土曜夕方の気だるいひとときに、1時間限定でオープンする「スナックラジオ」。奔放女子と純情男子のカリスマにして稀代の聞き上手リリー・フランキー店長と、およそ遠慮というものを知らないアルバイト女子店員の本音トークが心地良いと評判で、多くの常連客リスナーが癒しを求めてやってくる。

時に香ばしく、時に甘酸っぱく、時にほろ苦い……そんな隠れた名店の2024年一発目の放送は、2年ぶり2度目の年またぎ生放送となる“年越し営業SP”。競争率100倍の超難関を勝ち抜いたラッキーなリスナーの男女15名を招き、昨年のクリスマス放送回でお目見えしたチェリーボーイ6名による“童貞合唱団”、さらにはいわくつきの腹話術人形ケンちゃんも参加するという豪華極まりない120分。放送を終えたばかりのリリー店長を直撃した!

 

リリー・フランキー…1963年11月4日生まれ。福岡県出身。イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など、多分野で活動。 絵本「おでんくん」がアニメ化、小説「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」は2006年本屋大賞を受賞。 音楽活動では、総合プロデュースした藤田恵美「花束と猫」(ポニーキャニオン)が 第54回 輝く!日本レコード大賞において優秀アルバム賞を受賞。 俳優としては、映画「ぐるりのこと。」でブルーリボン賞新人賞を受賞。「そして父になる」では、第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、 「万引き家族」では 第42回日本アカデミー賞優秀主演男優賞ほか多数の映画賞を受賞した。公式HP「ロックンロールニュース」

 

【リリー・フランキーさん&スナックラジオ年越し営業SPの撮り下ろし写真】

童貞のイタリア語がいいなと思ったんですよね

──あけましておめでとうございます。年またぎ放送、おつかれさまでした。

 

リリー たまに生放送でやるんですど、やっぱりあっという間でしたね。なんかダラダラしたところがないとこの番組っぽくないっていうか、あんまり決まった台本どおりにやっていくと面白くないので、まあいつもどおりダラダラと。とはいっても生放送ですから、だからまあみんな使える話だけをしてたって感じですね。

 

──招待したリスナーさんは競争率100倍だったとか。

 

リリー 15人でしたけど、お客さんを入れてっていうことができましたから、やっとスナックの体を成した感じではありますね。2022年はクリスマスイベントということで、番組初の公開録音スタイルのイベント「公録スペシャルon X’Mas Eve²」を下の会場(TOKYO FMホール)でやって、300人ぐらいの人に来てもらっていろいろやったんですけど、やっぱりこのくらいの少ない人数の方がスナックっぽくできたかな。こういうちっちゃな集まりをたくさんの人に聴いてもらうというのがいいんですよね。

 

──前回のイベントでお目見えしたのが童貞合唱団ですね。

 

リリー 課題曲として伝えてあったのが「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」だったんですが、よく頑張ったと思います。いい出来でした。多分ちゃんと曲を聴き込んできたんだと思いますよ。メンバーがみんな関東近辺住まいだったらじっくり練習もできるんですけど、半分以上地方の子たちですから、今日は放送6時間前の17時ぐらいからスタジオ入りしてもらって必死に練習してもらいました。ムズイ曲ですが、その甲斐は十分ありましたね。

 

──なぜその曲を?

 

リリー いろんなミュージシャンの方が歌っている名曲ではあるんですが、その中でもイル・ディーヴォっていうめちゃくちゃモテそうなイタリアの4組のコーラスグループも歌ってるんですよ。それを童貞が歌うと面白いなと。それに童貞のイタリア語がいいなと思ったんですよね。

 

──あれは響きましたね! ところでメンバー6人の顔ぶれに全く変更がないようですが……。

 

