子育てにはお金がかかる。教育費もその一つだ。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「幼児教育に熱心で、子ども一人に月10万円の教育費をかけている家庭があった。教育熱が高まっている家庭の場合、長期的な視点が欠けていることがある」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

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亀山さん(仮名/46歳)のケース

本人 会社員(年収1200万円)
妻 専業主婦→パート(月収5万円)
第一子 5歳
第二子 0歳
住まい マンション(住宅ローン月20万円 ※修繕積立金などを含む)

■5歳にして習い事でスケジュールはパンパン

物価高に戦争、高い子どもの自殺率など、先行き不安な要素ばかりの現代において、子育て世帯の悩みはつきません。親として子どもに与えてあげられるものは何か――。今回は、「教育」にお金をかけることにした亀山さん一家(仮名)が陥った“幼児教育沼”のケースをお伝えします。

亀山祐介さん(46歳/仮名)一家は、最近第二子が生まれたばかりの4人家族。専業主婦の妻・桃子さん(40歳/仮名)は、現在5歳の第一子が生まれた時から幼児教育に熱心でした。特に、子ども一人ひとりの発達に寄り添いながらオリジナルな教育を受けられる「モンテッソーリ教育」に魅力を感じ、0歳から早期教育を開始。週2回の教室の月謝は5万円ですが、第一子ということもあり、夫の祐介さんもお金に糸目はつけないつもりでした。

その後も、桃子さんは東大生が過去にやっていた習い事として「水泳」と「ピアノ」が多かったと聞けばすぐに取り入れ、語学は必須ということで英会話教室にも通うなど、5歳にしてすでにスケジュールはパンパンに。実際、「手帳は自分のためではなく子どもの習い事のために買っているんです」と話すだけあって、桃子さんは送り迎えに忙しい日々を送っていました。

■小学校受験を前に教育熱心に拍車がかかる

さらに最近では、塾の単発講座にも通い始めました。星を観察する講座や、自然の中で学ぶ講座など、勉強の楽しさを教えてくれる魅力的なプログラムの数々にハマったのです。それらは短期集中で行われ、3日間で3万〜7万円ほど。小学校受験という喫緊の目標に加え、先行き不透明な世の中を生き抜く術を教えてくれるような塾での学びは、桃子さんの教育熱にさらに火をつけました。

また、休みの日でもYouTubeを見てダラダラ過ごすようなことはなく、博物館やプラネタリウムといった「学び」のありそうな施設に出向いて子どもと過ごし、少しでも知恵を授けてあげたいという一心で生活をしていたようです。

■「子ども一人10万円」教育費が倍になったらマズい

そんな中、一人不安を募らせていたのが祐介さんでした。金融関係の会社に勤める祐介さんの年収は1200万円で、数年前に有名なブランドマンションを23区内に1億円で購入。頭金を入れて残り6000万円をローンで組んだ結果、修繕積立金なども含めて毎月20万円ほどの支払いが住宅費として重くのしかかっていました。

それでも、子どもが一人のうちは10万円ほどの教育費を払っても貯金に回す余裕がありましたが、第二子の誕生により、「このままでは家計が破綻してしまうのでは」と思い、慌てて私のもとに駆け込んできたのです。ボーナスを考慮しないと、祐介さんの手取りは月70万円ほど。住宅費と教育費で給与の約半分が消えている現状、教育費が倍になったらマズいと思うのは当然ともいえるでしょう。

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■私立小学校なら学費だけで年間100万円はかかる

夫婦のもともとの希望は、2人のお子さんを小学校から私立に入れることでした。まず、私立小学校は学費だけで年間100万円かかります。高校まで私立に通った場合、同じような金額が毎年かかるので、子ども2人を小学校から高校まで私立の学校に入れた場合、教育費だけで約2500万円かかる計算です。

また、私学は修学旅行の積立金や制服代なども高いケースが多く、入学にあたって揃えるものリストの中に「iPad」が入っていることも珍しくありません。亀山さん一家は専業主婦家庭ですが、共働きの場合、夕方の預け先問題も発生します。例えば英語を教えてくれるシッターさんをお願いした場合、月5万〜10万円ほどかかることもあるので、あわせて考える必要があるでしょう。

一方、公立でも、部活によっては思わぬ出費がかかることもあります。公立中学に進学した知り合いのお子さんは、強豪の合唱部に入部したことで、部会費4000円以外にも全国への遠征費や大会のチケット代などが発生し、ご両親が「月数万円は出ていく」とこぼしていました。とはいえ、子どものやりたいことを応援したいのは当然なので、他を切り詰めてなんとか部活動にお金を回すように工面をしていると話していました。

■小学校から私立なら60代で家計は赤字

話を亀山さん一家に戻すと、桃子さんのように教育熱が高まっている場合、長期的な視点が欠けていることが大半なので、まずはキャッシュフロー表を作って老後までの一家の財政状況を示すことが有効です。

結果としては、2人の子どもを小学校から私立に入れた場合、祐介さんが60代に突入した時に赤字になる試算が出ました。これは、片働きの祐介さんが現役を外れた時点で給料がガクッと減ることが主な原因です。そこまでは生活の維持はできますが、本当に生活費が捻出できるギリギリのラインで、貯金もできず、旅行も行けないような状態が続くこともわかりました。

このような実態をお伝えしたところ、桃子さんが、「自分たちが老後破綻したら子どもに迷惑がかかっちゃいますね」とぽつり。今、すべてをなげうって子どもたちの将来のためを思ってしている教育が、結局、自分たちの面倒をみるためのものになってしまっては本末転倒だと感じられたようでした。

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結局、桃子さんはこれまでの習い事を整理して半分まで減らし、なんとご自身も、幼児教室の先生として働きだしたのです。教室も人手不足で人材を募集していたそうで、「スーパーなどで働くのは気が進まなくても、自分が興味のあることならいいのでは?」と後押ししたところ、見事に合格。第二子の0歳のお子さんもその教室に通うことができているそうで、働きながらお子さんの教育に役立つノウハウも得られて、とても喜ばれています。これで毎月5万円の収入になる上、教室の待ち時間にママ友と行っていたカフェ代も浮き、一石三鳥くらいの効果があったようです。

■受験が絡むと近視眼的になりやすい

私自身、子どもを育てる親として早期教育にはとても興味があります。知人に、早期教育を受けて有名大学に行った方がいるので、「実際、小さい時に受けた教育は意味があったと思う?」と聞いたことがあるんです。彼女から出てきた答えは、「わかんない」でした(笑)。さらに「でも、一流大学に入ったよね」とつっこんだところ、「自分がいい大学に入れたのが早期教育の結果かどうかは置いといたとしても、子どもの頃に習い事で忙しかったのがすごく嫌だった」と話していました。結局、子どもの顔を見て、そこから私たち親は学んでいくしかないのだと感じた瞬間でした。

特に受験が絡むと近視眼的になってしまいますが、どうか親御さんは長期的な視点も忘れず、金銭的にできることとできないことの境界線をきっちりと引いた上で、お子さんと二人三脚で乗り越えていってほしいと思います。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)