レジェンドが語る久保建英(1)

 サンセバスチャンで、複数のレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の伝説的選手たちとのインタビューに成功した。いずれも下部組織で育ち、主力としてひとつの時代を担った人物ばかり。ラ・レアルの魂を持つ者たちだ。

 その彼らに現在のエース、久保建英について語ってもらった。短期集中連載「レジェンドが語る久保建英」。レジェンドの視点で、久保という人物、プレーを掘り下げる。

 10月21日、久保は古巣マジョルカ戦を控えている。「3万キロの移動」と地元紙に揶揄されるなど、代表戦後で疲労は重なる。過酷な日程だが、エースはどう切り抜けるのか。レジェンドたちの言葉は、ヒントになるかもしれない。

 第1回は、2000年代から"ワンクラブマン"として活躍したシャビ・プリエト(40歳)だ。


チュニジア戦に出場後、中3日でマジョルカ戦に挑む久保建英(レアル・ソシエダ)

「タケは今シーズンのラ・リーガで、一番に均衡を崩せる選手と言える。相手にとっては悪夢だよ」

 シャビ・プリエトはそう言って、ラ・レアルの久保建英のプレーを賞賛している。

 プリエトはラ・レアルの伝説的キャプテンである。下部組織であるスビエタで育ち、2003年にトップチームでデビュー。ラ・レアルひと筋で15シーズンにわたってプレーした。2013?14シーズンにはチャンピオンズリーグに出場したチームで、攻撃的MFとして戦っている。500試合上に出場したラ・レアルのレジェンドだ。だからこそ、その賛辞は他の誰とも意味合いが違う。

 ラ・レアルのレジェンドが語った久保の肖像とは?

「18歳でスペインに来てから、タケは選手としてのタレントや質の高さをずっと示してきた。ただ、ラ・レアルでは違うステージに入った。経験を重ねて、成熟した姿を見せられるようになったのだろう。周りと調和し、適応し、自信を持ってプレーすることができるようになった。

 マジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェでもグッドプレーヤーではあったけど、1年を通じて高水準なプレーはなかなか見せることができなかった。それがラ・レアルでできるようになっている。チームが彼を生かすスタイルだったのはあるが、彼自身もチームのスタイルを生かしているよね。

【連携力こそタケの魅力】

 やはり、イマノル(・アルグアシル監督)の存在が大きいよ。タケにプレー時間を与え、自信も与えた。他の監督が悪かったわけではないけど、指揮官の十分な理解はどんな選手にとっても大事なことなんだよ。高い要求をしながら、成長を促し、活躍を称賛し、それでも満足して"眠らない"ように、刺激を与えられるか。特にタケのように若い選手には重要なことだった」

 プリエトは若い頃からキャプテンを務めただけに、冷静で筋の通った説明をした。一方で口調は熱っぽく、長くチームのアイコンだったという自負も感じさせた。

「タケの最大の才能はどこにあるか? ひと言でいえば、desequiribrio(均衡を崩す)にあるだろう。単純に個人のプレースピードも速いが、チームメイトと連携することによって、さらに攻撃を速めることもできる。そのアドバンテージで、守備陣が構築したバランスを崩せるんだ。

 それが、今シーズンはdeterminante(プレーを決定する)の選手になるのにつながっている。よりゴールを感じさせるプレーが多くなった。実際、開幕から信じられないくらいに簡単にゴールしているよ。

 ダビド・シルバが引退し、アレクサンダー・セルロートは移籍し、コンビを組む選手は変わったけど、タケは誰とでも適応できるよ。開幕からカルロス・フェルナンデス、ミケル・オヤルサバル、ウマル・サディクと組み、まもなくアンドレ・シルバも復帰するはずだが、それぞれの力を引き出せるはず。その連携力こそ、タケの魅力と言えるからね」

 プリエトは右利きで、右サイドアタッカーとしてプレーする機会が多かった。当時は右利きが右サイド、左利きが左サイドというのが通例で、求められる仕事は違うが、同じポジションである久保をどう見ているのか。

「現代では、右利きは左サイド、左利きは右サイドというのがスタンダードで、タケは典型的と言えるよね。中に入ってフィニッシュを狙えるだけでなく、サイドで幅をとって縦に侵入することもできる。つまり、どこからでもダメージを与えられる。相手にとっては厄介だよ(笑)」

【数字を出すことで次の選択肢も】

「トップ下でダビド・シルバの代わりはできないか?

 うーん、タケはできなくはないと思うよ。でも現状では、右サイドで生きるんじゃないかな。相手もかなり守りを固めてくるところで、サイドからのほうがスペースもうまく使える。先日の日本代表のドイツ戦もそうだったが、カウンターでも貢献できるのは大きいよね。今の彼はなかなか止められないし、まさに"プライムタイム"にあるんじゃないかな」

 今やレアル・マドリードのジュード・ベリンガムと比較されるようになった久保には、賞賛の言葉が降り注ぐ。「レアル・マドリードが買い戻す」という話も聞こえてくるが......。

「世間では、『将来は......』という話になるだろうけど、経験から言えば、その想定にはあまり意味がない。結局、サッカー選手は"数字"がすべて。タケはそれを誰よりもわかっている。数字を叩き出すことで、次の選択肢も出てくる。続けることができたら、世界的な選手になれるだろう。

 自分の場合、子どもの頃からラ・レアルでプレーするのが夢で、ひと筋の選手だった。これはハートの問題だよ。2部に落ちた時代もそれは変わらず、苦しんだけど幸せだった。ここで始まり、ここで終わることができてよかったと今でも思っているよ。

 だから、タケにもラ・レアルでできる限り長くプレーしてほしい。ただ、選手のキャリアは成長するなか、ほかの大きなクラブでプレーするという選択肢も考えられる。それに向き合うのはプロとして当然だよ。それだけのポテンシャルが彼にはあるんだ。

 その点、チャンピオンズリーグ出場は大きなチャンスだろう。自分も出場した経験から、かなり精神的に消耗するけど(ベスト16に進出するが、ラ・リーガでは低迷した)、今のチームなら戦えるはず。どんな強い相手に対しても完全にやられるほどの差は見せていないから、選手は楽しんで、夢を見て、競争に没頭してほしい。まずは決勝トーナメント進出が目標だろうけど、天井なんて設定はせずに」

 プリエトはCLでのラ・レアルと久保にエールを送った。現在、ラ・リーガのアンバサダー的な仕事をしている彼は、カフェでインタビューしていると、町の人々に写真やサインをせがまれていた。その人気は、元トッププレーヤーの証だ。

 最後に聞いた。

――今までのチームメイトで、久保に似た選手はいますか?

「うーん、昔のチームメイトでは(ブラジル代表)サビオに似ているかな。速くて巧みで左利きで、シュートもうまい。ただ、サビオは左サイドでプレーすることが多かった。タケのほうが、ずっとモダンなアタッカーだよ」

Profile
シャビ・プリエト
本名シャビエル・プリエト・アルガラテ。1983年、サンセバスチャン生まれのMF。レアル・ソシエダの下部組織出身で2003−2004シーズン、トップチームデビュー。以来、レアル・ソシエダひと筋で、2017−18シーズン終了後に現役を引退。2012−13シーズンからキャプテンを務めた。