旗手怜央の欧州フットボール日記 第21回  連載一覧>>

開幕すぐのケガで数試合の戦線離脱を経験した旗手怜央。復帰後のチャンピオンズリーグで試合勘が戻っていないことに気づかされた出来事があったという。この「試合勘」「ゲーム感覚」といったものは何なのか。旗手自身が選手目線で語った。

第20回「旗手怜央が明かす移籍問題の真実」>>

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旗手怜央が今回はプレーヤーの「試合勘」について語った photo by Sano Miki

【ケガ明けは試合勘がもどっていなかった】

 9月16日のダンディーFC戦(スコットランドリーグ第5節)で、ケガから復帰した自分は4日後――フェイエノールトとのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループステージ初戦に先発出場し、58分までプレーした。

 セルティックが2人の退場者を出した試合は、前半終了間際と76分に失点して0−2で敗戦した。

 その結果が示しているように、オランダのリーグ王者であるフェイエノールトは強いチームだった。しかし、前半の早い時間帯にはセルティックもチャンスを作れていた。いずれもそのチャンスに顔を出したのは自分だった。

 1つは15分に自分自身がシュートを打った場面と、もう1つは17分に自分が打ったシュートが相手DFにブロックされた場面だ。その2度のチャンスで、僕自身がゴールやアシストを記録するプレーを選択できていれば、ブレンダン・ロジャーズ監督から求められているトップ下としての役割を全うでき、かつ試合の結果も変わっていただろう。

 タラレバは言いたくないが、今季、チームが取り組んでいるサッカーについて、自分のプレーについて、見つめ直すきっかけになったことは言うまでもない。

 特に悔やんだのは17分のシーンだ。個人的には戦列を離れていたことによる「試合勘」や「ゲーム感覚」が、まだまだ戻りきっていないと強く実感した。

【亨梧くんの動きが全く見えていなかった】

 僕ら選手も試合勘やゲーム感覚といった抽象的な表現でまとめてしまうことが多いが、個人的に体感するその試合勘とゲーム感覚を何とか今回、言語化してみたいと思う。

 自分は、相手がボールを持っている時やボールを受ける前に、周囲を見ることが多い。それによって守備ではプレスを掛けるタイミングやコースを変え、攻撃ではトラップしたあとのパス、ドリブル、シュートといった選択肢を増やしている。特にパスは、周囲を見ることで、(パスを)出す先とスペースの選択肢をいくつか持つことができる。

 ここに試合勘やゲーム感覚がある時と、ない時とでは大きな違いがある。心の余裕というべきか、ゆとりというべきか、それがあるかないかで見える視野もプレーの幅も変わってくる。

 フェイエノールト戦でチャンスだったと自覚していた17分のシーンが、端的に表していた。

 ルイス・パルマのプレスにより相手DFが処理を誤り、ボールを奪った自分は、ペナルティーエリア手前からシュートを打ったが、相手DFに当たってしまった。しかし、この時右横には(古橋)亨梧くんが走り込んできていた。

 2対1の状況だっただけに、亨梧くんにパスを出すことができれば、ゴールが決まる確率は上がっていただろう。しかし、僕はこの時、亨梧くんの動きが全く見えていなかったため、パスという選択肢を考えず強引にシュートを打った。

 この見えていなかったというところに、自分のなかでの試合勘、ゲーム感覚は大きく起因している。

 パスが出せたことに気づいたのは、試合を終えて映像を見返したあとだった。映像を見た時、近くに走り込んできていた亨梧くんが見えていなかった事実に悔しさを覚えた。

 本来であれば、見えているはずのところが、見えていなかったのである。

 自分としては、見えていたうえで、パスではなくシュートという選択をした結果、相手DFに当たってしまったのであれば、納得できる。しかし、見えていなかったため、シュートという選択肢しか持ち得ていなかった自分に納得できなかった。

 遠くまで見渡す視野の確保や、瞬間におけるプレー選択の速さこそが、試合勘やゲーム感覚の正体で、シーズンが始まった直後にケガで戦線離脱した影響を如実に感じた。

【改めて思い出した反骨精神】

 続くラツィオとのCLグループステージ第2節もセルティックは1−2で敗戦した。1−1で迎えたアディショナルタイムに、逆転ゴールを決められた結果は、チームとしての底力の差を痛感した。

 自分自身は試合を重ねてきたことで、前述した試合勘やゲーム感覚を取り戻せてきた手応えはあったが、先制ゴールをマークした亨梧くんと、数字という結果を残すことができなかった自分に差を感じざるを得なかった。そこにFWとMFという違いがあったとしても......。

 また、ラツィオ戦のあと、ロジャーズ監督から叱咤激励された。

「全然、戦っていなかったじゃないか。もっと、レオは高い強度を見せられるはずだ。強度が上がってくれば、守備だけでなく、自ずと攻撃にもその強さは発揮できるようになる」

 厳しくも愛のある指摘に、10月7日のキルマーノック戦はベンチスタートになることも覚悟した。しかし、ロジャーズ監督は先発で起用してくれた。

「先発起用してくれた期待に応えたい」

 同時に、こうも思っていた。

「プレーで見返して、自分の存在価値を示してやる」

 22分、ペナルティーエリアの手前でパスを受けた僕は前を向くと、監督が求めていた「強度」でボールを刈り取りに来た相手DFをかいくぐり、ドリブルすると右足を振り抜いた。

 その試合で1得点1アシストという結果を残した自分は、マン・オブ・ザ・マッチにも選ばれた。

 改めて思い出したのは、反骨精神こそが、自分を突き動かす原動力になっていることだった。逆境に立たされた時や、自分を奮い立たせた時ほど、力を発揮する。

 キルマーノック戦を終えた時、次は求められているこのプレーを、CLの舞台で示すと、誓った。

旗手怜央 
はたて・れお/1997年11月21日生まれ。三重県鈴鹿市出身。静岡学園高校、順天堂大学を経て、2020年に川崎フロンターレ入り。FWから中盤、サイドバックも務めるなど幅広い活躍でチームのリーグ2連覇に貢献。2021年シーズンはJリーグベストイレブンに選ばれた。またU−24日本代表として東京オリンピックにも出場。2022年3月のカタールW杯アジア最終予選ベトナム戦で、A代表デビューも果たした。2022年1月より、活躍の場をスコットランドのセルティックに移して奮闘中。