「聡明な選手で洞察力が高く、そこで創ったビジョンを実現する技術もありあまるほどに持ち合わせる。それが、高水準のコンビネーションを生み出す」

 それが9月にレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英を現地取材し、関係者から導き出した総評である。

 この日、交代出場でいきなり生み出した先制点は、その典型だった。


古巣マジョルカ戦で決勝ゴールをアシストした久保建英(レアル・ソシエダ)

 10月21日、サンセバスチャン。本拠地レアレ・アレーナでのマジョルカ戦、久保は試合直前セレモニーでクラブのレジェンド、シャビ・プリエトからラ・リーガの9月月間MVP賞のトロフィーを渡されていたが、ベンチスタートだった。序列が低くなったからではない。日本代表遠征で疲れが残る肉体や精神に配慮してのことだ。

「帰りの飛行機は、睡眠薬を飲んでスカッと寝られたらいいですが......」

 久保が日本でそう洩らしていたように、スペインは直行便もなく、コンディション的な「きつさ」は否めなかった。「どうとも思わない」と言う選手もいたが、特にひらめきが求められる攻撃のポジションの選手は、後ろの選手よりもより"頭の疲れ"が溜まる。思うように動かない肉体へのストレスは大ケガにもつながり、大事をとるのは当然だった。

 ただし、古巣マジョルカとの一戦、本人は特別な感情があったかもしれない。そして久保不在の影響が強く出た前半は、指揮官が酷評するほどの内容だった。

「ホームでは最低の試合での勝利で、とくに前半は気に入らなかった。プレーに勇敢さが欠けていた」(イマノル・アルグアシル監督)

 ラ・レアルはロシア代表アルセン・ザハリャンを初先発させ、4−4−2の布陣で挑んだが、GKアレックス・レミーロのビッグセーブがなかったら、複数失点は避けられなかっただろう。後半に入っても、スコアレスドローのまま推移できたのは僥倖だった。

 だが60分、4−3−3の右サイドアタッカーでピッチに登場した久保は、一瞬でケリをつけている。

 64分、左でボールを受けたアンデル・バレネチェアが2人を外し、ドリブルで持ち込むと、敵守備全体を引き寄せる。その前段として、久保が右サイドで幅を使い、相手を揺さぶっていた。そして中央でパスを受けたマルティン・スビメンディが、右サイドの久保へ。ディフェンスと1対1になった久保は、最善の選択肢を探った。

【マジョルカでは合わなかったコンセプト】

 アマリ・トラオレがセンターバックを釣るように縦へ猛烈なスプリントした瞬間、久保は空いたスペースへカットイン。中央でミケル・オヤルサバルがニアに動いてディフェンスを引き連れると、フリーになったブライス・メンデスを見つけ、ピンポイントのクロスでヘディングでのゴールをアシストした。

 簡単に見えるが、極めて高度で美しいプレーだった。味方が絶え間なく仕掛ける連動に、久保も調和していた。だからこそ、"簡単に"アシストが決まった。

 スタジアムが先制点後のポズナンダンスで沸き返るなか、久保は半ば強引に仕掛け、ファウルを受けている。ここぞとばかりに相手の意気を挫く。これにチームが反応、一気呵成になった。久保はオヤルサバルに絶好のラストパスを右足で送り、これは防がれるも(その後のシュートはオフサイド判定)、完全にマジョルカの勢いを奪っていた。

 結局、チームは優勢のまま、1−0と勝利している。

 やや大げさに言えば、久保は世界中の指導者が躍起になる「ハードワーク」など、一瞬で"壊滅"できることを証明した。

「タケとイ・ガンインに起こったことは同じことだよ。何か違うものを持っていたわけだが、継続性が足りなかった。突然のブレイクは、2人とも今はそれができるようになっただけだ」

 マジョルカのハビエル・アギーレ監督は前日の会見で、かつて久保を冷遇した釈明をしていた。しかし彼が求める「ハードワーク」主体では、久保の才能を引き出すのは難しかった。コンセプトの問題だ。

 今のラ・レアルはコンビネーションでゴールを多く奪い、それを多発させるため、できるだけ高い位置でボールを奪い返す。攻撃優先のコンセプトである。だからこそ、久保は戦術のなかで進化した。一方、アギーレのサッカーは相手のスペースを消し、嫌がるプレーを多発させる「守りありき」。ミスを生じさせ、間隙を縫って得点を狙うもので、そのコンセプトだと、どこまでも体格やパワーがまとわりつく。

 久保はラ・レアルでプレーし、アギーレ率いるマジョルカを下し、自らのサッカーをも正当化したのだ。

 何より、ラ・レアルの選手たちは久保を信頼していた。どこで久保にパスを預け、ボールを持ったらどう動くべきか。ブライスを筆頭に、出色のコンビネーションだった。

「タケは交代出場で試合の流れを変えた。たった4分間で試合を決めてしまった」(スペイン大手スポーツ紙『マルカ』)

「タケの途中出場が決定的だった。ブライスへのアシストは至高の逸品」(スペイン大手スポーツ紙『アス』)

「Diferenciador (異彩を放つ者)」(スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』)

 各紙とも勝利につながるクロスを絶賛した。

 それは、効率的な一撃でもあった。ベストプレーが望めないなか、一発に懸けていたのか。それで一発回答することに、彼のすごみがある。そのインパクトで、ゲームMVPも獲得した(何度もピンチを救ったGKレミーロも十分MVPに値した)。

「チャンピオンズリーグ(CL)も思った以上にタフ。負けられない試合が続くので、コンディションに折り合いをつけながら......」

 久保はスペインに戻る前に語っていたが、敵地でのCLベンフィカ戦は今後のキャリアまでも左右する一戦となる。グループリーグ首位に立つポルトガル王者は強敵で、戦力的には実力伯仲。ベスト16に向け、前半戦の山場となる。

 大舞台、久保は再び脚光を浴びるか。