テクノロジーの波に淘汰されないために必要なこととは?(写真:ふじよ/PIXTA)

ChatGPTなどをはじめとする各種生成AI。その登場によって、わたしたちの仕事のあり方、さらには生き方までが、大きなパラダイムシフトを強いられる状況になった。

AIによるゲームチェンジが各業界で進行中のいま、“なんとなく「このまま」の働き方を維持しよう”というビジネスパーソンは、テクノロジーにどんどん淘汰されていく。

そんな悲惨な未来を回避するために必要な、最低限のテクノロジー教養や考え方、未来予測スキルを、テクノロジーや海外事情に精通した山本康正氏による最新刊『世界最高峰の研究者たちが予測する未来』より紹介する。

急速に発展した生成AI その理由をひもとく

なぜ、ここまで生成AIは急速に普及したのでしょうか?

利用がわかりやすく簡単。そして、いかにも機械的なこれまでのチャットボットとは異なり、本物の人間のように答えを返してくれる正確性、つまり性能の高さ。この2つが大きいと私は考えています。

これまでのAIは、モデルを最適化するためにパラメーターを設定するなど、カスタマイズが必要でした。パラメーター(変数)というのは各種数値や設定値であり、変更や調整、演算を行うには、Pythonなどのプログラミングスキルや、半導体の性能が必要でした。なお、パラメーターの数が多ければ多いほど、これまでは一般的に高機能でした。

つまりこれまでのAIは、高機能な半導体など技術が求められていました。AIの歴史にも重なりますが、ロジックは高度な発想があっても、クラウドコンピューターなど社会のリソースが追いついていないため、本来の機能を100%発揮できていなかったわけです。

ちなみに、日本がクラウドコンピューターで追いつけないので、量子コンピューターで勝とうという単純化された方針は熟考する必要があります。量子コンピューターと実際に使われる課題での相性がわかっていないからです。

これまでのAIは、プログラミングスキルが乏しい人が利用した場合、本来実現できる機能の10分の1以下しか使えていないといえるでしょう。その壁を、生成AIは取っ払いつつあるのです。

英語に限らず日本語でも対応しますし、言葉が多少足らなくても、それなりの答えが返ってくる。話し言葉、書き言葉どちらでも問題ありません。

逆に、「小学生にもわかる内容で100文字に要約して」など、具体的な指示を出せば、それこそ的確に、きちっと100文字でわかりやすい内容を答えてくれます。

アプリなどをダウンロードすることなく、スマホやパソコンのWebブラウザの入力窓に、テキストを書き込めばいい。利用開始に関しても、グーグルアカウントなどを持っている人はすぐに利用できる。このような消費者が使いやすい仕組みも、ここまで利用者が広まった理由の一つだと言えるでしょう。

ビッグ・テックも注目 ビジネスとも相性のよい生成AI

ユーザー数の増加に伴い、ビジネスや投資の対象としてもヒートアップしています。

そもそもオープンAIは、テスラやスペースXの創業者であるイーロン・マスク氏らが、非営利目的の組織として、2015年に設立したのが始まりです。

ところがマイクロソフトと手を組むようになり、2019年には10億ドルもの出資を受けるなどして、一気に開発スピードが高まります。当初とは少し違った方向性になったことを受けて、イーロン・マスク氏はオープンAI社と距離を取り始めますが、その後も同社は順調に成長を続けています。

一方で、Transformerを論文として発表したのは、グーグルとトロント大学の研究者だと先述しました。グーグルはご存じのように、検索サービスなどにより日々膨大なデータを活用していますから、AIの領域で活用できる分野が多い。Facebookを運営するメタも同様です。

対してマイクロソフトは、ビジネスソフトやサービスがビジネスの主軸ですから、Azureというクラウドを持っているとはいえ、彼らと比べるとAIに使える形のデータが比較的少なく、AI開発も弱かった。そこでオープンAIに目をつけたわけです。

