ピエール・エルメ・パリのおせち(写真:ピエール・エルメ・パリ公式サイトより引用)

年が明けた、2024年の正月。正月といえばおせちだが、自宅で「作る」よりも、「購入して食べる」人たちのほうが多いのではないだろうか。

楽天市場の調査によると、2020年から2023年の楽天市場におけるおせちの流通額は約1.9倍に拡大。購入開始時期も早まっているようだ。

さらにハースト婦人画報社の調査では、アンケート回答者の68.9%が「おせちを購入すると思う」と答え、前年より26.8%も増加。ロイヤリティ マーケティングの「男女1000人に聞いた2024年おせちに関する調査」では、購入予算の平均額は18946円と、昨年から1119円増えたようだ。

大人数用のおせち需要が増えている

このようにおせち市場が拡大する中で、足元ではどんなトレンドがあるのだろうか。それぞれ詳しく見てみよう。

まずは、おせちを食べるスタイルだ。行動制限がなくなったことで、大勢で集まることができるようになり、4人以上など大人数用のおせち需要が増えている。

少人数用のおせちも売られているものの、商品単価が安いということもあり、おせち市場全体で注力されている印象はない。おせちの購入予算が上がっているのは、前述したように、より大人数で食べられるおせちのニーズが高まっていることも影響しているだろう。

ちなみに、コンビニエンスストアなどで販売されている自分で自由に組み合わせられるおせちは、少人数で食べられるというよりも、カスタマイズができるという理由で購入が増えているように思う。

また子どもたちが里帰りするのに合わせて、大人数用のおせちを購入する家庭も多い。その際、一緒に里帰りする孫のために、“キャラクターおせち”を選ぶこともある。

“キャラクターおせち”は、ポケモン、アンパンマン、ディズニー、サンリオ、すみっコぐらし、名探偵コナンといった子どもに人気のキャラクターをメインにしたおせちだ。

お重やおせち料理が、キャラクターを模していたり、キャラクターがプリントされていたりする。

ハンバーグや肉団子、ロールケーキやマシュマロなど、一般的なおせち料理ではない、子どもが好きな食べ物が入っているのも特徴だ。

昔では考えられないが、キャラクターグッズが付くおせちさえある。キャラクターおせちが子ども受けすることは間違いないので、“孫ファースト”で祖父母が購入するのも理解できるだろう。

次は、名店によるおせちだ。多くの有名レストランがおせちをつくり、百貨店やショッピングサイトを通して販売している。

ミシュランガイドに掲載されるようなレストランであれば、ブランディングになるほか、おせちの差別化ができるため、百貨店側からの需要も高い。

日本料理では、東京であれば三つ星を獲得している「石かわ」「麻布かどわき」、一つ星の「乃木坂しん」「青華こばやし」、京都であれば二つ星「祇園 丸山」、一つ星「閼伽井」などがおせちを販売している。

また、フランス料理では「レザンファン ギャテ」「ルカンケ」「ルグドゥノム ブション リヨネ」や、「ラ・ロシェル」といった、名店もおせちを手がけている。

ラグジュアリーホテルのおせち

名店に加えて、ラグジュアリーホテルもおせちに力を入れている。

東京では、帝国ホテル 東京、オークラ東京、ホテルニューオータニ、パレスホテル東京、ホテル椿山荘東京、ホテル雅叙園東京といったホテルや、大阪ではリーガロイヤルホテル(大阪)、グランドプリンスホテル大阪ベイ、ホテルニューオータニ大阪などが、おせちを販売している。


帝国ホテルの洋風おせち料理(写真:帝国ホテル公式サイトより)

ホテルでは日本料理だけではなく、フランス料理や中国料理など、さまざまなジャンルの料理をつくれるだけに、おせちの内容もバラエティに富んでいるのが強みだ。

名店もラグジュアリーホテルも、コロナ禍でテイクアウトなどの物販に力を入れており、それがおせちの販売にも活かされている。

ホテルは晩夏から初秋にかけてクリスマスケーキやクリスマスディナーの発表会を行うが、同時期におせちの発表を行うところが少なくないことからも、おせちにも注力していることが窺えるだろう。

さらには大手の飲食店運営会社も、おせちに力を入れている。「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」「鍋ぞう」などを運営するワンダーテーブル、カッパ・クリエイトやレインズインターナショナルを傘下にもつコロワイド、「鮨 銀座おのでら」や一つ星「薪焼 銀座おのでら」を擁するONODERA GROUPなどは、自社のオンラインショップを運営しており、そこで販売しているのだ。

スイーツおせちも登場

名店や、ホテル、レストランなどさまざまなおせちを紹介してきたが、中身の多様化についても触れておきたい。

最近のトレンドとして、肉、オードブル、フルーツ、スイーツなど特定のものに焦点を当てたおせちが人気だ。

中でも目を引くのは、パティスリーのスイーツではないだろうか。「ピエール・エルメ・パリ」「トシ・ヨロイヅカ」「モンサンクレール」といった味も知名度も抜群のパティスリーが、スイーツだけのおせちをつくっているのだ。


モンサンクレールのおせち(写真:高島屋公式サイトより引用)

甘いものが中心のおせちは、“スイーツおせち”や“デザートおせち”などと呼ばれている。スイーツ中心のおせちは、甘党であったり、おせちをあまり購入してこなかった人たちからの関心も高まっているようだ。

もう1つ注目したいのが“ミックスおせち”。オーセンティックなおせちであれば、当然のことながら伝統的な日本料理が中心だ。

田づくり、黒豆、昆布巻、数の子、紅白なます、海老、伊達巻、栗きんとんなど、由来のある縁起物が使われている。しかし、それだけではつまらないので、洋食や中国料理と組み合わせたものも少なくない。

和食と洋食の組み合わせがいちばん多いが、和食と洋食、中国料理の「和洋中が揃ったおせち」も人気だ。

二つ星を獲得したこともある「京料理 たか木」、大阪の一つ星「メゾン タテル ヨシノ」、京都の一つ星「京、静華」がコラボレーションしたという、夢のような和洋中おせちもある。

おせちの動向は非常に興味深いが、これには百貨店の戦略が関係しているといえるだろう。

百貨店は斜陽産業といわれて久しいが、大都市にある百貨店はコロナ禍を経て時計や宝飾品などで賑わいを見せている。

さまざまな進化を遂げるおせち

食では、クリスマスケーキやバレンタインデーの売上が大きく、おせちも例外ではない。企画力と営業力、さまざまなお店と組むことによるブランド力と販売力を最大限に活用して、新しいおせち商品を開発し、市場を拓いているのだ。

起源を紐解くと、平安時代に遡るといわれるおせち。いまでも“おせち料理”というフォーマットを維持しながら、洋食や中国料理を取り入れたり、キャラクターと協業したり、スイーツに特化したりしながら、さまざまな進化を遂げている。

(東龍 : グルメジャーナリスト)