10月24日、リスボン。チャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ第3節で、久保建英を擁するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は、ポルトガル王者ベンフィカをブライス・メンデスの得点で0−1と下している。これによってラ・レアルは2勝1分けで首位をキープ。ベンフィカは3連敗で、すでに明暗が分かれつつある。

「ブライスと久保が鷲を狩った」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』はそう見出しを打ったが、試合を象徴したタイトルと言えるだろう。鷲はベンフィカのシンボルだ。

 CLベスト8の常連であるベンフィカ(昨シーズンは準々決勝でインテルに敗北)との一戦で、久保は得点こそ記録できなかったが、一騎当千の活躍だった。


ベンフィカ戦に先発、勝利に貢献した久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Reuters/AFLO

 6分、ミケル・オヤルサバルが深みを取って戻したボールを受け、エリア内へ入って左足を鋭く振ってニアへシュート。このワンプレーで、右サイドでアドバンテージを握った。この後はワンツーを使いながら、何度となく危険なエリアに侵入した。

 21分、久保は自陣でパスを受け、中央を力強いドリブルでひとり、ふたりと相手を置き去りにし、センターサークルで4人目、世界王者アルゼンチン代表ニコラス・オタメンディの渾身のチャージで倒れた。もはや、ファウルでしか止められない。34分、そのオタメンディの勢いを逆手にとって入れ替わり、エリア内まで侵入、左足のシュートは敵DFの左腕に当たってPKに見えたが、VARでも判定は覆らなかった。

 後半に入っても、久保は右サイドを席巻し、確実にベンフィカにダメージを与える。まともに敵陣に入れない相手を、徹底的に叩きのめす。58分、ベンフィカはたまらず"久保番"だったチェコ代表の左サイドバック、ダビド・ユラーセクを下げ、元スペイン代表フアン・ベルナトを投入したが、久保は容赦しなかった。

 味方のミケル・メリーノが奪い返したボールを受けた久保は、ベルナトとオタメンディに前後を挟まれながらも、少しも動じない。足が届かないところにボールを置き、一瞬で抜き去る。肝心の右足シュートはやや当たらずにゴールを逸れたが......。

【チーム全体が高い集中力】

 その脅威が伏線になったのか。63分、ラ・レアルは右サイドからの攻撃で、ベンフィカが久保を警戒して一斉に左へ固まったところ、逆サイドへ展開。左でフリーだったアンデル・バレネチェアが仕掛けてクロスを折り返すと、最後はゴール前に入ったブライスが押し込んだ。

 久保のハイライトは、この後だろう。

 66分、右でベルナトと1対1になった瞬間、右サイドバックのアマリ・トラオレがインサイドを猛烈なスプリントで駆け抜け、ボランチを引き連れる。ここを見逃さず、コースが空いた中央へカットイン、左足で狙った。美しい軌道のシュートはバーに直撃し、ダメ押し点にはならなかったが。

 75分、久保はコンディション面を考慮され、カルロス・フェルナンデスと代わってベンチに退いている。

「久保はスペクタクルな夜だった。最後のシュートはバーに阻まれたが、ハイレベルなコンビネーションからのシュートで、ゴールに値した。試合を通じ、ベンフィカを上回っていた」(スペイン大手スポーツ紙『マルカ』)

「(試合は)久保の新たな極上品」(『アス』)

 マルカもアスも、久保に最高点の三つ星(0〜3の4段階)を与えている。CLの舞台でポルトガル王者に対し、敵地で格上の戦いをやってのけて勝利する。それがどれほど難しいことか。

「(久保は)プレーの熟成はディエゴ・マラドーナ、エリア付近への出現はスティーブン・ジェラード。あとは決定力だけ......」

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』はそう絶賛し、惜しんでいる。

 この日、ラ・レアルはチーム全体がとても良かった。高い集中力で技術の高さを誇示し、ベンフィカを凌駕。ほとんど攻め手を与えていない。面白いようにパスをつなぎ、ひらめきも感じさせた。久保と同じくイゴール・スベルディア、ブライスも両紙で三つ星を獲得、攻守がかみ合った。

「チームとして10点満点。0−3で勝っていても、おかしくはなかった」

 イマノル・アルグアシル監督が語ったように、スコア以上の完勝と言える。

 これでラ・レアルは決勝トーナメント進出に向け、着実に前進した(4チーム中2チームが進出)。残り3試合で、有利なのは間違いない。11月8日、ベンフィカとのホームでのリターンマッチにしっかり勝利できれば、可能性はさらに広がる。

 ただし、ラ・レアルは週2試合ペースの過密日程が続く。29日にはアウェーでラージョ・バジェカーノ戦、11月1日にはスペイン国王杯、11月4日には強敵バルセロナ戦と、ノンストップの戦いだ。

 久保も疲労はたまっているはずだが、マジョルカ戦、ベンフィカ戦と、攻撃をけん引した。周りとの連係度は、むしろ上がっている。呼吸が合わない時間もあったが、そこでアジャスト。そして彼自身がスポットライトを浴び、ゴールの予感を漂わせる。

<久保タイム>――それはショーの幕開けだ。