もともと持っている強みである、マイクロソフト系のアプリケーションやサービスにAIを組み合わせることでシナジーを発揮し、他社より有利に立てるだろう。おそらく、そう考えたのでしょう。

その反面、ChatGPTは検索ツールとしても使えます。精度も比較的高い。そのため、グーグルの稼ぎ頭である検索サービスが使われなくなってしまうのではないかと、グーグルは危機感を覚え、株価も敏感に反応します。

同時に、検索領域における絶対王者のグーグルの牙城が崩れる。パラダイムシフトが起きるのではないか。このような思惑から、VCなどが積極的に生成AI関連のベンチャーに投資を行い、優秀な技術者が生成AIのベンチャーに転職するなどの動きが活発化しています。

世界でもAIへの投資は加速している

HAIの調査報告書(*1)によれば、AIへの投資は過去10年間で大幅に増加しており、2022年と2013年を比較すると、約18倍にもなるそうです。

特にアメリカは積極的で、中でも民間への投資が多く、その額474億ドル。医療・ヘルスケア分野が61億ドルでトップ、次いでデータ管理・処理・クラウドが59億ドル、フィンテックまわりが55億ドルと続きます。ちなみに投資額は、2位の中国の134億ドルの約3.5倍にもなります。

生成AIの基盤技術を開発したのはグーグルですから、黙っていません。BardというチャットAIを開発。当初は英語版のみの提供でしたが、毎年サンフランシスコで開催している開発者向けのイベントGoogle I/O 2023で、日本語も含め40以上の言語に対応させ、約180カ国に提供することが発表されました。

Transformerの開発に携わった研究者は複数名いることから、ChatGPTとBard以外の生成AIも多数あります。中でも私が注目しているのは、オープンAIの元メンバーが創業したアメリカの「Anthropic」です。同社は現在、グーグルと業務提携しています。

このようにビッグ・テックと呼ばれる企業、開発メンバーから派生したベンチャーなどが、生成AIの研究開発やサービスの提供に、しのぎを削っているのです。生成AIは旬でホットなテーマだと言えるでしょう。

Word・PowerPoint…すべてが自動化される未来

マイクロソフトの動きも活発です。同社は自社サービスへの実装、サービス提供をすでに発表しています。「Microsoft 365 Copilot」という機能は代表例です。

コパイロットは副操縦士という意味を持っており、同サービスはその名のとおり、AIがマイクロソフトの各種アプリケーション、WordやPowerPoint、Excel、Outlookに直接組み込まれ、各種アシスタントをしてくれます。

たとえばWordでは、文章や数値といったデータをAIに投げ、「これらのデータを元に、新しい企画を考えて」といった入力を行えば、そのままWord上に表示されます。

PowerPointでも同様です。プレゼンしたい内容のテキスト、使いたい画像などを投げれば、最適なテーマの設定なども含め、パワポ資料を生成してくれます。たとえば、家族の結婚式や、学校の卒業式で流すアニメーションなどで活用できるでしょう。

スライド枚数、使用したい画像などは、こちらで指定することができます。指定したフォルダやクラウドから、AIに選んでもらうことも可能です。

テキストのボリューム、トーン、音楽なども、テキストで指示を出すだけですぐに生成してくれ、気に入らなかった点を再びチャットする。そのキャッチボールを繰り返せば、望むアニメーションが短時間で制作できるようです。

ようです、と書いたのは本書を執筆している時点では、あくまでサービスの概要を発表した段階で、実際の利用時期や価格などについてはこれからだからです。

ただ言えることは、一刻も早く生成AIに関するサービスを打ち出し、多くのユーザーをマイクロソフトのサービスに囲い込みたい。このような意図は明確に伝わってきます。特に、将来のウィンドウズにも搭載されるということは、読者が使っているウィンドウズの情報を最大限活用した、補助機能が搭載される可能性が高いということです。

一方、すでに生成AIの機能が実装された例もあります。マイクロソフトが提供する検索サービス「Bing」です。同検索サービスにGPT-4が搭載され、すでに利用が可能です。