リリー クリスマスイベントをやるにあたってリスナーから合唱団員を募集したんですが、やっぱりメンバーは童貞であってほしいという思いがあって。彼らは多数の応募者の中から、作家とディレクターの厳しい選考をクリアした選りすぐりの童貞ですからね。やっぱり童貞しか出せない声っていうかね。声はごまかされませんから、嘘はつけませんよ。童貞合唱団はキスでもしたら即脱退ですから、その辺のアイドルグループより厳しいですよ。アイドルだったら、いくらでも嘘ついていいんですけどね(笑)。

 

──今回の年またぎ放送で、お客さんから新たに2人増員しそうな勢いでしたね。

 

リリー もっと練習する時間があったらレパートリーを増やして、営業に行かせたいんだけどね。

 

──オープニングの「お正月」、エンディングの「一月一日」は分かりますが、途中の「ウィ・アー・ザ・ワールド」はどういう経緯で?

 

リリー あれはなんだったのかな? 多分今日のゲストの腹話術人形のケンちゃんのせいなんでしょう。ケンちゃんは知人の映画評論家・黒住先生(黒住光さん)のお母さんが生前大切にされていた腹話術人形で、亡くなられてお葬式に行ったときに、祭壇の遺影の横にガーンとケンちゃんが座ってたんですよ。ああいう場で笑っちゃいけないというのは一番キツイじゃないですか(笑)。黒住先生から、それ以来ずっと押し入れの中にしまったまんまだって聞いたから、外に出してあげようってことで、今日特別に連れてきてもらったんですよ。トランク詰めでやってきたんですけど。

 

──先の童貞合唱団もそうですが、どっちもイメージを喚起させるネタですね。

 

リリー やっぱりラジオでしかできないことをやりたくてね。放送作家の時にコントもいっぱい書きましたけど、宇宙を舞台にしたSFものをやろうとすると、これがテレビや映画だとどうしてもしょぼくなるんですよ。そこには限られた予算というハードルがあるから。でもラジオは違うんですよ。例えば「ここは宇宙」って言っちゃえば、リスナーは最大級のデカい宇宙を想像してくれるんです。そういうところがラジオのすごく面白いところでね。

昔、「スネークマンショー」を聞いてたころに、桑原茂一さんがゴルフの中継をラジオでやるってコントがあって、「はい18番ホール」って声にパットの音に続いてカップインする音がカランカラーンと響いて「まぁご覧のとおりですね」みたいな解説が入る、ただそれだけなんですけど、そういうのいいなって思ってね。みんなが想像を掻き立てるような。テレビが情報過多になってる分だけ、ラジオは情報というか、逆に説明が足りない方が面白いんじゃないかと思うんですよね。

 

性に奔放な女性と童貞がお客さんで来がち

──“スナラジ”は今年3月から4年目に突入しますね。

 

リリー その間、ほとんどがコロナ禍だったんですよ。それがコロナ禍だと、いかんせんZOOMですからね。ホントにやりづらかったですよ。一番ラジオが持ってなきゃいけない臨場感っていうんですかね。やっぱり、スタジオの中のあの空気をみんなで共有したいわけじゃないですか。それが感じられないのは難しいですよね。

ラジオのリスナーとパーソナリティってめちゃくちゃ関係が近いんですよ。だから道歩いてて、一番声をかけてくれる人は、僕の本を読んでくれた人もそうですけど、ラジオリスナーもそうなんですよ。一対一の関係というか、同じ穴のムジナ感っていう感覚がリスナーとパーソナリティにはあるんですよ。

 

──それにしても土曜16時にしては攻めてますよね、下ネタも多いし。

 

リリー 番組が始まって1、2か月はちょっと気にはしてたんですよ。でもあんまり関係ないと思い直したんです。ラジオを聴くライフスタイルは昔と随分変わっていて、オンタイムで聴いていない人も結構多いですからね。

