AI専門メディア「AINOW」の編集長であり、AIやDXなどの最先端技術トレンドを発信し続ける“おざけん”さんこと、小澤健祐さんが著書『生成AI導入の教科書』を上梓しました。生成AIで企業を変革する方法を網羅した一冊です。

 

本記事では、そのおざけんさんに、先日発表された「Microsoft 365 Copilot」から出発し、生成AIの現状、今後の可能性までを解説いただきました。

小澤健祐

日本最大のAI専門メディア「AINOW」の編集長。ディップ株式会社で生成AI活用推進プロジェクトを進めるほか、AI活用コミュニティ「SHIFT AI」のモデレーターとしても知られるなど、若手ながらAI業界で幅広く活躍するキーパーソン。株式会社Cinematorico/COO、株式会社テックビズ/PRディレクター、株式会社Carnot/事業戦略担当、Cynthialy株式会社/顧問、日本大学次世代社会研究センター/プロボノとしても活躍。

 

仕事のあり方を大きく変える可能性があるMicrosoftのCopilot

米Microsoftは9月21日(現地時間)、Microsoft 365向けのAI機能「Microsoft 365 Copilot」を11月1日に一般公開すると発表しました。まずはエンタープライズ向けの提供となります。

↑MicrosoftのJapan News Centerから

 

Microsoft 365 Copilotは、2023年3月16日にMicrosoftが公開した新しいツール。大規模言語モデル(LLM)を基盤に、Microsoft 365のユーザーがデータを簡単に作成したり整理できたりするよう支援します。

 

Copilotは、「ChatGPT」と同様の対話型AIを用いたAIアシスタント機能を指し、パイロットを隣で支援する「副操縦士(copilot)」のように、ユーザーの操作や情報検索、データ処理、意思決定などをAIがアシストすることを意味しています。

 

その意味どおり、Microsoft 365 Copilotはビジネス利用の多いMicrosoft 365アプリ群に組み込まれ、日常の業務効率を向上させるために、サポートする機能といえます。

 

各アプリケーションにおけるCopilotの機能は以下の通りです。

↑Microsoftのサイトから。サイトではCopilotで利用できる機能を紹介しています

 

Word:

文書の作成、編集、要約や創作をサポート。提案書や企画書の草稿作成、レイアウトやデザインの編集を簡単に行えます。

 

Excel:

関数の使用方法、新しい関数の提案、データ分析やグラフ作成をサポート。データ分析の指南や特定地域の売上データ分析、将来の売上予測モデル作成などが可能です。

 

PowerPoint:

複数の資料からのスライド作成、スライドの編集、レイアウト調整をサポート。指定のテキストやテーマに基づいたプレゼンテーションスライドの作成が簡単になります。

 

Outlook:

メールの整理、スレッドの要約、返信メールの草稿作成をサポート。未読メールの整理や特定の送信者からのメールのまとめ、煩雑なメールスレッドの要約などができます。

 

Teams:

会議やミーティングの論点整理、スムーズな進行をサポート。途中退席中の議論のまとめや重要な論点の特定、次のアクションの提示などが可能です。

 

Business Chat:

Microsoft製品間でのデータとツールの横断的な活用をサポート。複数のソースからの情報収集や問題点の洗い出し、チーム間の認識共有を助けます。

 

Microsoft 365 Copilotは、これらの多様な機能を提供することで、ビジネスユーザーの作業効率と生産性を大きく向上させ、私たちの仕事のあり方を大きく変えていくことが予想されます。

 

食べログからGoogleまで、あらゆるサービスと連携する生成AI

Microsoftは同社のツールに生成AIの機能をかけ合わせ、アシスタントとしての機能性、利便性の向上を目指す動きを明確にしています。同様の動きは、OpenAIやGoogleなど、他社の動向からも読み取れます。

 

たとえば、OpenAIはChatGPTのプラグイン機能を2023年3月に公開しました。プラグイン機能は、ChatGPTの機能を拡張するための追加モジュールです。このプラグインを使用することで、最新情報にアクセスできるほか、「食べログ」といったサードパーティのサービスを利用することも可能。現在では500個以上のプラグインが利用できると言われており、プラグイン機能の拡充が今後も続けば、アシスタントとしての機能性が大きく高まっていくでしょう。

↑ChatGPTから「Plugin store」を見るとあらゆるプラグインが表示されます

 

また、Googleも同様の動きを明確化しています。2023年9月19日、GoogleはAIチャットボット「Bard」を、YouTube、Gmail、Googleドライブなどのサービスに統合したと発表しました。現時点では、対応言語は英語のみです。

 

Bardの開発責任者であるユーリ・ピンスキー氏によれば、Bardは新たに公開した「エクステンション」を通じてGmailやGoogleドキュメントなどのGoogleアプリに組み込まれ、ユーザーはこれらのアプリを使用しながらBardと共同作業できるようになったそうです。

 

