11月11日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は、敵地でアルメリアを1−3と下している。終盤の猛攻でどうにか帳尻を合わせた格好か。暫定で6位に上昇した。

「最下位相手に苦戦」

 そんな批判もあるようだが、本来の先発メンバーから、久保建英を筆頭にミケル・メリーノ、ブライス・メンデス、イゴール・スベルディアをターンオーバーなどで外さざるを得ない陣容だった。そしてバルセロナ、ベンフィカというビッグクラブと対戦した後の格下とのアウェーゲームは意外なほどに難しい。

「ラ・レアル、アディショナルタイムに"電車に滑り込む"」

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』の見出しは適切だろう。

「勝ち点3」。それだけで満足すべきゲームだった。そして後半から交代出場した久保が、勝利に貢献したことも間違いない。

 ハーフタイム後、後半開始から久保はアンデル・バレネチェアに代わってピッチに立っている。


アルメリア戦に後半から途中出場した久保建英 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 前半はチームとして歯車が噛み合っていない印象だった。もはや"お家芸"とも言える有効なコンビネーションが不発。イマノル・アルグアシル監督も、横パスだけで怖さを出せない攻撃をたしなめるほどだった。コーチングエリアでいつも以上に激しいジェスチャーで怒りを示し、攻撃のリズムは凡庸でノッキングしていた。

 久保は、チームとしての連動を作り出すために送り込まれたわけだ。だが......。

 チームは"後がない"アルメリアの勢いに押され、ビルドアップからボールを前線に運ぶのもままならない。攻撃も単発。62分、CKから先制したが、不具合は残ったままだった。インサイドハーフに入ったロシア代表アルセン・ザハリャンはプレースキッカーとしては才能の片鱗を見せるも、つなぎのところでは周りと合わず。ベニャト・トゥリエンテスも覇気は見せたが、バタつきが目立った。

 連動が乏しく、久保も孤立することになった。ダビド・シルバ直伝の「周りを輝かせ、自らも輝く」コンビネーションの使い手だが、もどかしい時間が続いた。そして象徴的な場面が起こっている。

【10分で試合をひっくり返した】

 ラ・レアル陣営は76分、下がってボールを受けることでゲームを作り直そうとしたが、バックラインからボールが入ってこない。結果的にプレスをはめられてしまい、GKがやや苦しい体勢でボールを久保に縦パスを打ち込む形になった。わずかに久保のコントロールがずれたところ、背後から突かれてしまい、それが失点につながってしまった。

 しかし、ここから久保が真価を発揮する。85分、自陣からのカウンター、久保がボールの勢いを殺さずに前に運ぶと、鮮やかなパスを左サイドへ展開。シュートには至らなかったが、この攻撃で気配が変わる。

 87分、久保は右サイドで3人もの敵を引きつけ、メリーノにパスを入れると、これが右のアマリ・トラオレにつながり、クロスが際どいシーンになった。それで得た左CK、久保が左足で蹴り入れると、巻くような回転のボールでゴール前に混乱を呼び、相手ハンドを誘う。これがVARの末にPKになって、カルロス・フェルナンデスが蹴り込み、逆転に成功した。

 アディショナルタイムに入った94分にも、久保は左CKで鋭いボールをニアに合わせ、方向が変わったボールをファーでマルティン・スビメンディが押し込んでいる。狙撃手のような精度のボールだった。ほとんど10分で試合をひっくり返した。

 96分、久保はスイッチがオンになっていたのだろう。別人のようだった。カバーがいるディフェンスを相手にしても、得意とする緩急の変化のドリブルで抜き去り、味方とパス交換をしながらリターンを受けると、今度は縦に切り込んで右クロスを折り返している。周りと協調するプレーができれば、少々疲労を引きずっていたとしても、やはり脅威になる。1−3の勝利は必然だった。

 連戦が続く久保は体が重いのだろう。ハイレベルな試合が続き、毎試合、トップパフォーマンスが求められる。心身ともにぎりぎりの状態を迫られる。事実、筋肉にハリは出ているようだし、精神的ストレスも相当なものだ。

"新エース"久保に対する期待は大きく、この日の評価は厳しかった。

「縦に対する推進力を出そうと挑んでいたが、うまくいかなかった」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』の評価も素気なく、いつもの賞賛ではない。どのスポーツ紙も、星はひとつ(0〜3の4段階)だった。決して悪いわけではなく、あくまで「普通」ということなのだが。

 これで代表戦ウィークに入り、久保は日本代表の活動に参加する。チャンピオンズリーグですでにベスト16進出を決めているのが救いだが、厳しい日程が続く。11月16日に大阪でミャンマー、11月21日にはサウジアラビアでシリアと戦った後、スペインに戻る。おそらく中二日で26日にセビージャと戦う予定だ。