国際競争力ランキングで2年連続1位に輝いたデンマークでは、ビジネスパーソンは「積極的に休む」という。その理由とは(写真:Maridav/PIXTA)

日本人は休むのが下手だと言われる。なんだかんだ平日に終えられなかったタスクを土日の間に処理するという人もいるだろう。2023年IMD世界競争力ランキングで2年連続1位に輝いたデンマーク(日本は35位)では、ビジネスパーソンは「積極的に休む」という。はたして、その理由とは。本稿では、デンマーク在住の針貝有佳氏の新著『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』より、デンマーク人の驚くべき「休み方」について解説する。

余白からアイデアが生まれる

一定期間における総労働時間を定め、その範囲内でフレキシブルに働く「フレックスタイム制」は、ムリしたら休むというフローをつくるのに役立つ。

長時間働いた翌日には早退する、大きなプロジェクトで忙しい時期が続いた後は連休を取るなど、フレキシブルに調整できる。

ネット環境整備の仕事をしているカーステンは、フレックスタイム制を大胆に活用している。カーステンは、会社と交渉して、週4日出勤にしてもらっている。つまり、月曜日から木曜日までの1日の労働時間を長くする代わりに、金土日は休んで週休3日にしてもらっているのだ。カーステンの説明はこうだ。

「1日7時間労働というのは、僕にはちょっと短すぎる。僕は以前の仕事の関係で、1日12時間くらい働くのに慣れているんだ。だから、僕の場合、1日の労働時間を長めにして、週休3日にさせてもらってる。この働き方がちょうど良くて気に入ってる」

こんな交渉を会社が受け入れてくれるのが驚きだ。

だが、たしかに、それが本人にとって最高のパフォーマンスを発揮できる働き方なのであれば、会社にとってもプラスなはずだ。

カーステンのように、ここまで大胆にフレックスタイム制を活用できれば、自分にとって最高にパフォーマンスが上がる画期的なワークスタイルを開発できそうだ。カーステンのアイデアは、じつは理に適っているのかもしれない。

週休3日を企業やコミューン(市)に導入してきた「テイク・バック・タイム」のペニーレは、週休3日にしたほうが、生産性が上がり、仕事への満足度も高まるのだと主張する。

ペニーレはそのメカニズムについて、以下のように説明する。

「週休3日にして休日が1日増えると、脳が休まる。リラックスして、俯瞰して物事を見られる。リフレッシュできて、仕事にエネルギーを投入する用意ができて、再び仕事に戻ったときに集中して仕事ができる」

実際に、ペニーレのアドバイスにしたがって週休3日を導入した会社の社長は、ペニーレにこう報告してくれた。

「(休日である)金曜日は、ぼくらの一番大切な日になっている。ほかの日に解決できないことを金曜日に解決できるんだ」

仕事とはまったく関係のない活動がもたらすこと

つまり、こういうことだ。

たとえば、犬や家族と一緒に森を散歩していると、ふと、行き詰まっていた問題の解決策を思いつくことがある。映画を観て、アイデアが閃くことがある。

金曜日に仕事とはまったく関係のない別の活動をすることによって、気がついたら、仕事の突破口が開けているということだ。

「あなたもない? シャワーを浴びてて何か閃くこと。脳は休むことでクリエイティブになる。閃きが生まれる。休むことで、新しい知識も入ってくる。休むことで、喜びを感じることもできる」

読者の皆さんも、何か心当たりがないだろうか。とはいえ、いきなり週休3日というのは、思い切りが必要だ。それに、日本の会社がすんなりオーケーしてくれるはずもない。

週休3日には切り替えたくない会社もあるのではないかと尋ねてみると、ペニーレはこう回答してくれた。

「休みを取りたがらない会社もあるわ。そういう場合は、金曜日に、ほかの働き方をしてみることを提案している。たとえば、金曜日はインスピレーションを得る日にしたり、社員に自分が学びたいと思っている講座を受講してもらったり。週に1日、いつものルーティーンとは違うことをしてみるといい」