行き先、滞在日数をテキストで入力するだけで、世界各国の著名な観光スポットの案内をしてくれる。「GPT Travel Advisor」なるサービスも生まれています。

このように、爆発的な広まりを見せる生成AIにより、実際に社会やビジネスがどう変わっていくのか。ここからはより具体的な事例を紹介していきます。中でも私が特に注目しているのが、エンタメ業界です。

生成AIは絵本作家や漫画家の競合なのか

まずは、画像関連です。絵本や漫画といった、これまでは漫画家やイラストレーターといったプロの方々が創作していたコンテンツを、生成AIが創作するようになるでしょう。

すでに、関連サービスも多く登場しています。東京にある3DCGマンガ制作会社マンガチューバースタジオでは、生成AIを漫画制作時のツールとして活用。あくまで一部ということですが、国内としては初となる、生成AIにおけるオリジナルの『のほほキッチン』という作品を制作し、公開しています。

同作品で使われたのは、アメリカの研究所によって開発された「Midjourney」という生成AIです。テキストを入力することで画像、漫画のコマを生み出します。

Midjourneyを使った作品では、『サイバーパンク桃太郎』というSFコミックが、2023年の3月に新潮社から発売されており、アマゾンでのレビューもまずまずです。

Stable Diffusionを使った作品では、イラストレーターのあぶぶさんという方が、『暗い沼地の姫君』という絵本を発表しています。同作は、生成AIが生成したおよそ300枚の画像から30枚に絞り、ストーリー性を持たせ、セリフを加えるなど構成したもので、制作日数はおよそ5日とのこと。「絵本として成立している」など、読んだ人からは高い評価を得ています。

制作方法は、生成AIらしくシンプルです。参考となる画像を学ばせたり、表現したいストーリーをテキストで入力していくだけ。そうして出てきたストーリーや画像を、ユーザーが整えていく。この作業を繰り返すことで、質の高い作品となっていきます。

クリエイター界の未来を巨視するアドビ

今後、プロの漫画家や絵本作家が利用することを踏まえ、PhotoshopやIllustratorといったクリエイター御用達のプロツールを開発・提供しているアドビも、同様のサービスを展開しています。2023年の3月に発表された、「Adobe Firefly」です。
 
Adobe Fireflyは、先に登場した画像生成AIと同様、テキストを入力することで画像を生成するのはもちろん、タイトルなどに使用されるテキストエフェクトと呼ばれる、装飾文字の生成を行います。


クリエイターの腕の見せ所でもあった、色のトーンの調整や画像の縮小・拡張なども行ってくれます。なお同社は、さまざまなデジタルツールのAI基盤であるAdobe Senseiも提供しています。

おそらくは今後も、Adobe SenseiがアドビのAIプラットフォームとなり、アドビが提供するさまざまなツールに、生成AIの機能を実装していくことでしょう。マイクロソフトが自社製品に、生成AIの機能を付帯していくのと同じ流れです。

アドビが生成AIのビジネスに着手した当初、私はマイクロソフトがオープンAIに投資したように、他の生成AIのベンチャーと協業する、あるいは買収するような動きを見せると予測していました。

しかし、彼らは違いました。今後、生成AIのマーケットが拡大すると予想しているのでしょう。自社で内製し、自社の技術として育てていく道を一旦選択しました。アドビは以前からいち早くSaaS、サブスクの事業形態に着手するなど、未来を予測する力を持つ企業ですから、今後の動向にも注目しています。

(*1)
Maslej, N., Fattorini, L., Brynjolfsson, E., Etchemendy, J., Ligett,
K., Lyons, T., Manyika, J., Ngo, H., Niebles, J. C., Parli, V.,
Shoham, Y., Wald, R., Clark, J., & Perrault, R.(2023). The AI
Index 2023 Annual Report, AI Index Steering Committee, Institute
for Human-Centered AI, Stanford University, 2-19.

(山本 康正 : 京都大学客員教授)