新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した患者の中には、疲労感や息切れ、認知機能の低下といった症状が感染から数カ月以上も継続する「ロングCOVID」という後遺症に苦しむ人が多数いることが報告されています。 スウェーデン・カロリンスカ研究所の遺伝学者であるヒューゴ・ゼーバーグ氏らの研究チームが、ロングCOVIDを発症する確率が約1.6倍に高まるとされる遺伝子領域を発見したことを報告しています。

Genome-wide Association Study of Long COVID | medRxiv

https://doi.org/10.1101/2023.06.29.23292056



Gene linked to long COVID found in analysis of thousands of patients

https://doi.org/10.1038/d41586-023-02269-2

COVID-19の後遺症と考えられるロングCOVIDは、慢性的な疲労感や息切れ、関節痛、頭痛といった身体的症状に加え、「ブレイン・フォグ」と呼ばれる、頭に霧がかかったような感覚がして認知機能や集中力の低下といった症状があることが報告されています。

ゼーバーグ氏らの研究チームは、16カ国のロングCOVID患者合計6450人から収集したデータをもとに、ロングCOVIDの原因の解明や治療、予防に関する解析を行いました。

COVID-19の感染拡大以降、世界的にロングCOVIDの発症リスクに関するDNA配列の探索が行われており、これまでに免疫系やCOVID-19の細胞内侵入に関与する遺伝子が発見されています。



研究チームによる解析の結果、ロングCOVIDを発症する確率を約1.6倍に高める遺伝子領域が発見されました。「FOXP4」と呼ばれる遺伝子の付近に位置するその遺伝子領域は、肺やその他の臓器において活性化するとのこと。

これまでの研究では、FOXP4付近のDNAが変異すると、COVID-19の重症化リスクの上昇につながることが報告されており、またゼーバーグ氏らはこれまでにFOXP4の変異が肺がんのリスク上昇にも関連することを発見しています。

COVID-19が重症化するにつれてロングCOVIDの発症リスクが高まるとされていますが、研究チームによると、この遺伝子領域の変異はCOVID-19の重症リスクの上昇よりも、ロングCOVIDの発症リスクの上昇に特に関連していることが明らかになったとのこと。



一方でアメリカにあるセントジュード小児研究病院のチョンシャン・チェン氏は「今回ロングCOVIDに関する解析に用いられたデータセットの一部は、FOXP4の変異とCOVID-19の重症化との関連性を分析したデータと重複しています。そこでロングCOVIDの発症に関する詳細な調査のためには別のデータセットでも解析を重ね、肺がんなどの他の要因がFOXP4との関係に影響を与えた可能性を排除する必要があります」と指摘しています。

一方でチェン氏は「それでも、この研究は画期的なもので、今後の研究次第では、ロングCOVIDに関連する遺伝的危険因子の候補を拡大することが可能です」と述べています。



また、スコットランド・エディンバラ大学のクリス・ポンディング氏は「ロングCOVIDから回復しない理由には、一人一人さまざまな要因があります」と述べ、より大規模な研究を行うことを提案しています。さらにポンディング氏は「解析はおそらくかなり複雑なものになりますが、ロングCOVIDがもたらす健康的、社会的、経済的なリスクは膨大なものとなるため、解析を行うことは非常に重要です」と述べています。