Bardは一度の会話で複数のアプリにアクセス可能で、たとえば、旅行計画を立てる際には、Gmailで最適な日程を確認し、フライトとホテル情報を集め、Googleマップで空港までのルートを示し、YouTubeで旅行中のおすすめアクティビティの動画を表示できます。また、複数のユーザーがリンクを通じて同じBardのチャットを共有し、追加の質問をすることもできます。

 

このように、各社が生成AIを活用し、アシスタントとしてあらゆるツールとの連携を強化しています。筆者はこれを「エージェントAI」と呼んでいます。さまざまなツールを統合的に管理し、人間が生成AIと会話するだけでさまざまなツールを簡単に利用できる未来はそう遠くありません。

 

「ドラえもん」のようなエージェントAI、「ひみつ道具」のようなツールAI

ChatGPTなどに見られる、ユーザーがテキストボックスに質問を入力してAIが回答するような「テキスト生成AI」は、私たちの仕事のあり方を大きく変革する可能性を有しています。そこで今までのAIとの可能性の違いを理解するために、エージェントAIと「ツールAI」に分解して解説してみます。

 

生成AIの進歩は目覚ましいものがあり、このテクノロジーの進化にともない、エージェントAIとツールAIの区別と使い分けがますます重要になってきています。エージェントAIは、自律的な判断と行動をとることができ、多くの場合、複雑なタスクや問題解決を自ら実行できる能力を持っています。このタイプのAIは、ユーザーからの具体的な指示を必要とせず、一定の目標に向けて動くことができます。

 

一方、ツールAIは、人間の指示に従って特定のタスクを実行することを目的としており、その操作範囲は人間によって明確に制御されています。

 

より具体的に分けると、以下のような説明になります。

 

エージェントAI:

ドラえもんのように、エージェントAIは自律的に行動し、ユーザーの問題を解決するために独自の判断を下します。ドラえもんはのび太の問題を解決するためにさまざまな方法を考え、アクションを実行しますが、エージェントAIも同様に、状況を理解し、目標を達成するための最良のアクションを決定し、実行できます。

 

ツールAI:

エージェントAIがドラえもんであれば、ツールAIはひみつ道具のように、ユーザーの使い方(指示)に従って特定のタスクを実行します。ひみつ道具はのび太がそれを使う方法を知っている限り、彼の目的を支援します。ツールAIも同様に、ユーザーの指定したタスクを実行し、ユーザーの指示に従って動作します。

 

エージェントAIとツールAIの使い分けが、生産性向上のカギに

生成AIの進化は、ツールAIとしての進化の側面はもちろん、エージェントAIとしての進化の側面も持っています。

 

たとえばエージェントAIは、ユーザーの対話の中から自動的に目的を割り出し、さまざまなツールと連携しながらタスクをこなすスキルを持ち始めています。すでに、ChatGPTのAdvanced Data Analysisでは、ユーザーの目的に沿ってコードを実行し、複雑な分析業務などを代替できるまでに成長しています。

↑ChatGPTのAdvanced Data Analysisではたとえば、Excelにまとめた膨大なデータを読み込ませて分析が可能。分析結果から傾向を読み取るうえで助けになります

 

一方、ツールAIは、文章の要約や企画書の作成のような特定のタスクを助けることに優れています。プロンプトエンジニアリングが注目され、人間の入力によって、さまざまなタスクを代替してくれるひみつ道具的な側面を持っているのです。

 

今後は、これらのAIを適切に分別することで、効率と生産性を向上させることができ、同時にタスクの複雑さを管理しやすくなります。

 

エージェントAIとツールAIの使い分けは、個人や組織がAIテクノロジーをどのように活用するかを理解する上でも重要です。エージェントAIはより広範なタスクを自律的に実行することができるため、高度なプロジェクトや複雑な問題解決に適しています。一方、ツールAIは、より単純で狭域なタスクに焦点を絞り、人間の労力を節約し、効率を向上させることができます。

 

最終的に、エージェントAIとツールAIの使い分けは、今後のAIの進歩とともにさらに重要になります。それぞれのAIは異なる場面で最適であり、適切な使い分けによって、より効率的かつ効果的なタスク遂行が可能になり、結果として、個人や組織の生産性とイノベーションを向上させることができます。

『生成AI導入の教科書』

著者・編者:小澤健祐

発売日:2023年9月28日(木)

定価:1760円(税込)

ページ数:288

版型:四六判

ISBN/JAN:9784651203799

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本書の著者である小澤健祐さんは、日本最大のAI専門メディア「AINOW」の編集長を務め、株式会社ディップで生成AI活用推進プロジェクトを進めるほか、AI活用コミュニティ「SHIFT AI」のモデレーターとしても知られるなど、若手ながらAI業界で幅広く活躍するキーパーソンのひとりです。

 

そんな著者が、これまでのAIやDXの動向を振り返りつつ、生成AIの概要や企業のデジタル活用の現状から、本質的なDXのプロセス、生成AIを活用するためのプロンプトエンジニアリング、各社の活用事例まで網羅的に解説しています。