2023年12月、都内で行われた日韓のコンテンツ系スタートアップ発掘イベント「GeeK waves」であいさつするデジタルハリウッドの吉村毅社長兼CEO(写真・デジタルハリウッド株式会社提供)

日本でも根強い人気を誇る韓国のコンテンツ「韓流」。世界に通用するコンテンツを日韓共同で生み出せないか――。そのような取り組みが始まった。「デジタルハリウッド大学」をはじめIT・デジタルコンテンツの人材養成で定評のあるデジタルハリウッド株式会社と、韓国の政府系機関である韓国コンテンツ振興院(KOCCA)がコラボし、コンテンツ系のスタートアップを発掘・成長のためにともに盛り上げようとしている。その目的は何か。デジタルハリウッドとKOCCAの双方に聞いた。

2023年12月に東京都内で、「GeeK waves」と名づけた双方主催の日韓のスタートアップ共同デモが行われた。GeeK wavesは、デジタルハリウッドとKOCCAが共同でアジアから世界を変える有望なスタートアップの発掘を狙ったもの。

とくにデジタルハリウッドはすでに2015年に社会人向けの起業家エンジニアスクール「G's ACADEMY」(ジーズアカデミー)を開校、これまでに100社以上のスタートアップを創出した実績を持つ。

日韓のコンテンツスタートアップが集まる

今回のイベントでは約70人の国内投資家などが集まった。KOCCAも韓国のスタートアップの海外進出を支援する「KOCCA Launchpad」プログラムを展開しており、そこから選抜した企業と、ジーズアカデミー発のスタートアップがそろった。

会場では、KOCCA側の登壇者でベトナムにWEBエンジニアリング拠点をおくFASSKER社(FNS HOLDINGS)と、日本側でジーズアカデミー発スタートアップとして登壇した、ベトナムでのラボ型開発を提供するグローバルHRTech企業・Freecracy社との間で、ベトナムにおける開発人材面での協力の可能性などが協議された。それ以外の交流も活発に行われるなど、この場ですでに、追加投資や業務協約にむけた関係構築の成果も生まれている。

韓国側からも韓国語で「シジャギパニダ」、「始めたらことはすでに半分終わっている」という同国らしいチャレンジマインドを表現することわざがある。石橋を叩く慎重な日本文化と、この韓国ビジネス文化が融合すれば鬼に金棒だと、韓国側は感じているという。

日本側は韓国のコンテンツ産業をどう評価しているのか。「若いプレーヤーたちの熱く、旺盛なチャレンジマインドとすさまじい努力。これがコンテンツの質とマーケティングにグローバルな競争力を持たせ、才能のある人材が集まっている」と、デジタルハリウッドの吉村毅社長兼CEOは評価する。そうした好循環において、政府系機関であるKOCCAが重要な役割を担ってきたと付け加える。

またジーズアカデミーのファウンダーでデジタルハリウッドの児玉浩康執行役員は「政策がいかに文化を発展させるかというよいお手本が、まさに韓国。日本のスタートアップにとっても学ぶことのほうが多い」と言う。

吉村氏は、「KOCCAの役割は、国家次元で韓国のスタートアップの育成と世界への発展を担うこと。その国家戦略に、日本の教育機関を代表して起業家育成のジーズアカデミーをはじめとする、国内外で活躍するIT・デジタルコンテンツ人材を育成してきたデジタルハリウッドが参画・協業する意味は大きい」と語る(吉村氏)。

日韓が互いの長所を生かし、シナジーを創出して世界市場に挑戦し、成長していくことは結果として日本経済の発展に寄与できると力を込める。

経済政策+文化事業

児玉氏も、「スタートアップが増えることは経済政策だけでなく文化事業でもある。スタートアップが持つフロンティア精神をベースにした文化を創出することは、また新たなスタートアップを生み出すことにもつながる。日韓は文化交流が盛んで、互いのフロンティア精神によい刺激を与えることで切磋琢磨できる」と、日韓共同の意味を説明する。

デジタルハリウッドはアジアでのデジタルコンテンツ人材の育成でも、すでに2011年、中国の上海音楽学院とデジタルハリウッド大学で合作した学部を創立。また2022年からはインドネシアの教育企業とのフランチャイズ的な協業も始めている。

韓国にも、2023年にデジタルハリウッド大学大学院とVRテクノロジーの開発と活用技術に長けた韓国スタートアップ企業のイェガンITが、デジタルコンテンツと産学協同での開発・マーケティング協力を目的としたMOU(基本合意書)を締結。同社の提供する実写ベースのメタバースプラットフォーム「Girabee(ジラビー)」で駆動する「DHUバーチャル・オープン・キャンパス」を開発、リリースした。

またデジタルハリウッドは、ファッション領域でメタバース上のショッピングモール「FASSKER」を開発・運営し、韓国のファッションテクノロジー領域をリードするFNSホールディングスともメタバースでのファッションテックなどで産学協同開発を行うMOUを締結している。

