利益を減少させる可能性がある。だが同時に、ブランドは商品を迅速に配送できなければならないし、小売業者が再注文したいときに在庫不足や配送の問題によって制限されるようなことがあってはならない」。

[原文:Fashion Briefing: More DTC brands are expanding to wholesale through big-box retailers]

DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)