久保建英は「歴史的偉業」を達成できるか 地元スペイン人記者が現状を分析、CLラウンド16突破への期待を語った
レアル・ソシエダはチャンピオンズリーグ(CL)でグループリーグを首位通過し、久保建英も決勝トーナメント進出に貢献した。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、パリ・サンジェルマンとの対戦が決定したラウンド16について分析してもらった。
【パリ・サンジェルマンとの対戦が決定】まだラ・リーガのカディス戦が残されているとはいえ、2023年は久保建英にとって、サポートしつつ成長させてくれたレアル・ソシエダのおかげでトップレベルのプレーを発揮することができ、ラ・リーガのスター選手としての地位を確立した年となった。
そして迎える2024年は自身のキャリアにおいて、これまでで最も重要な年となりそうだ。
久保建英のレアル・ソシエダはCLラウンド16でパリ・サンジェルマンと対戦が決定 photo by Nakashima Daisuke
来年は2つの大きな試練が待ち受けている。ひとつは年明けのアジアカップを日本代表の一員として戦うこと。もうひとつは自身初めてのチャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメントに参加することだ。これに加え、2年連続のCL出場権獲得や国王杯優勝という目標もある。
CLラウンド16の抽選結果は、ラ・レアルにとって全く易しくないものとなった。グループリーグを首位通過したにもかかわらず、予想に反して2位抜けとなったフランスの巨人パリ・サンジェルマン(PSG)が対戦相手という不運に見舞われたのだ。
スペイン人監督のルイス・エンリケが率いるPSGは、フランス代表のエース、キリアン・エムバペがトップスターとして君臨。これまでは莫大な資金を投じて次々とビックネームと契約してきたが、今季はリオネル・メッシ(現インテル・マイアミ)、アンヘル・ディ・マリア(現ベンフィカ)、ネイマール(現アル・ヒラル)退団後の過渡期にある。
スター選手の集合体ではなく、よりまとまったチームを形成するために多くのメンバー変更が行なわれたものの、CLのグループリーグを2位通過したことからもわかる通り、いまいちうまく機能していない。
熱狂的なサポーターとの軋轢がチーム内に大きな問題を引き起こし、選手たちにとってマイナスにしか働かない多くの緊張やプレッシャーを生み出している。またルイス・エンリケ監督と報道陣の間ですでに何度か口論が起こり、エムバペがピッチ上で醜いジェスチャーを見せてしまうこともあった。
リーグ・アンでは圧倒する強さをみせ、勝ち点5差で首位に立っているが(12月17日、第16節終了時)、CLでは"死のグループ"を突破するのに大いに苦労した。
第5節ニューカッスル戦では、終了間際に物議を醸し出すPKの恩恵を受けて土壇場で引き分け(1−1)、最終節ドルトムント戦では敗退寸前まで追い込まれた(1−1)。最終的にラ・レアルよりも勝ち点が4少ない状態で次ラウンドに進出することになった。
【PSG戦は何かが起こる。その理由は久保】ラ・レアルは今季、ヨーロッパを驚かせているクラブのひとつとなっている。それはCLで"偉大な夜"を何度も成し遂げたためだ。
ラ・レアルは近年、ヨーロッパリーグ(EL)で最後まで勝ち抜くことなく敗退し、大きなインパクトを残せていなかった。しかし今季は例年と違い、ワンランク上の大会で崇高かつ勇敢なパフォーマンスを発揮している。
今大会最少失点を誇る堅固な守備と、敵陣で最も多くボールを奪っている強力なプレスを武器に、個人としても組織としても優れたプレーを披露した。
これにより、レッドブル・ザルツブルクとベンフィカ相手に3勝を達成。さらに欧州最高峰のレベルにあるインテルに2試合とも引き分けるという好成績を収めた。
だからこそ、PSG戦では何かが起こるかもしれないという大きな期待がある。ラ・レアルが負けるのは普通のことであり、失敗ではない。その一方、もし勝ち抜けられれば、ギプスコア(レアル・ソシエダが拠点とする県)全体が歓喜と幸福感に包まれることになる。
そしてそれが起こると信じられる理由のひとつが、久保の存在だ。
この日本人選手には、マルキーニョス、ミラン・シュクリニアル、アクラフ・ハキミ、リュカ・エルナンデスといった選手たちで形成されるPSGのDFラインを突破するという厳しいミッションが待ち構えている。
PSGの守備陣を打ち負かすのは難しく、ボールを持てる時間が少なくなると予想されるが、相手に飲まれることなく自分のプレーを誇示し、相手を欺き、より存在感を示す必要がある。
彼に期待するのはサイドを突破し、壁パスで味方と連携し、DF裏に走り込み、シュートを打つこと。それには最近より増してきているスピードを生かす必要があるだろう。
