YOASOBI「アイドル」はTikTokでも人気に。映画とのタイアップでスピッツも健闘した(記者撮影)

2023年を振り返ると、大本命からベテランまで幅広いアーティストが活躍する混戦模様の音楽チャートとなった。

ビルボードジャパン(運営:阪神コンテンツリンク)が発表する年間ヒットチャート「Billboard Japan Hot 100」(期間2022年11月28日〜2023年11月26日)は、YOASOBIの「アイドル」が総合首位を獲得した。同曲はTVアニメ『【推しの子】』のオープニング曲。4月に初登場し、21週連続で総合トップを維持したロングヒットだ。

ビルボードは複数の指標を基に算出する複合チャート。CD販売、ダウンロード数、ストリーミング再生回数、YouTubeにおけるミュージックビデオの動画再生回数、ラジオのオンエア回数、カラオケ歌唱回数が含まれる。

CDやダウンロード購入の「所有」だけでなく、どれだけ多くの人が楽曲を聴き、ビデオを視聴し、歌ったのか。「接触」や「利用」を組み合わせる点が特徴だ。

複雑な曲だが、若年層の支持は強い

アイドルは2023年4月に登場して以降、5カ月間首位を維持し、その後も4位以上を守るなど、根強く支持された。ダウンロードとストリーミング、ミュージックビデオ、ラジオで1位を獲得する圧倒的な強さだった。

ボーカロイド楽曲(作詞・作曲のAyaseはボカロP出身)のように、激しく揺れ動くメロディーライン、ダークな雰囲気の歌詞・ラップ、複雑な転調も詰め込むなど、キャッチーながら、多様な面を持つ楽曲だ。


多くのファンが「SNSで使いたい」となり、TikTokでも人気を博した。アニメのコスプレや「推し」のアイドルの動画、歌ってみたなど、さまざまな動画で使用された。まさに現代のヒット曲だろう。

2位はOfficial髭男dism(ヒゲダン)の「Subtitle」(2022年10月リリース)。ドラマタイアップの楽曲で、年初から米津玄師「KICK BACK」(年間4位)とハイレベルなつばぜり合いを演じた。指標面ではストリーミング2位、ダウンロード3位、ミュージックビデオ3位と安定の強さ。ヒゲダンは2019年の「Pretender」が44位に入るなど、100位内に8曲がランクインしている。

3位のVaundy「怪獣の花唄」は2020年5月リリースの楽曲。2022年以降は右肩上がりとなり、同年のNHK・紅白歌合戦の出場で注目され、2023年は上位をキープし続けた。指標面はストリーミングで3位、カラオケで1位。地上波の露出の影響度と、ファンが非常に長く楽曲を聴き続けることがわかる一例だろう。

9位はなとり「Overdose」。ストリーミング7位、ミュージックビデオ10位と健闘した。なとりはシンガーソングライターで現在20歳の若手。米津玄師やキタニタツヤに影響を受けたと語っている。主戦場であるTikTokでバズるだけでなく、うまくストリーミングの聴取につながった例だ。

デビュー33年目のスピッツがランクイン

近年では非常に珍しく、ベテランもトップ戦線に進出した。スピッツ「美しい鰭(ひれ)」(10位)だ。同曲は劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の主題歌として書き下ろされた。映画とともに、デビュー33年目のベテランがヒットを飛ばしたのは快挙といっていいだろう。

ベテランの場合はファンの年齢層も高くなるため、ストリーミングなど、デジタルで思うように結果を残せないことがある。だが、スピッツは映画をきっかけに新規ファンを取り込み、ストリーミングで11位、ダウンロードも11位と両面で結果を出している。

スピッツは近年、以前の楽曲を使用したタイアップがみられていた。コンテンツ制作サイドにファンが多いことから、今年の大ジャンプにつながった背景があるようだ。

このように、アニメやドラマ、映画などタイアップの強さは際立つものの、タイアップなしの楽曲もある。そして、無名の若手でも、ベテランにもヒットを飛ばすチャンスがある。現在の多様な音楽シーンが浮かび上がるチャートだった。

ビルボード事業本部上席部長の礒粼誠二氏は「2023年はストリーミングのロングヒットが増えた。CDなどのセールスでドンと上がっても持続しない。ファンは想像よりもはるかに長く聴き続けるし、ダウンロードもし続ける」と分析する。やはり長期で聴かれる話題作り、発信が重要になる。


King & Princeのベストアルバムが首位で、140万枚を売り上げた。Snow Manも126万枚を売り上げ2位。韓国グループのSEVENTEENも大活躍している

やはり大きい紅白の影響力

続く2024年の緒戦で注目されるのはAdo「唱」。週間チャートで総合首位を維持している。リリースは2023年9月で、ロングヒットとなっている。注目されるのは初出場となったNHK紅白歌合戦の効果だろう。

紅白が一般層に与える影響は大きい。米津玄師の大ヒット曲「Lemon」は2018年末に生中継で登場すると、多くのメディアで話題になり、出演直後からダウンロードやミュージックビデオのポイントを伸ばした。そして2018年に続き、2019年も年間チャートを連覇したのだ。

初出場組の10‐FEET(「第ゼロ感」が2023年5位)やMrs.GREEN APPLE(「ダンスホール」が7位)などが注目されそうだ。もちろん、YOASOBI「アイドル」も再度盛り上がる可能性がある。

無名の若手が一気に注目され、ベテランもヒットを飛ばす。XGのように海外でのヒットを狙うグループもある。近年のチャートはロングヒット曲も多いが、多様化が一段と進んでいるように感じられる。2024年も頂点を目指し、激戦が繰り広げられそうだ。

(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)