【連載】
谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」<第9回>

◆【連載・谷口彰悟】第1回から読む>>
◆第8回>>「ミスが許されないポジション。日本代表であれば、なおさらだ」

 日本代表はなぜ、急に強くなったのか──。

 新生・森保ジャパンが立ち上がってから約8カ月。スタート時は手探りのなかで強化を図るも、特に9月〜10月以降の4試合(ドイツ4-1、トルコ4-2、カナダ4-1、チュニジア2-0)では、周囲も驚くほど圧倒的な強さを見せている。

 谷口彰悟はトルコ戦でフル出場、ドイツ戦・カナダ戦・チュニジア戦では後半からピッチに立った。メンバー5人交代制によるサッカー戦術の変化にも巧みに対応した。

 ディフェンス陣の一員としてどのような点に気をつけてプレーしていたのか、そしてこれから始まるアジア2次予選について何を意識しているのか、現在の心境を語ってくれた。

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谷口彰悟は今年7月で32歳になった photo by Getty Images

 ひとつのミスが致命傷になるセンターバックにとって、「だろう」や「かもしれない」といった不明瞭さ、不確定さをなくすことが重要だと思っている。それが初めてコンビを組む相手ならば、なおさらだ。

 日本代表が行なった欧州遠征では、9月12日のトルコ戦で、僕はマチ(町田浩樹)と初めてセンターバックでコンビを組んだ。

 お互いに初めてプレーするだけに、試合中はいつも以上にコミュニケーションを図った。

 具体的にコミュニケーションを取る時には、何を意識するのか──。

「わかっているよね」「大丈夫だよね」という「暗黙の了解」をできるかぎり減らし、その都度、言葉として伝えて意思疎通を図る。

「ここはカバーにきてくれるだろう」「ここは前に出てくれるかもしれない」ではなく、「ここは必ずカバーにきてほしい」「ここは必ず前に出よう」と具体的に確認し、お互いに擦り合わせていく。

 そうすることで、「だろう」や「かもしれない」といった曖昧さはなくなっていく。それを繰り返していくことで、逆に「暗黙の了解」は築かれ、「阿吽(あうん)の呼吸」も生まれていく。

 また、相手の特徴を把握し、活かすこともセンターバック間では重要になる。マチは左利きで、190cmと高さもある。その特徴を活かしてもらいつつも、試合では協力かつ補完し合って守っていく必要がある。そのためのライン設定やお互いの距離感は、経験のある自分がリードしなければならないと考えていた。

 そのトルコ戦は3点のリードを奪うところまでは、DF陣としてもいい流れを作れていた。しかし、その後はさらに得点を奪いにいくのか、それとも水を漏らさないように守備を強固にするのかという判断が、中途半端になり、結果的にどっちつかずの展開になってしまった。

 セットプレーの流れから前半終了間際に失点した結果も含め、センターバック間だけでなく、チーム全体の意思疎通を図らなければならなかったと、ゲームコントロールを担うひとりとして反省した。

 その判断は、10月の活動でも自分のなかに課題として残っている。

 10月13日のカナダ戦では3-0で試合を折り返した。後半開始からトミ(冨安健洋)に代わって途中出場することになり、ハーフタイムには、ロッカールームでライン設定やボールへのアプローチのやり方についても続けていくことを確認した。

 そのため、ピッチ内で混乱することはなかったが、時間が経つにつれて途中交代でフレッシュな選手が入ってきたことも重なり、チームとしての意図や感覚が変化していった。それがトルコ戦同様、攻守での中途半端さにつながり、試合終了間際の失点に至ってしまった。

 トルコ戦の2失点同様、カナダ戦の試合終了間際に喫した1失点は、チームとしての課題であり、自分自身ももどかしさが募る結果だった。

 コロナ禍以降、サッカーはメンバー交代が5人まで可能になった。また、フレンドリーマッチでは5人以上が交代可能なレギュレーションで行なわれる機会も多い。

 後半になると、自分たちも相手チームも目まぐるしく選手が入れ替わるため、戦況は今まで以上に慌ただしくなり、状況は読みにくくなる。

 カナダ戦の日本代表だけを見ても、交代したばかりで体力のある選手と、前半から試合に出ているため疲労が見えはじめている選手がいて、どう守るのか、どうボールを奪いにいくのか、もしくはどの位置からプレスをかけるのか、どの位置でブロックを作るのかが、なかなか決めにくいところがあった。

 そうした状況では、基本的にクラブでも、代表でも、自分はひとつ前のポジションの選手とコミュニケーションを取るようにしている。

 センターバックである自分はボランチと、ボランチは2列目と、2列目はFWと、コミュニケーションを取ってもらうことで、どのような感覚を抱いているのか、どのように考えているのかを、うしろから前、前からうしろへと意思疎通を図って、解決策を見出すようにしている。

 しかし、日本代表戦で、しかもフレンドリーマッチとなると、選手個々の能力や評価を見極める場でもあるだけに、途中出場した選手は、チームとしての勝敗はもちろん、自分も爪跡や結果を残したいという思いが強くなる。

 その心境は、常に危機感を持っている自分自身も痛いほどわかるだけに、途中出場した選手に「リスクを冒さず、我慢してプレーしてくれ」とは言えないところがあった。

 とはいえ、守備が評価されるセンターバックとしては、失点という目に見える数字も大切なだけに、カナダ戦でも1失点した自分自身に納得することができずにいる。それが、自分のなかでうまく消化することができず、モヤモヤとした感覚が残っていた。

 それだけに、チュニジア戦は72分に途中出場して、2-0の無失点で終えることができて、少しばかり安堵した。

 チュニジアについては、これから始まるワールドカップ・アジア予選や来年1月にカタールで行なわれるアジアカップを見据えて、経験を積める試合になると考えていた。チュニジアはアフリカのチームだが、身体能力的にも、取り組んでいるサッカー的にも、中東のチームに似た雰囲気があった。

 日本代表としても、引いた相手をどう崩すのかは、課題のひとつだっただけに、複数得点を奪ったうえで、失点ゼロで終えられたことは、未来へつながる結果だったと思っている。

 メンバー交代が5人になったことによる変化について触れたが、交代枠の変化により戦術も変化し、アクシデントも含めてDFも途中出場する可能性は、以前よりも増しているだろう。

 それだけに、先発だろうが、ベンチスタートだろうが常に準備はしておかなければいけないと、9月、10月の活動を終えて、改めて実感している。

 日本代表での自分の立場は、絶対的ではないことは、誰よりも自分がわかっている。トミやコウ(板倉滉)、そしてマチといった自分よりも年齢の若い選手と、争っていかなければならないし、勝負していかなければならない。

 ただ、そうした競争に、今の自分が身を置けていることに感謝しているし、そこに生き甲斐や、やり甲斐を感じている。

 彼らと切磋琢磨する日々は、まだまだ自分自身が成長したいと思わせてくれる。乗り越えなければならない高い壁に、清々しさを感じるだけでなく、そこには悔しさも同居している。

 30歳を過ぎると、どうしてもベテラン選手としての扱いに変わってくるが、今の自分は彼らに挑むチャレンジャーの立場。そういう状況にやり甲斐と成長を感じる。だからこそ、地道にコツコツと、それでいてガムシャラに、年齢と状況にあらがっていきたい。

 彼らと競争し、立ち向かっていくことが自分の原動力であり、現状に満足できない起源になっている。そういう意味でも、日本代表に、いい競争と、いい変化をもたらすことができたらと思っている。

◆第10回につづく>>


【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2022年末、カタールのアル・ラーヤンに完全移籍。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。