昔は聴きたい時にアンテナの場所を考えたりして、ジャストに合わせるのが難しかったものですけど、例えばradicoが革命的だと思ったのは、TOKYO FMだと38局ネットですが、地方の一個しかネットしていない番組も同じお皿に乗っかってるということに、ラジオの可能性をすごく感じましたね。そういう環境が整って、最近はラジオを聴いてる若い人が増えている印象が実感としてあります。

 

──リスナーはどんな方が多いんでしょうか。

 

リリー 大体俺の場合、昔からイベントとかやると、性に奔放な女性と童貞がお客さんで来がちなんですよ。「週刊プレイボーイ」(集英社)で人生相談の連載を20年くらいやってますけど、そっちも大体同じような客層なんです。やっぱり男の子の悩みの方がしんみりしてて、女の人の方が奔放なんですよね。

 

──BABIさんとか、しゅうさんとか、アルバイト店員の女のコが面白いですね。

 

リリー スナックの体なので、アルバイト店員として入ってもらってる女の子たちはいわゆるプロのタレントさんじゃないんですよ。中には、なかしー(中島侑香)みたいな女優さんもいたりするんですけど、基本的にプロのタレントさんじゃないところの面白さというか、それがスナックっぽさになってるんですよね。

町のスナックに入った時の、だるいバイトの感じっていうのが“スナラジ”でやりたいことなんですよ。

 

──番組の知名度が上がって、BABIさんも話せないことが増えてきたとか。

 

リリー いや、BABIの話なんて元来9割使えないんですから(笑)。聴いてると分からないと思うんですが、いつも1時間半ぐらい回して、バッサリ切って編集してるんです。BABIの発言で実際に使えるところなんてほんのちょっとしかないんですよ。今日みたいな生放送の時は、彼女も大人になったから生放送用の受け答えをしてるんですよね。

だから実はしゃべってはいるんですよ。音声が加工されてても、BABIが何を言ったのかをリスナーに想像してもらう分には、それはそれでいいっていうかね。

 

──プロデューサーによると、BABIさんも放送できるかできないかの境界が分かってきたんじゃないかという分析でしたが。

 

リリー こなれてもらっても困るんですけどね。バイト店員たちには、ある程度のアマチュアリズムの面白さをずっと持っててほしいんですよ。

最近、女性のリスナーがどんどん増えてきてるんですが、やっぱりBABIたちがホントに思ってることをズバッと言うってところが、逆に何周か回って時代的にちょうど良くなってきてるんじゃないですか。

いわゆるホントのフェミニズムの形っていうのが、女性が妙に気を回して女性はこうあるべきだと考えているような概念じゃないというかね。まあでも飲み屋でみんなが話してることってそんな感じですよね。

 

その人が抱えている悩みに正しい答えはないんですから

──そう考えると、「スナックラジオ」っていいタイトルですね。悩める男女の癒しの場というか。

 

リリー いや結局、“スナラジ”に寄せられてる悩みとか相談事っていうのは、多分何千年も前からあるヤツで、ホントに嫉妬ひとつにしても、性の悩みにしても、いろんな哲学者が本に書き記してきたようなことでね。こういう悩みっていくらAIが進化しようがSNSが発展しようが、人間が持っている悩みは変わらないんですよ。しかも物事が便利になればなるほど悩みは増えていくんです。

それに、番組としても悩みに対してちゃんと答えを出してるわけじゃないですからね。そもそも、その人が抱えている悩みに正しい答えはないんですから。

 

──投稿者も最初から答えを求めてないのかも。

 

リリー やっぱり飲み屋でそんな話をする人って、ただ聞いてもらいたいだけじゃないですか。で、僕らはそのことをネタに話してるっていう。だから一応飲み屋の体でやってるのもありますが、説教くさいのもイヤだし、押しつけがましいのもイヤだし、批判的なものもイヤなんですよ。

