(画像:「芸能人格付けチェック!2024お正月スペシャル」公式サイトより)

「NHK紅白歌合戦」(NHK総合)、「ザワつく!大晦日」(テレビ朝日系)など多彩なラインナップがそろった元日ゴールデン特番その中心に君臨するのは、「芸能人格付けチェック!2024お正月スペシャル」(ABC・テレビ朝日系、17時〜21時)。

2008年から17年連続で元日ゴールデン特番として放送され、世帯視聴率も毎年20%前後と、ぶっちぎりのトップを記録し続けています。

「芸能人格付けチェック!」は、正月三が日に放送されるゴールデンタイム特番が次々に終了する中、2日放送の「とんねるずのスポーツ王は俺だ!!」(テレビ朝日系)と並んで、“最後の正月番組”とも言われる希少な存在。さらにGACKTさんの個人71連勝という記録が正月特番に求められる特別感を醸し出しています。

在宅率が高くリアルタイム視聴されやすい反面、長時間のため配信視聴が見込みづらい正月特番は、今なお視聴率獲得が極めて重要な時期。それだけに各局は「打倒!『格付け』」を掲げてさまざまなコンセプトの正月特番を仕掛けています。

「芸能人格付けチェック!」とGACKTさんは、なぜこれほどの人気を保っているのか。また、その絶対的な存在を崩すために他局はどんな策で挑んでいるのでしょうか。

「格付け」が圧倒的に強い理由

「芸能人格付けチェック!」は、大物タレント、俳優、アーティスト、芸人らが「一流芸能人」の座をかけてガチンコで挑むクイズバラエティ。今回の放送でも、「ワイン」「弦楽八重奏」「ミシュランシェフ」「弦楽オーケストラ」「社交ダンス」「寿司」の超一流を見極めるクイズが予定されています。

同特番がここまで人気を高めた最大の理由は、老若男女が楽しめる主に2択のクイズであること。「高級品と大衆品のどちらかを選ぶ」というシンプルなクイズは、子ども、親、祖父母の3世代が平等に楽しめるものであり、かつて正月遊びの定番だったすごろくや福笑いの感覚に近いところがあります。

また、主に2択だからこそ正解率が高く、元日から喜べる笑顔の瞬間が増えるうえに、「子どもが親に勝つ」「弟・妹が兄・姉に勝つ」「後輩が先輩に勝つ」などの“下剋上”が起きやすいこともグループ視聴が多い理由の1つでしょう。

さらに、肩書やキャリア、キャラクターやイメージを越えて芸能人たちが一喜一憂する姿もポイントの1つ。たとえば、音楽問題で歌手が間違えたり、食通タレントが大衆品を選んだり、大物が「映す価値なし」で画面から消されたり……そんな恥ずかしい失敗を正月らしく明るいムードで見せられるところに、演出の巧みさを感じさせられます。

加えて、今や最大の焦点となっているのが、GACKTさんの挑戦。連勝を伸ばせるのか、それとも途切れるのか。GACKTさんの登場シーンは、その一挙手一投足に注目が集まり、「頑張れ!」「そろそろ外せ」「やらせでは?」などのさまざまな声がネット上に飛び交うなど、番組のエンタメ性を担保しています。

もう1つ忘れてはいけないのは、元日ゴールデンらしい豪華視聴者プレゼント。今年の放送でも、「松阪牛1万円分10名」「高級いくら1万円分10名」「星野リゾート宿泊ギフト5万円分2名」「国産うなぎ1万円分10名」「お年玉現金10万円1名・30万円1名」のプレゼントはお年玉と呼ぶにふさわしい華やかさがあります。

日テレとTBSは大幅な戦略変更

今年も「芸能人格付けチェック!」が盤石のムードを醸し出す中、他局はどんな番組で勝負するのか。

まず日本テレビは、「上田と女が吠える夜 【マツコVS最強女子軍団】笑う女に福来る新春SP」(18時〜21時)を放送。続く「月曜から夜ふかし元日SP」(21時〜23時24分)も合わせて、固定ファンのいるレギュラー番組の特番をベースに、“マツコ・デラックス推し”の戦略で勝負するようです。例年、日本テレビは元日に「ザ!鉄腕!元日! DASH!!」を放送していただけに明確な戦略変更と言っていいでしょう。

