風間八宏のサッカー深堀りSTYLE

独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで注目されている選手のプレーを分析する。今回はレアル・マドリードで開幕から大活躍しているジュード・ベリンガム。「数カ月で怪物に進化した」というそのプレーの特長とは?

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風間八宏がベリンガムのプレーのすごさを解説した

【ほぼ1試合1ゴールペース】

 今シーズン、常勝軍団レアル・マドリードで抜群の存在感を示しているのが、イングランド代表MFジュード・ベリンガムだ。

 2003年6月29日生まれのベリンガムは、弱冠20歳。その若さで今夏にドルトムントからレアル・マドリードに移籍すると、開幕からスタメンを確保しただけでなく、チームの中心選手として大車輪の活躍を見せている。

 リーグ戦9試合を消化した時点で8ゴール2アシスト。チャンピオンズリーグでも2試合で2ゴール1アシストをマーク。ほぼ1試合1ゴールのペースでゴールを量産する。今夏の移籍市場で、レアル・マドリードが1億300万ユーロ(約156億円)プラス出来高ボーナス最大3,000万ユーロ(約46億円)という大金を投資したのも納得だ。

 17歳で加入したドルトムント時代は、主にボランチでプレーする典型的なボックス・トゥ・ボックス型のミッドフィルダーだった印象だが、新天地レアル・マドリードで任された役割はプレーメイカー。経験豊富な名将カルロ・アンチェロッティ監督は、今シーズンから20歳の逸材を2トップ下に配置する4−3−1−2を採用し、それがベリンガムのなかに眠っていた新たな才能を引き出すことにつながった。

 ちなみに、ベリンガムが昨シーズンのブンデスリーガで記録したゴール数は、キャリアハイの8ゴール。今シーズンは、すでにそのゴール数に並んだことになる。

【攻守でボールに触りゴールにも絡める】

 今やラ・リーガを代表するビッグネームに大化けしたベリンガムの活躍について、独自の視点を持つ風間八宏氏はどのように見ているのか。ドルトムント時代からベリンガムを見続けていた風間氏に、レアル・マドリードでの印象を聞いてみた。

「もちろん、ドルトムント時代も良い選手だとは思って見ていましたが、まだ10代でしたので、どこか粗削りでミスも多かった印象がありました。そのなかでレギュラーとして着々と成長をしていましたが、現在のベリンガムの姿は想像していませんでしたね。

 ただ、こういった選手はちょっとしたきっかけがあれば、ほんの数カ月で怪物に進化できる。現在のベリンガムはその典型で、すでにレアル・マドリードの主力と言うより、中心選手になっています。20歳にして、これはすごいことです。

 最近はチームが苦しい時にボールがベリンガムに集まってきますし、大事な局面で最もボールに触っています。試合中にたくさんボールに触るというのは、ゲームをコントロールできる選手ということです。ベリンガムは、守備では自陣で、攻撃では敵陣でボールによく触り、ゴールにも絡める。

 この3つを同時に持ち合わせる選手は、滅多に存在しません。それだけでも、この選手がいかに特別であるかがわかります」

 あっという間にマドリディスタの心を鷲掴みにしたベリンガム。確かにカタールW杯でもイングランド代表の主軸として才能を発揮していたが、現在のようなスペシャル感はまだ持ち合わせていなかった印象だった。

【ボールを持てる範囲の広さに注目】

 では、そんなベリンガムの最大の特徴、武器はどこにあるのか。普通の選手とは何が違っているのか。風間氏が解説してくれた。

「特に注目してほしいのは、彼がボールを持った時のプレーの幅、範囲の広さです。しかも、広い範囲の中で、自分のステップを巧みに変えてボールを自分の中心に持っていくことができる。それができるから、スムースにボールを運べますし、ゴール前では素早くステップを踏み直して正確にシュートを決めることもできます。

 一般的に、ボールを止める時は自分が何でもできる位置にボールを置くことで相手を寄せつけないものですが、ベリンガムの場合、自分の間合いを作れる幅、範囲が広いので、その中にボールを置きさえすれば、ステップを踏むことでつねに自分がボールを操れる状態にできます。しかも足の運びがスムースで、体勢も崩れません。

 そうなると、相手はそう簡単にベリンガムの間合いに飛び込めず、ベリンガムからすると、その範囲が広くなります。だから、ボールと体が離れているように見えても、ベリンガムの場合は離れていることにはなりません。これは球際の攻防においても、相当な強みになっていると思います。

 身長186cmという体格を生かしたゴールコントロールの方法を身につけていて、ボールタッチも柔らかい。(ルカ・)モドリッチとは異なる"型"を持っていて、身長の部分で言っても、最近のベリンガムはジネディーヌ・ジダンに近いタイプになってきました」

 ダイナミックでありながら、エレガントさも兼ね備えるプレーメイカー。しかも、プレーエリアも広く、守備でも高い貢献度を誇るベリンガムは、20歳にしてすべてを持ち合わせたスーパータレントと言っていいだろう。

 これまで数えきれないほどの選手を見てきた風間氏が、舌を巻くのも頷ける。

【ピッチのどの場所でも存在感を発揮】

「たとえばモドリッチはボールの出し手としてスペシャルな選手ですが、ベリンガムは出し手の役割を果たしながら、ボールの運び手にもなっていて、さらにゴール前では受け手としての能力も急成長しています。

 しかも、ピッチのどの場所でもボールに絡んで存在感を発揮できる。それは試合中に動きながら、自分がどのようにゲームに関われるのかをしっかり理解できているからこそ、可能になるわけです。高い個人戦術、戦術理解能力を持っていなければ、できないことです」

 このままいけば、近い将来、おそらくベリンガムは若くしてイングランドサッカー史のなかでも屈指の大物選手になるだろう。そして、世界のサッカー界をけん引するスーパースターにのし上がるに違ない。

 現在のベリンガムは、そんな無限大の可能性を感じさせてくれる選手だ。

風間八宏 
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。