PSGはサイドに大きく開いてプレーし、エムバペが重要な局面で決定的な働きをする高い得点力を備えたチームだ。その一方、個々のクオリティーが高いにもかかわらず、堅固さに欠けている。
さらに今のPSGはリニューアルされた若いチームで、以前のようなビッグマッチでの経験があまりない。そのためラ・レアルはグループリーグわずか2失点という高い守備力を生かし、失点さえ許さなければ、彼らを大いに苦しめることができるはずだ。
第1戦はアウェーのパルク・デ・プランスで2月14日に行なわれるが、イマノル・アルグアシル監督率いるチームはこれまで、ビッグクラブ相手に敵地で互角に渡り合ってきた。
カンプ・ノウ(バルセロナ)、サンティアゴ・ベルナベウ(レアル・マドリード)、シビタス・メトロポリターノ(アトレティコ・マドリード)、オールド・トラフォード(マンチェスター・ユナイテッド)、ジュゼッペ・メアッツァ(インテル)、ダ・ルス(ベンフィカ)といった名だたるスタジアムですばらしい結果を出しているため、PSG相手でも十分勝機はある。
【ベスト8に進出すれば歴史的な偉業】ラ・レアルがPSGを破り準々決勝に進んだ場合、称賛に値する歴史的偉業となり、大きな挑戦として欧州中で語り継がれることになるだろう。しかしこれが同大会におけるクラブ史上最高の成績とはならない。
なぜなら国内リーグ2連覇達成後の1982−83シーズン、クラブ史上最強と謳われたアルベルト・オルマエチェア監督率いるチームが準決勝進出を果たしたからだ。
ラ・レアルはこの時、ヴィキングル、セルティック、スポルティングを退け、準決勝で強豪ハンブルクと対戦。ホームの第1戦を1−1で引き分けたあと、アウェーで第2戦を迎えた。
後半に副審の1人が負傷したことで代わりを務めたドイツ人審判が、ハンブルクの2点目で4メートルも出ているオフサイドを見逃したのだ。これにより1−2の敗北を喫したことを、ラ・レアルサポーターは今でも忘れていない。
ラ・レアルは12月12日のインテル戦で、どのようなシナリオが待っていようとも自分たちのやり方で主役となり歴史を作る、という確固たる意志を持ってジュゼッペ・メアッツァに乗り込んだ。そこがサッカーの殿堂であろうと、相手が歴史的なクラブであろうと、昨季のファイナリストであろうと、セリエA首位を走るチームだろうと関係なかった。
イマノルはクラブ史上初のグループリーグ首位通過を目指し、いつもよりボールを支配し、少しでもリスクを減らすというプランを立て、それを実行するために全力を尽くした。
先発で86分間出場した久保はインテルから特に警戒される選手となり、相手守備陣の注意を引き寄せることに成功する。フェデリコ・ディマルコが彼にうまく対処できず、カルロス・アウグストやヘンリク・ムヒタリアン、あるいはフランチェスコ・アチェルビのサポートを必要とした。
その結果、ほかの選手たちがフリーになり、ラ・レアルはボールを長く保持できるようになったのだ。
久保は現在ベストの状態にはなく、シーズン序盤のような輝きは失われ、ミスも増えている。それでも相手に脅威を与える存在であることに変わりはない。依然として攻撃を生み出し、チームに貢献し続けている。
インテル戦でも重要なパスを3本出し、ドリブルを100%成功させた。ボールを17回ロストしたが、地上でのデュエル4回のうち3回に勝利した。
【今季序盤の決定力や効果を発揮できていないが...】インテル戦後にホームに迎えたラ・リーガのベティス戦は、ラ・レアルにとってそれまで公式戦で7試合続けて勝てていないばかりか、500分以上ゴールを奪えていない苦手な相手との待ち望んだ一戦だった。
これまでの鬱憤を晴らすべく、イマノルができる限りのベストメンバーを組んだなか、久保は再び先発出場。ボールをキープして再び相手の注意を引き、右サイドを何度も突破してペナルティーエリア内でチャンスを作り、チームのベストプレーヤーのひとりとなった。
また初先発となったアンドレ・シウバがセンターフォワード(CF)に入ったことで、より多くのスペースを得ることができた。そして終盤、久保はウマル・サディクのパスから決定的チャンスを迎えたが、左足のシュートはコースをうまく突けず、GKにセーブされた。
この日はまた、25年前にアトレティコ・マドリードのウルトラスによって殺害されたアイトール・サバレタ氏を追悼するというラ・レアルにとって非常に特別な日であったが、ベティス相手に再びゴールも勝利も手にできなかったのは、久保が今季序盤に見せていたような決定力や効果を発揮できていないのも理由の1つと考えられる。
CLラウンド16はアジアカップ後のまだ先のことだが、新たな舞台に挑戦することは久保がベストの状態を取り戻すため、もしくはそれをさらに向上させるための大きなモチベーションになるかもしれない。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)