2023年12月22日に開かれた福島県国見町の百条委員会(写真/『河北新報』)

企業版ふるさと納税をした企業の子会社が、その寄付金を使った自治体の事業を受注していたことで“寄付金還流”の疑義が持ち上がっている福島県国見町の幹部らが、関係資料を「すべて廃棄した」と証言する異常事態が起きている。

国見町議会はこの10月、2022年に突如として始まった町のある事業を検証するため、調査特別委員会(百条委)を設置。異常な証言は、12月22日に行われた百条委で飛び出した。

この事業の不可解さについては、2023年12月6日公開の「弱る自治体をぶんどる「過疎ビジネス」の実態」で詳しく記した。

匿名の企業3社から企業版ふるさと納税で寄せられた計4億3200万円を財源に、高規格救急車12台を町で所有し、他の自治体などにリースするという事業だった。備蓄食品製造のワンテーブル(宮城県)が受託し、DMM.com(東京)子会社で救急車ベンチャーのベルリングが車体製造を担う事業スキームとなっていた。

『河北新報』記者である筆者は、今年2月からワンテーブルと国見町との不透明な関係や、不自然な事業経過について報道を続けてきた。

取材の過程で、事業原資を企業版ふるさと納税で町に匿名寄付したのはDMMとそのグループの2社であったことが判明。ワンテーブルの当時の社長が、社外の打ち合わせで「(自治体の)行政機能をぶんどる」などと語った様子を記録した音声データも入手した。 

行政文書が1年もたたずに棄てられた

国見町は事業の問題点を指摘した『河北新報』の報道を静観し続けたが、2023年3月21日付で「『行政機能ぶん取る』自治体連携巡りワンテーブル社長発言 録音データで判明」と報じると、一転して事業の中止を決めた。

そもそも、なぜ農業が基幹産業の国見町で救急車をリースするという事業を始めなければならなかったのか。どうして多額の企業版ふるさと納税が集まったのか。事業は果たして公正公平な入札契約のプロセスを経ているのか。これまで国見町が議会や町民に対して行ってきた説明は二転三転して要領を得ず、疑問は深まるばかりだった。

そこで百条委は12月22日、国見町職員4人の証人喚問を実施することになった。事業を直接担当した職員は、事業委託前のワンテーブルとの電子メールのやりとりや発注の過程で使った資料の所在を問われ、こう語った。

「(ワンテーブルからの)メールは不要だと思って事業発注後に消した。プリントアウトしたものを含め、使った資料は全て廃棄した」

説明責任を担保するはずの行政文書が1年もたたずに捨てられていた。担当課の別の職員も上司である担当課長も、示し合わせたようにメールや資料を破棄していた。

これは組織ぐるみの隠ぺいが疑われる。廃棄されたメールや資料とは、どのようなものだったのか。

国見町は2022年の9月議会で事業予算を計上し、担当課は同時並行で救急車事業の委託先の選定に使う仕様書の作成を進めた。

仕様書の作成について、担当職員は百条委で「他自治体が作った仕様書をインターネットで集めて参考にした」と説明。ワンテーブルからは「資料提供を受けていた」と証言したが、どこの他自治体の仕様書を集めて参考にしたのか、ワンテーブルからどのような資料を提供されたのかも「覚えていない」という。

『河北新報』は国見町の職員が「消した」と主張するワンテーブルとの電子メールや参考資料の一部を入手している。2022年9月に交わされたメールには、車体製造を請け負ったベルリングが国見町用に「参考仕様書」を作成し、ワンテーブルを介して町職員に提供した経緯が書かれていた。


国見町とワンテーブルとの間で交わされたメール(写真一部加工。提供/『河北新報』)

ワンテーブルの担当者は町職員宛てのメールにおいて、参考仕様書を「ベルリング社側からいただきました」と紹介し、車体の寸法や設備は「国見町用に記載いただいている」と伝えていた。

翌10月に完成した町の仕様書はベルリング提供の「参考仕様書」をベースに文言調整がなされ、完成した仕様書にはベルリング製の車両の特徴に一致する指定が多数盛り込まれた。