KOCCAトップの趙荽來(チョ・ヒョンレ)院長が、今回のイベントのために訪日した。「このイベントを皮切りに、日本市場への進出を加速させるための支援策を用意するために努力する」と意欲を見せた。


「GeeK waves」のために来日した韓国コンテンツ院の趙荽來院長(写真・デジタルハリウッド株式会社提供)

韓国コンテンツ産業をリードする趙院長は、日本のコンテンツ産業をどう見ているのか。今回のイベントや今後の日韓協業について話を聞いた。以下はその、一問一答だ。

――日本をはじめ世界で韓流コンテンツの人気が衰えません。

韓国のデジタルコンテンツ産業は、世界市場に向かって開拓していくほかありません。それはデジタルコンテンツがグーグルなどのグローバルなプラットフォームに乗せて普及せざるをえないためです。

そのためには、韓国人だけの思考や文化だけでなく、多種多様な考えを持った人たちが、受け手の心をつかむようなコンテンツがどのようなものかを把握するほかありません。1つの考えだけでコンテンツをつくっても拡大しません。だからこそ、いろんな考えを持つ人が集まってコンテンツをつくることが合理的なのです。

日本はよいパートナーになれる

――その点において、日本のデジタルハリウッドと協業することの意味をどうお考えですか。

今後、AI(人工知能)を活用したもの、最近はあまり話題に上りませんが、例えばメタバースといった世界が広がることで、世界のコンテンツ産業はもっと貢献できると考えます。新たな市場を開拓し、それをさらに大きくするニーズが生まれてくるでしょう。

そういったニーズを獲得し、維持し、拡大するためには自国の努力だけでは足りません。多くのプレーヤーが参画し、新技術を生み出して発展させて世界市場を開拓、あるいは新市場をつくり上げる。将来を考えると、韓国と日本はよいパートナーとなれます。

とくにジーズアカデミー、デジタルハリウッド側は、世界から資本を募って世界に打って出る人が多いと聞いています。この点はKOCCAとしても強く共感していますし、ぜひとも協力関係を深めていきます。

――韓流が注目され始めた2000年代初頭に、「韓国は人口が少なく、最初から世界に向けてコンテンツをつくらざるをえなかった」という話を聞いたことがあります。

そうです。韓国は市場規模が小さい。とはいえ、当初は韓国のコンテンツクリエーターも自国市場でウケることを狙ってつくってきました。おそらく、最初から世界を狙って製作されたのは、Netflixで2021年から配信されているドラマ『イカゲーム』ではないでしょうか。

韓国の市場を考えると、韓国のコンテンツはとても閉鎖的なものです。それでも、世界に向けてコンテンツをつくらなければいけません。それには他国の文化や感情を理解してこそ、世界的なコンテンツをつくることができると思います。

もともと、「現地化」「世界化」といえば、一度つくったコンテンツをその国の事情に合わせて少しつくり替えるというものが多かった。これからはそれだけでは済まないでしょう。よいコンテンツをつくるためには、最初から世界市場を考えて製作しなければならないし、各国の文化への感受性も高めなければいけません。

――韓国発のコンテンツは「こんなものがあったのか!」「こんな見せ方があったのか!」と思わせるものが多い印象があります。

確かにサプライズ的な要素を持ったコンテンツが製作され、広く受け入れられてきました。今後も、サプライズを与えるようなコンテンツは新しい技術の創出によって生み出されていくでしょう。

ただ、そのようなサプライズ的なものよりも、今後はその国、その人が共感できるようなコンテンツ、文化や考えや情緒面に訴えて共感されていくようなコンテンツがより好まれていくのではないかと考えています。先ほど指摘した「感受性」を含め、この点を考えると、これからのコンテンツ産業にはまだまだ克服すべき課題が多い。

「パープルオーシャン」出現も勝機

デジタルハリウッドが生み出すコンテンツは優秀で、非常に優れている機関であり人材も多く輩出しています。韓国は一度できたものを拡張することはできますが、企業などゼロから生み出し上手に育てるのは日本が優れています。

スタートアップなどプレーヤーを新たに増やせれば、そこには新たな市場を創造できます。この点、今後は既存市場の拡張より新市場の創出に貢献できるプレーヤーをつくっていきたいと考えています。

よく市場の規模や競合状況を「ブルーオーシャン」「レッドオーシャン」といった言い方をしますが、2024年以降は「パープルオーシャン」が出てくるのではと思っています。双方のオーシャンが交わるとパープルに変わる。そういった規模の市場こそ、コンテンツが必要としているのではないでしょうか。

現在、ドラマはすでにレッドオーシャンかもしれない。とはいえ、ドラマでもいろいろ派生させたものを生み出してパープルにすれば、そこでは十分に勝ち目があります。実は、日韓はこういったパープルオーシャンを生み出し、そこで飛躍できると考えています。

(福田 恵介 : 東洋経済 解説部コラムニスト)