創作に行き詰まった時には、得意とするジャンル以外に取り組んでみたり、普段とは違う手法を試してみたりすると、新しい発見があってうまくいくことがあります。ニューヨーク・タイムズでノンフィクション作品のベストセラーを生んだアボット・カーラー氏が、「フィクション作家がノンフィクションを書く利点」および「ノンフィクション作家がフィクションを書く利点」について語っています。

Why Nonfiction Writers Should Try Writing Fiction (and Vice Versa) ‹ Literary Hub

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カーラー氏はカレン・アボットというペンネームで2008年に「Sin in the Second City: Madams, Ministers, Playboys, and the Battle for America's Soul」というノンフィクション作品を出版しました。アメリカ史上最も有名な売春宿とされたエバーリー・クラブを扱ったこの本は、ニューヨーク・タイムズのベストセラーに選出。カーラー氏はその後3冊のノンフィクションを執筆し、いずれも高い評価を得ています。



あるとき、カーラー氏は「一卵性の双子の片方が事故で記憶を失ってしまう」というドキュメンタリーを見て、切り離せない双子の絆や心情について扱った本が書きたくなったそうです。しかし、ノンフィクションとしては既に語られた話であるため、カーラー氏は初めてフィクションの執筆を試みました。

ノンフィクションとフィクションはまったく違うジャンルであり、ノンフィクションでベストセラーを複数生み出した作家であっても、フィクションを書くためには新しいスキルとツールが必要になります。そこで、カーラー氏は自身の執筆キャリアで初めて、自分自身の人生や家族の生い立ちについて掘り起こすことでインスピレーションを得ることにしました。

カーラー氏によると、ノンフィクションの執筆における特徴として、「原作(実際の出来事や証言)の中に普遍かつ完璧な言葉が存在している」点があります。そのため、作品に登場する会話は「実際に話していたこと」のみを描写することになり、「表現が美しくない」とか「単語選びが正確ではない」といったような誤った表現をするということが基本的にはありません。カーラー氏の場合は、執筆を開始する前に必要な情報をあらすじのようにまとめると、本自体よりも長い明確な青写真が出来上がると話しています。



一方で、フィクションについては「恐ろしいほどの自由があります」とカーラー氏は述べています。実際の日付や言葉に縛られることはなく、ゼロから年表を作成できます。展開上進んではいけないルートがあったり、物語が行き詰まって立ち止まったりはしますが、それらを抜けた先には解放感が待っていることも多いです。

カーラー氏はフィクションの執筆を経て、「フィクションは私に、物語を前進させない長いバックストーリーのセクションを避けるなど、プロットからの編集作業を冷酷に行う重要性を教えてくれました」と述べています。また、ノンフィクション作家としてフィクションに向かう姿勢として、カーラー氏は「ノンフィクションは、綿密なリサーチと鮮やかな詳細に重点を置いています。同じことは、架空の設定を現実的に感じさせるための努力にもつながります」と表現しました。

反対に、フィクションとノンフィクションで共通しているのは、読者に「次が気になる」と思ってもらいたい点。次に何が起こるかとわくわくさせるような切り口は、フィクションとノンフィクション両方の執筆を経験することで、相互に経験を生かすことができるとカーラー氏は語っています。