東洋経済がDMMに「子会社ベルリングが福島県国見町用の仕様書を作成し、ワンテーブルに送ったのは事実か」を問うたところ、DMMは「(ワンテーブルからベルリングに対し)仕様書を提出してほしいとの依頼を受け、提出したことはある」と認めた。

その上で「(ワンテーブルに渡した仕様書は)ベルリングが一般に配布しているもので、特別に提供したものではない」と回答。国見町とワンテーブルの間のやりとりには「一切関わっていない」とし、最終的に国見町がどのように仕様書を作成したかは「存じ上げない」と強調した。

ただ、ワンテーブルの担当者が国見町に送ったメールには「(参考仕様書は)国見町用に記載いただいている」と書かれており、DMMの回答とはつじつまが合っていない。 

内部文書を「個人的なメモ」と釈明

『河北新報』は、仕様書の記載内容を調整する際に使われた国見町の内部文書も入手している。そこには町からワンテーブルへの質問事項や要望が一覧になって列挙され、車体の室内寸法などを細かく指定することで他社を「排除したい」との記述もあった。

国見町の仕様書は公正な入札を妨げた疑いがあり、発注者の関与を取り締まる官製談合防止法などに触れる可能性がある。

百条委で担当職員はこの内部文書の存在を認め、「個人的なメモだ」「誤解を招く表現だった」などと釈明した。文書はプリントアウトしたものを含め「既に廃棄した」という。

ワンテーブルからのメールを同時受信していた同僚や上司も「不要と思い消去した」と口を揃えた。町が事業の正当性や合法性を主張する上で不都合になるメールや資料は、片っ端から消し去られていた。

百条委では、メールや文書の廃棄について開き直りとも取れる発言も飛び出した。

証人喚問で文書管理を担当する国見町総務課の課長は「メールが行政文書に当たるかどうかは議論がある」などと自説を語り、「サーバーの負荷を下げるため、職員には普段から不要なメールを削除するよう呼びかけている」と悪びれもせずに話した。

公文書管理法は第4条で「行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡づけ、または検証することができるよう」文書の管理を規定する。地方公共団体に対しては「文書の適正管理に必要な施策を策定し、実施するよう努めなければならない」と求めている。

何が行政文書に当たるかには定義づけがある。実施機関の職員が職務上作成するか外部から取得し、実施機関の職員が組織的に用いて管理しているものが行政文書とされる。もちろんメールや画像などの電磁的記録も含まれる。

国見町が廃棄した企業側からのメールや資料には、町がどのように仕様書を作成したかを跡づける情報が多分に含まれていた。しかも、メールは複数の町職員がCCで受け取り、内容を共有していた。いずれも事業の経緯や実績の検証のために必要不可欠な行政文書といえる。

企業版ふるさと納税制度を所管する内閣府は2022年12月にQ&Aの形で示した見解で、寄付事業における入札契約のプロセスについて「自治体が説明責任を負う」と明記する。国見町は説明責任を果たす気があるのだろうか。

町長までもが虚偽説明

国見町の引地真町長は2023年4月の住民説明会で、救急車事業の仕様書作成について「ワンテーブルが直接的に関与した事実はない」ときっぱり言い切った。しかし、その説明の根拠とすべき行政文書を捨て去っていたのだから、あきれて物も言えない。そして事実関係でいえば、引地町長が行った町民への説明は明らかな虚偽と言わざるを得ない。

思い起こされるのは、2018年に相次いで発覚した森友学園に関する財務省の決裁文書改ざん事件や、陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報隠ぺい問題だ。批判の高まりを受けて国は2019年、業務で使用する電子メールを自動的に廃棄するシステムの運用を改め、行政文書の管理に関するガイドラインも改正した。

一方で多くの地方自治体は管理すべき文書の種類や期限を「内規」や「要綱」で定め、文書管理のルール自体を条例で制定する動きは乏しいのが実情だ。

住民の代表である百条委の追及を受けてもなお、文書廃棄を口実にして言い逃れを続ける国見町の姿勢は、国民の「知る権利」をないがしろにしてきたこの国の縮図のように思えてならない。

行政文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」とうたう公文書管理法の理念が問われている。

(横山勲 : 『河北新報』記者)