退職金をだまし取られるシニアが多く…

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「FX取引、絶対にもうかる」「一緒に稼ごう」

LINEチャットで知り合った見知らぬ相手から1000万円以上もだましとられるシニア世代が急増しているため、国民生活センターは2024年1月24日、「SNS上の投資グループで勧誘される詐欺的なFX取引トラブル−その仲間、信じて大丈夫?」という警告リポートを発表した。

人生経験が豊富な人が簡単に騙されるとは、いったい、どんな手口か。大事な老後資金を守る方法を担当者に聞いた。

儲かった分を出金しようとすると、多額の税金要求

FX取引(外国為替証拠金取引)は、証拠金を預けて、日本円と米ドルなど2つの国の通貨の為替相場を予測して売買を行う金融商品のこと。

仮に、為替相場が1ドル=100円の時にドルを買い付け、円安になり1ドル=110円でドルを売却すると、10円の利益が出る。逆に、1ドル=90円と円高になると、10円の損失が出る【図表】。

FX取引では、預け入れた証拠金の何倍もの金額の取引を行なうことができるレバレッジという仕組みがある。そのため、利益も大きいが、損失も大きくなる。

たとえば、50万円を預け、証拠金の20倍の取引を行うと、1000万円相当のドルの買い付けができる。その際、1ドル10円の値動きがあると、100万円分の利益もしくは損失が発生する、リスクの大きい取引なのだ。

国民生活センターによると、FX取引をめぐる相談は近年増えており、2023年度(11月末現在)は約2200件。50歳〜90歳代が5割以上と、ミドル・シニア層が多いのが特徴だ。

こんな事例が代表的だ。

【事例1】退職金の運用を学ぶためにSNS上の投資グループに参加し、FX取引をしたが出金できない

老後に備えて退職金を運用する勉強をするため、SNSの広告で見た投資セミナーのLINEグループに登録した。そこで、実際に資産運用に成功したという事例を聞き、投資セミナーの運営事業者に勧められてFX取引を始めた。FX取引アプリが無料で提供され、取引を進めると利益が出た。徐々に投資額を増やし、計500万円を毎回異なる個人名口座に振り込んでいた。

その後、500万円の出金を求めたところ、「出金には税金として160万円が必要」と言われ振り込んだ。しかし、「間違った口座に入金された」と言われ、再度別の口座に160万円を請求され、指示通りに振り込んだ。しかし500万円は出金されなかった。(2023年9月・60歳代男性)

【事例2】FX取引で口座から出金を申し出ると、口座残高の半分の証拠金を要求された

SNSで見たFX取引の広告が気になり、アクセスしたらLINEのグループに招待された。グループ内では「もうかった」という成功談が多く書き込まれており、興味を持った。グループ内にいたFXの取引所担当者を名乗る者の案内に従い、免許証の画像を送信してFX口座を開設し、証拠金約1000万円を振り込んだ。

さらに振り込もうとすると、インターネットバンキングがブロックされた。銀行に問い合わせると、「不審な点があるので制限した」と言われた。FX口座には取引の利益を含め約1400万円あったので、取引所のオンラインサポート窓口に出金を申し出た。すると、「出金するためには、さらに口座残高50%の証拠金(約700万円)が必要だ」と言われた。投資に詳しい知人に相談したら、「詐欺に遭っている」と言われた。(2023年8月・60歳代男性)

シニアが騙されるのは、スマホに慣れていないから

J-CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった国民生活センター相談情報部の岩粼直子さんに話を聞いた。

――騙されるケースをみると、SNSでFX取引の広告を見てアクセスし、LINEの投資グループチャットの「儲かりますよ。一緒に稼ぎましょう」「〇〇万円稼ぎました」という成功体験のカキコミを信用して数百万円、1000万円という巨額のお金を注ぎ込むというパターンが実に多いですね。

私も現在70歳代男性ですが、おそらくビジネスの世界で生きてきたであろう60歳、70歳代の社会経験が豊富なはずの人たちが、こうも簡単にだまされることが驚きです。なぜ、顔もわからない相手の詐欺に引っかかるのでしょうか。