TBSは「バナナサンド元日SP」(17時〜21時)を放送。「新春ドラマ対抗ハモリ我慢ゲーム」に二階堂ふみさん、阿部サダヲさん、玉山鉄二さん、仲里依紗さんなど、「サイコログルメバトル」に綾瀬はるかさん、佐藤健さん、上白石萌歌さんなどが出演します。例年、TBSは元日に「ジョブチューン」の特番を放送してきただけに、こちらは“豪華俳優推し”の戦略がとれる「バナナサンド」のゲーム企画を選んだ様子がうかがえます。

フジテレビは「ドリフに大挑戦!ドリフ結成60周年 爆笑大新年会SP」(17時〜20時50分)を放送。ザ・ドリフターズのメンバーと彼らを愛する芸能人のコント特番で、2021年9月から不定期で4度放送され、元日ゴールデンは昨年に続く2度目になります。

今回の目玉企画は加藤茶さんと香取慎吾さんの共演。また、芸人たちに佐々木希さんや木村昴さん、ももいろクローバーZらも加わって、“昭和のスターとコント推し”の戦略が見て取れます。

テレビ東京は「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(18時〜22時)を放送。ゲストに長嶋一茂さん、佐藤隆太さん、佐藤栞里さんを迎えて、パワースポットをめぐる開運バイク旅が見られるようです。同番組は2019年から正月三が日ゴールデンで放送されてきましたが、元日は2022年に続く2度目であり、“特に何かを推さない”というテレビ東京らしいマイペースさが感じられます。

年始の若年層狙いはますます困難に

最後にNHK総合は「タモリと鶴瓶のテレビDEお正月2024」(19時20分〜20時20分)を放送。あいみょんさんをゲストに迎えて、「お正月のテレビ」をテーマに懐かしい番組などをピックアップしていくようです。NHK総合は2016年以降、正月三が日に「ブラタモリ×鶴瓶の家族に乾杯 新春スペシャル」を放送してきましたが、今回は“レアな過去映像推し”というアレンジを加えてきました。

あらためて「芸能人格付けチェック!」に挑む各局の戦略=“推し”をまとめると、日本テレビがマツコ・デラックス推し、TBSが豪華俳優推し、フジテレビが昭和のスターとコント推し、テレビ東京が推しはなし、NHK総合がレアな過去映像推し。各局ともに「中高年層を手堅く拾って視聴率を稼ごう」という意図が感じられます。

たとえば、日本テレビは女性層を中心に若年層もターゲットに入っているものの、目玉のマツコさんは51歳。やはり「中高年層にも強いマツコさんに頼りたい」という姿勢が見えます。ある民放の編成担当、バラエティプロデューサーの2人と話していたとき、「ふだんより年始のほうが若年層をつかむのが難しい」「みんな休みのときほど趣味嗜好の合う人と同じものを楽しもうとする」「特に関東地区の若年層は難しく、40〜60代を狙わざるを得ない」などの本音を語っていました。

まずは「テレビをつける」「チャンネル権を持つ」であろう40〜60代が関心を持てる特番を用意し、ただ10〜30代の個人視聴率も獲りたいので、彼らにも知名度のあるタレントをキャスティングする。できるだけ3世代一緒に見てもらえる可能性が高い構成・演出を心がけ……それが「マツコVS最強女子軍団」「人気俳優のゲーム」「ドリフコントに香取慎吾や佐々木希」なのでしょう。

しかし、元日に限らず正月番組のトップである「芸能人格付けチェック!」の壁は高いだけに、他局の包囲網がどれだけ通用するのかは未知数。視聴率だけでなく、Xのトレンドランキングなどもチェックしながら楽しんでみてはいかがでしょうか。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)