今季限りで場内アナウンス担当を引退するロッテの谷保恵美さん【写真:千葉ロッテマリーンズ提供】

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場内アナウンス担当33年、プロ野球ファンから愛された美声の持ち主

 プロ野球のクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージは21日、ロッテが2-3でオリックスに敗れ、日本シリーズ進出はならなかった。その美声で本拠地ZOZOマリンの名物的存在として野球ファンに愛され、33年目の今季限りで場内アナウンス担当を引退する谷保恵美さんが「THE ANSWER」に手記を寄せた。レギュラーシーズンだけで2100試合を担当した鉄人。日本シリーズでの“再登板”はならず、惜しまれながらの卒業だが「悔いは何もないんですよ」と胸の内を明かした。(取材:THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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 CSファイナルシリーズは中継を見て応援していましたが、マリーンズは最後までチームも応援も最高でした。私にとって、延長10回に3点差を逆転サヨナラで制したファーストステージ第3戦がとても劇的で、チームとファンの皆さんの沢山の笑顔を見て終わることが出来て本当に幸せでした。

 このタイミングで担当を卒業することに、悔いは何もないんですよ。こんなに沢山の試合を担当させていただいて感謝しかありません。ここ10年くらいは、いつ担当を引き継ぐのが良いのだろうかとずっと考えていました。

 昨年、担当2000試合を達成したことが良い区切りだと感じたので「辞めようと思います」と球団に伝えさせていただき、相談の上で今年を最後にいたしました。自分で終わりの時期を決めさせていただいたのも、本当に有難い話です。

 自分が担当しなくなっても特に何事もないだろうと思っていたのですが、発表後は想像を超える反響でした。

 沢山お手紙も届きましたし、球場でファンの方に声もかけていただいて。「小さい頃、マリンに来た時から谷保さんの声でした」と言って下さる方が多くて、嬉しかったですねぇ……。今度はその方のお子さんが来ていて、こうしてマリーンズファンが繋がっていくんだなと感慨深くもなりました。

 今年、やっぱり忘れられないのはレギュラーシーズンの本拠地最終戦。最後のアナウンスは感極まって、堪えられませんでした。泣きが入ると喋れなくなるので、絶対に泣かないと決めていたんですけど……。花束をグラウンドでいただく流れも「そういうのはやらないから大丈夫!」と職員に言われていたのに、行くの?!ってビックリしました。

 ファンの皆さんに「谷保」の名前をコールしていただいて、後で思い返したら今以上にありがたく感じるだろうなと思っています。これから先、名前を呼ばれることなんて出席確認くらいだと思っていたのに、まさかあんな光景を見させていただけるとは。

 担当33年、私はマリンスタジアムとともに生きてきたようなもの。マリンスタジアムは同志みたいなものです。長くこの球場に住み着きすぎたのかなとも思うけれど、共に歩んで来たなと、今になって実感します。記憶に残る試合は沢山あるし、滅多に遭遇しない完全試合も目撃できました。一昨年、マリンスタジアム通算1000勝をカウントダウンして、皆さんと一緒に節目を迎えられたのは特に嬉しかったです。

「冠婚葬祭に出られず申し訳なかった」それでも続けた原動力は

 自分の仕事で褒められることは何もないけれど、担当の試合に穴を空けなかったことだけは誇りです。これだけ続けられた原動力は、やっぱり責任感かなぁ。

 家族や友人の冠婚葬祭に出られないときは申し訳なかったですし、どんなに行きたいK-POPのコンサートがあっても「担当があるだろ」って(笑)。就職で本当なら親のそばにいたほうがよかったかもしれないけれど、この仕事がやりたくて北海道から送り出してもらった。ちょっとやそっとじゃ、辞められないですよね。

 30年間で一番いた場所が、球場の放送室。あの小さな部屋で、自宅よりも時間を過ごしてきました。これからは、広い球場のどこにでも行ける。2000試合以上マリーンズの試合を見させてもらいましたけれど、ほとんどあの場所からしか見たことがないんですよね。2階席で海を眺めながら応援もしたいし、ネット裏からじっと野球を見てみたいし、ライトスタンドで応援したらどうなるか……応援歌を全てきっちり歌えるようにしてから行かないといけませんね。

 職員になった頃の自分には、今の状況はとても想像できませんでした。2〜3年で北海道に帰るかもなって思っていたし、まさか33年、こんなにも長く野球のそばにいられるとは。試合終盤、何度も劇的な逆転勝ちをしてくれたマリーンズのように、人生も何が起きるか分かりません。

 担当を引退して、今後やってみたいこともありますが、まずは球場で純粋に楽しみたいなって思います。マリーンズファンの皆様と一緒に沢山の試合を過ごし、応援出来て本当に幸せでした。これからもマリーンズをよろしくお願いいたします。OBの皆様を含めチームの皆様、関係者の皆様には長い間お世話になりました。未熟なアナウンスが多かったかと思いますが、どうぞお許しください。来シーズンからは憧れのスタンド席で応援しております。たにほ〜〜〜より。

千葉ロッテマリーンズ 場内アナウンス担当)

■谷保 恵美(たにほ・えみ)

 1966年5月11日生まれ。北海道帯広市出身。帯広三条高では野球部マネージャー。札幌大女子短大に進学後も札幌大野球部のマネージャーを務める。90年にロッテオリオンズ入社。91年から2軍の球場アナウンスを担当する。94年からは主に1軍本拠地を担当し、96年10月1日の近鉄25回戦以後は1試合も休むことなく連続担当を継続。33年目の今季、公式戦のアナウンス担当2100試合を達成した。右投右打。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)