岩崎直子さん LINEの投資グループチャットの「儲かった」「稼いだ」というカキコミは、みんな詐欺グループのサクラです。本当に実在する人物か、男性か、女性か、極めて怪しいです。

それでも信用してしまうのは、あくまで推測ですが、60歳、70歳代以上の方々は、シニアになってからスマホを始めた人が多いのではないでしょうか。若い世代には、SNSに架空人物が多いことは織り込み済みですが、シニアの人々は、SNSにまだ慣れていない。だから、その危険性がよくわかっていないのだと思います。

LINEでグループチャットをやっても、かつて知っている仲間と携帯電話やメールでやりとりしたリアルな人間関係と同じだと思う傾向があるのではないでしょうか。普段の友だちと同じ感覚で接していると思います。

――なるほど。私もLINEのグループチャットを始めてまだ2、3年です。今のところ家族や趣味仲間、昔の会社の同僚とか、知っている「リアルな相手」としかやっていません。LINEの相手に架空人物がまぎれこんでいるとは、考えたくもないですね。

岩崎直子さん もう1つシニア世代がだまされやすい理由は、年金だけでは足りない、老後資金を増やしておきたい、という切実な思いがあるからでしょう。

投資に関心を持ち、インターネットで検索すると、FX投資の広告が上位に表れてくるというシステムも、個人的には問題があると思いますが、ちょっとアクセスしてのぞいてみたいという気持ちはわかります。クリックすると、「儲かった」「稼いだ」というLINEのグループチャットの罠が待っている仕掛けです。

「必ず儲かる」と言われた時点で、完全な詐欺

――こうした悪らつな詐欺に引っかからないためには、どうしたらいいでしょうか。

岩崎直子さん まず、「必ず儲かる」とか「簡単に儲かる」話など絶対にない、もしあれば、世の中お金持ちだらけになる、と思ってください。そもそもFX取引を扱う金融商品取引業者は、「必ず儲かる」といった断定的な判断を提供することを禁止されています。

次に、事例で紹介したようなグループチャットの罠の手口を知ってほしいです。FX投資の広告でそれを見たら、「ははん、これか。詐欺だな」とピンときてほしいです。

――事例の中には、「FX口座で2倍以上の儲けが出たので、そのうちの10数万円の出金を申し込んだら、ちゃんと自分の口座に入金された」というケースもありますね。

岩崎直子さん それは「撒き餌」です。「儲けが出た」といっても本当かどうか、わかりません。画面上でいくらでも細工ができます。エサを巻いて信用させて、もっともっと入金させる常套手段です。

そして、数回にわたり1000万円近く振り込んだところで、「出金するには税金を支払わなくてはならない」と言って、出金を拒否したうえ、連絡が取れなくなります。

そもそも、税金は国や地方自治体に自分が支払うべきものであって、個人に支払うものではありません。全くのウソ。税金の支払いを要求された時点で、「ははん、詐欺だな」とピンときてほしいです。

それ以前の段階で、FX取引の証拠金を個人名義の口座に振り込ませるケースが非常に多いです。しかし、FX取引は金融庁に登録された金融商品取引業者しか取り扱うことができませんから、法人名義以外の個人名義の口座に振り込ませる時点で、完全にアウト、詐欺です。

――そうすると、基本的な知識の欠如から騙されるシニアの人々が非常に多いということですね。

岩崎直子さん 残念ながら、その通りです。被害を防ぐポイント1は、FX取引についてしっかり勉強すること。その2は、業者についてきちんと調べること。最低限、何かあった時の連絡先の電話番号くらい知っておきましょう。実は、電話番号だけでは心配です。

金融庁ではウェブサイトで「免許・許可・登録等を受けている金融商品取引業者一覧」を公開しています。ここに載っている業者以外と取引しては絶対にいけません。ウェブサイトには過去に問題を起こして警告された業者も載っていますから、しっかりチェックして、退職金などの老後資金を守ってください。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)