2024年は建設・不動産業界に関連する法改正などがいくつか予定されている(写真: Yoshitaka/PIXTA)

社会や時代の動向、ニーズに合わせ、毎年多くの法律が改正されている。ここ10年ほど不動産価格の高騰が続く建設・不動産業界においても例外ではない。

少子高齢化による人手不足、空き家増加、建築資材の高騰などさまざまな課題を抱え、大きな変革を迫られているのが現状だ。

中でも2024(令和6)年は、業界に大きな影響を及ぼす法改正、ルール変更が多数予定されている。

そこで今回は、建設・不動産業界に関連する新たな法改正について5つをピックアップしてご紹介する。影響度・注目度順にランキング形式で見ていこう。

空き家の相続、登記のルールも変わる

【5位】 空き家の譲渡所得の3000万円特別控除(空き家の発生を抑制するための特例措置)

少子高齢化や都市部への人口集中により、空き家が増えている。特に地方の空き家は「負動産」として放置され、老朽化や荒廃が深刻な社会問題となっていることはご存じの通りだ。

国は2014年に「空家等対策特別措置法(空家法)」を制定し、空き家の流通や再利用を促すための対策を講じている。

また相続や遺贈によって取得した空き家を譲渡し、得られた利益から3000万円を控除できる制度(「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」)がある。

空き家相続後の税負担を軽減するこの特例はもともと2023年12月31日までだったが、令和5年度税制改正で2027年売却分までと4年の延長が決まった。さらに2024年1月1日以降については適用要件の緩和も認められることになっている。

従来は売主が家屋を耐震改修しているか、もしくは更地の状態にしたうえで引渡し・決済まで進めるのが特例の適用条件となっていた。

しかし今後は売主が売却を行った後、買主が耐震化や更地にする場合も適用が認められることになった。

売主にとっては制度が使いやすくなり、空き家の流通面においてもプラスに働く法改正と言える。

一方で、相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上のケースでは控除上限が2000万円に引き下げられる点には注意が必要だ。

【4位】 相続登記の申請義務化

不動産の所有者が亡くなり、土地や家屋などを引き継ぐ際、登記名義を相続人に変更する手続きの「相続登記」。法務局で登記申請を行うもので、いわゆる「名義変更」と呼ばれる手続きだ。

これまで相続登記は義務ではなく、手続きをしなくても罰則もなかった。そのため誰が所有者かわからない土地や住宅が増加し、管理不全状態になるなどトラブルにつながるリスクが大きくなってきた。

そのため2024年4月1日からは、「相続で取得したことを知った日」から3年以内の相続登記が義務化される。また住所等の変更登記の申請は2年以内に行う必要がある。

正当な理由がないのに登記を行わなければ、10万円以下の過料、つまり罰則も定められている。相続のトラブルなど特殊な事情がある場合は申告すれば延長できるが、過去に相続した分についても手続きを行わなければならない。

相続の予定がある方はルールに則った対応に留意しなければならないが、この法改正で所有者が明確になれば、より売買がしやすくなるなど流通面の利点は大きい。

贈与税、相続税、節税対策は?不動産に関わる税制改革

【3位】 生前贈与加算期間(持ち戻し)が3年から7年に

生きているうちに土地や収益物件など、自らの財産を確実に残すため、また節税対策として生前贈与を考えている方もいるのではないだろうか。

生前贈与には毎年110万円までなら非課税となる暦年贈与、2500万円まで非課税で贈与可能な相続時精算課税制度の選択肢がある。

「暦年贈与」は110万円までは課税されないものの、贈与額が超過した場合は累進課税となる。

対して「相続時精算課税制度」は、2500万円を超えた部分は一律20%で課税されるため、まとまった金額を贈与する場合はメリットが大きい。

しかし一度「相続時精算課税制度」を選ぶと、取り消すことができない点がこれまではデメリットだった。

今回、「暦年贈与」では持ち戻し(贈与した分が相続財産に上乗せされる)対象期間が3年から7年に延長され、暦年贈与を利用して相続税対策をしている方の負担が増える可能性が出てきた。

一方、「相続時精算課税制度」では、新たに年間110万円の基礎控除が設けられることになった。ある種、旧来の暦年贈与と併用が可能になる利点が加わったことになる。

自身の資産の内容や状況に応じて、相続人としっかりと話し合い、判断していくことがより重要となる。

【2位】「タワマン節税」の改正

新たな税制改正により、相続税や固定資産税などへの税金対策として、タワーマンション(タワマン)を所有する、いわゆる「タワマン節税」が難しくなる。

そもそも「タワマン節税」とは、相続税の対象となる相続税評価額と実際の購入価額(時価)の開きが大きいことを利用したものだ。

これまでは高層階ほど市場価値が高いことが反映されず、低層階と高層階でも共有持ち分であれば相続税額は変わらなかった。しかし今回の改正では、高層階ほど税額が上がっていく形となる。

評価額算定を新たにし、およそ市場価格の4割とされる評価額を戸建てと同じく6割程度まで引き上げることになる。

なお、この改正の影響を受けるのは「タワマン」に限らない。実質的には「タワマン」以外のマンションでも評価額が引き上げられるためだ。

資産性のある立地のマンションを購入する際の新たなチェックポイントとして留意する必要がある。

建設業界が抱える2024年問題とは

【1位】働き方改革関連法案の適用(2024年問題)

2024年、建設・不動産業界に最も大きな影響が及ぶと考えられるのが、働き方改革関連法案の施行だ。

少子高齢化で人材が不足する日本において、誰もが活躍できる社会の実現や長時間労働の解消に向け、残業時間の上限規制や有給休暇の取得など多彩な「働き方」を選べるよう見直しが行われた。

すでに2019年より施行されている法律だが、建設業や運送業などでは「残業上限規制」について5年の猶予が設定されている状態だった。しかし、ついに2024年、原則「1カ月で45時間、1年で360時間以内」という形で、時間外労働上限が厳しく規制されることとなる。

これから家を購入する場合、これまでのような土曜日の現場稼働はなくなる。つまり住宅を建てるにあたり、工期が大幅に延びるケースが予想されるのだ。

資材や設備などあらゆるものが高騰する中、これまで以上にコストがかかり、なおかつ工期が延びる。またマンションの場合、大規模修繕工事のスケジュールにも影響が及ぶことになる。

短期的な視点で見ると2024年は現場の混乱が予想される。しかしながら長時間労働が慢性化し、厳しい職業として敬遠されてきた建設業のイメージが一変する意味では大きなメリットとも言える。

優秀な人材が入ってくることにより、業界全体の活性化にもつながるはずだ。コストアップに応じたクオリティーの向上も期待できる。

長期的には建設業界が抱えてきた課題の解消につながり、大きく飛躍するための法改正と見ることもできる。

いずれにせよ今回ご紹介した法改正を念頭におきつつ、2024年のルール変更が自分たちにどのような影響を及ぼすのか、どのような対応が必要なのか再考をおすすめする。

そのうえで不動産の購入や保有、売却のタイミングは「今」なのかを見極めてほしい。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))