そういうことは極力やらないようにして、お客さんがバイトの子と飲んでるような気分になってもらえればね。だから「スナックラジオ」は僕の番組ということになってますけど、僕は作家の気分でやってます。自分がパーソナリティっていう気分じゃなくて。だからアルバイトの女の子たちから、どうやって話を引き出すかっていう、店主としては気を遣うタイプですよね。

 

──そういう意味ではなかなか素晴らしい看板娘ですね。

 

リリー やっぱりBABIは他にないぐらい面白いですからね。20年早く生まれてたら、テレビの大人気者になってたんでしょうが、残念ながら今のコンプライアンス的に、今のメディアにはBABIを抱えきれないっていう(笑)。

発想もそうですし、大体人生経験がありますからね。それにタレントじゃないから媚びてないっていうかね。あれくらいの年齢の女のコがどういうふうに思われたいと思ってるのか見透かされるような、みっともないところがないっていうか。あいつ別に、ラジオ聴いてるリスナーの人にいい子に思われようなんてちっとも考えてないと思いますよ。

 

──BABIさんは女性人気も高いそうですね。

 

リリー 物事を思ったとおりに、ちゃんと正直に話してるからでしょうね。だから今までのバイトの子に言ってるのは「嘘を言うなよ」と。嘘は絶対リスナーに見透かされますから。

 

スナックは水商売ですから、いつまで続くか分かりません

──店長としては、あんまり女の子をいっぱい抱えてても困りますね。

 

リリー お試しで来てもらった子もいるから、20人じゃきかないぐらいいますね。毎回シフトも店長の僕が決めてるんですけど、バイト同士の相性っていうのもあるんですよ。「あの子が入ってるときは、あの子が一緒の方がうまくいく」まである。

それに、しゅうみたいに全くしゃべれなかった子がちゃんとしゃべれるようになると、聴取歴の長いリスナーのおじさんが「しゅうちゃんが最近育ったねー」って感激してますよ。

 

──スナックの常連さんみたいですね(笑)。

 

リリー スナックに来て店長の話を延々聞いてる客なんていないですから。やっぱりバイトの女の子たちが面白ければスナックが助かるんですよ。

その代わり、みんなプロじゃないから、勝手にドタキャンされる時もあるんですよ。急に来ないとか、今日はまあしゅうの遅刻ぐらいで済みましたけど。もしあいつらがプロだったら、それに見合う対価が必要になるじゃないですか。宣伝協力とか、ギャランティーだとか、車用意してくれんの、とか。あいつらの場合はそれがなくて、ホントに薄給で働いてますから(笑)。だからもうドタキャンしようがどうしようが文句言われる筋合いはあいつらにとっちゃないんです。

 

──ブラックですね……。でも、それくらいのユルい関係性が“スナラジ”の居心地のよさに繋がってるのかもしれません。

 

リリー クライアントがラジオCMを入れてくれたらそれで、「こんなにもらっちゃった」って喜んでますからね。お客さんにタクシー代もらっちゃったみたいな(笑)。

コンセプトとしてはまだお客さんが来てないスナックで、マスターとダベッてるっていう状態なんですよ。それをリスナーの人たちが聴いていると。だからおべっか使うこともない。

 

──2024年の“スナラジ”は?

 

リリー まあ今までどおりですね。やっぱりミニマムな場所でミニマムな話をするっていうのがいいんじゃないかと。この番組、局からのイベントをものすごく断ってる番組なんですよね。お客さん入れてやりますか、とか、ネットで同時配信するとかいろんな提案があるんですけど、それも違うなっていう。

大箱でやれるラジオの内容と、そうじゃないものがあると思うから。スナックは水商売ですから、いつまで続くか分かりませんが、“スナラジ”はしばらくこのスタイルで。

 

──今年の大みそかも年またぎやりますか?

 

リリー やらないと思います。

 

──ありがとうございました(笑)。

 

 

リリー・フランキー スナックラジオ

TOKYO FM 毎週(土)午後4時〜4時55分
https://www.tfm.co.jp/snack/

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/左文字右京