ずっと通常業務をし続けるのではなく、週に1回は違うことをしてみる。そうすることで、普段の仕事を俯瞰して眺められる。

学んでみたかった新しいスキルを習得してみたら、より効率的な働き方や、新しい可能性にも出合えるかもしれない。

きっと、あなたも思い当たることがあるのではないだろうか。目の前の仕事に追われて疲れ切っていると、やってもやっても仕事に追われている気がする。どん詰まりになって、解決策が見当たらなくなってしまう。そこで、少し別のタスクや活動をして視点をズラしてみると、思わぬ突破口が開けることがある。

どこか行き詰まりを感じたら、週に1回だけでも、自分の習慣を崩してみると良いかもしれない。

「長期休暇の取得は当たり前」な空気感

デンマーク人のなかで、休息と仕事はワンセット。休息と仕事は、決して、対立し合うものではない。

休息なしで仕事なんてできるはずがない。仕事だけに向き合っていたら、疲れてしまって、生産的に働けるわけがない。

これが一般的なデンマーク人の認識だ。取材でも、みんなが口を揃えて、休まないと仕事はできないと言っていた。

だからこそ、だろうか。デンマーク人の夏休みは長い。夏には、7月頃に約3週間の連休を取得するのが一般的だ。人によっては、会社と交渉して、1カ月あるいはそれ以上の連休を取得する。

おかげで、7月はさまざまな社会的機能が一時停止してしまう。かかりつけ医も夏休みを取得するので、7月にかかりつけ医に電話すると、自動応答で、緊急の場合には別の医者に連絡してほしいというメッセージが流れる。

7月は観光シーズンで稼ぎ時であるにもかかわらず、従業員が夏休みを取るため、閉店してしまうレストランもある。正直に言って、7月のデンマークは不便である。

だが、文句を言う人はいない。誰もが連休を取る権利を持っている、とみんなが思っているからだ。

自分も長い夏休みを取る権利を持っているし、当然、他の人も長い夏休みを取る権利を持っている。そういう認識があるから、休みやすい。長い夏休みを取得することに、罪悪感を抱くこともない。

では、デンマーク人は夏休みに何をするのだろう。夏休みの間は仕事を忘れられるのだろうか。

インタビューで尋ねてみたところ、海外旅行に行く人が多かった。また、国内でサマーハウスに滞在したり、キャンプをする人も多い。あるいは、そのコンビネーションだ。休暇が3週間もあれば、色んなことができる。

3週間という長さについては、ちょうど良いと回答する人が大半だった。最初の数日はまだ頭の片隅で仕事のことを考えているが、バケーションに向かう飛行機や車に乗った瞬間に、一気に休暇モードに入る。そこからは仕事のことは一切忘れてバケーションを満喫し、仕事を再開する数日前頃から再び仕事のことを考え始める。

夏休み中はメールを「自動応答」に設定

7月にデンマーク人にメールをすると「ただいま休暇中です。○月○日に戻ります。緊急の場合は○○にご連絡ください」と、代行者の連絡先または自分の電話番号が書かれた自動応答メールが返ってくる。複数人にccをしてメールを送ると、みんなから自動応答メールがざざっと返ってくる。


デンマークでは、7月に仕事をしてはいけない。誰からも応答がなく、むなしくなるだけである。それならば、自分も休みを取ったほうがいい。

近年、私自身もそのことをよく学んで、7月は仕事をしないことにした。夏休み中に仕事の連絡をされることは、デンマーク人にとっては迷惑でしかない。

夏休みにたっぷり休暇を取ることで、エネルギーが充電されて、リフレッシュして仕事に復帰できる。仕事の生産性を上げるために日々の生活のなかで休息が必要なデンマーク人には、夏の長いバカンスが必要なのだ。

ちなみに、デンマーク人は職種にもよるが、年間合計で5〜6週間の有給休暇を取得できるのが一般的だ。夏休み以外にも、秋休み(10月)・クリスマス休暇(年末年始)・冬休み(2月)・イースター休暇(3〜4月)などがあり、そこにプラスして国民の祝日がちょこちょこある。

しかも、平日は午後4時に帰宅だ。

よくこんなに休んで仕事ができるなぁ、というのが私の正直な感想だ。だが、罪悪感を抱かず思いっきり休んでリフレッシュできるカルチャーは、とてもいいなと素直に思う。その分、仕事の時間は思いきり集中する。このメリハリが、デンマークを国際競争力1位に押し上げた要因の一つなのかもしれない。

(針貝 有佳 : デンマーク文化研究家)