子供が自分で使えるお金を手にした時、親はどんなことを教えるべきなのか。マーケティングコンサルタントの船ヶ山哲さんは「貯金の重要性ばかりを説いてはいけない。むしろ正しいお金の使い方を教えてあげるべきだ」という――。

※本稿は、船ヶ山哲『夏休みの1週間で308万円稼いだ小学生』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/veerasakpiyawatanakul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/veerasakpiyawatanakul

■日本の借金が膨れ上がる理由

ビジネスを大きくしていける人と一発稼いで終わってしまう人の差は、お金を流れとして捉えているか、それとも貯めることを目的としているか、になります。

貯めることがいけないというわけではありません。会社の中には、最低限の内部留保は必要ですし、キャッシュがなければ、いざという時に戦うことができません。

多少のキャッシュを手元に置くのはありですが、その預金額を上げていくのは、経営者としては失格です。

ビジネスは、経済の中心です。

その中心が貯めることに走れば、経済は滞り、動きを止めることになります。

だから「経済は回る」と表現されることはあっても、「経済を貯める」と言う人はいないのです。

そんなことをすれば、さらに国は借金を増やすことになります。

今や日本の借金は、1200兆円と言われ、国民一人当たり1000万円の負債を背負っています。

大きすぎて、理解の範疇を超えますが、それでも日本経済は破綻しないのかというと、個人で貯め込んだお金が、それ以上あるからです。その金額2000兆円です。

■借金以上の膨大な国民の預貯金が日本を支えている

日本銀行の発表によると、年々増え続けていると言います。

それが故に、日本は危機的状況にあると言われつつも崩壊しないのは、国民の預貯金が下支えになっているからです。

「日本の借金は、1200兆円を超えたんだって」
「日本は潰れるかな?」
「潰れないよ。みんなのお金があるから」
「そうなんだ。でも、どうしてみんなのお金があるのに、借金はなくならないの?」
「みんなが貯め込むからだよ」
「貯めると、借金はなくならないの?」
「そうだよ」
「考えてみて、レムとリラとパパの3人が、それぞれ10万円ずつ持っていたとするでしょ」
「レムは、パパとリラのお店に、それぞれ5万円使って。パパは、リラのお店に5万円使ったとするよ」
「今手元にあるお金はいくら?」
「パパは10万円、リラは20万円、僕はゼロ」
「でもリラがお金を貯めて、この先、使わなかったら?」
「パパの10万円だけになるね」
「レムは、お金を使わなくていいの?」
「嫌。僕も使いたい」

■必要以上に貯金することの弊害

人の欲は永遠です。手元にお金がないからといって、欲が消えるわけではありません。

なければないなりに策を考え、手元に用意すればいいことです。

そうすることで、新たに芽生えた欲は満たされ、経済に循環を起こすことができます。

その具体的な方法とは、信用を担保に持っている人から借りるというものです。

「お金を持ってないのに、どうやって使うの?」
「パパ10万円貸して」
「いいよ。そうなると、パパのお金がレムに移動することになるから、パパはゼロ、リラは20万円、レムは10万円になるよね」
「その10万円を使って、お買い物して」
「パパのお店で10万円使う」
「そうなると、またパパは10万円、リラは20万円、レムはゼロになるけど、パパに10万円借りてるから、マイナス10万円になるね」
「またパパから10万円借りるの? 次はリラから借りれば?」
「リラがお金を使わないからだよ。もお」
「リラちょっと来て」
「なに?」
「リラがお金を使わないから、僕が10万円の借金になったでしょ」
「なんのこと?」
「リラもお金使って」
「なんで、ヤダ」

このやり取りを見て気づいた人も多いかもしれませんが、本人は悪気があって貯金しているわけではありませんし、意図的に国に借金を追わせるつもりもありません。

それどころか、日本国民のほとんどは、まさか自分たちの行動がマイナスを作り出していることにすら気づけていないのです。

まさに、リラが口にした「何のこと?」状態と言えます。

だから、多くの人は、日本の借金に興味はありませんし、国が借金を抱えていることを知らない人もいるほどです。

■「お金を刷ればいい」という単純なものではない

このまま借金に背を向けても減っていくわけではありませんし、むしろ借金が足かせとなり、私たちの生活を圧迫する要因となることを考えると放置することもできません。

そこで、多くの人はお金を刷ることで帳尻を合わせることを考えるわけですが、そんなに簡単な問題ではありません。

「じゃパパ。リラはお金を使わないっていうから、お金を刷ったらどう?」
「それはダメだよ」
「なんで?」
「お金を増やすと、全体のお金の価値が下がるから増やせないんだ」
「どういうこと?」
「今は3人のお金を足したら、全部で30万円あるでしょ。それを10万円足して40万円にすると、お金の価値が下がるのわかる?」
「わからない」
「例えるなら、パソコンが10個あるとするでしょ。全体で30万円お金があるときはひとつ3万円で買えるよね。でも全体のお金が40万円になると、ひとつ4万円出さないと、買えないのわかる?」
「わかるよ。それがお金の価値が下がるってことか、嫌だね」
「だから、お金は簡単に刷れないんだ」
「それじゃリラが使うしかない。リラお金を使いなさい」
「なんでリラなの?」
「リラのところに20万円あるでしょ。リラが使わないから僕が借金する羽目になったんだから、使ってよ」
「わかったよ」

これはあくまで個人の話をベースに事例を置き換え話しましたが、企業が貯金に走れば、日本経済は一気に凍りつき世界に対抗することができなくなります。

これは、規模に関係なくビジネスを行っている者の役目です。

■貯金するよりも自分の発展につながるお金の使い方を教える

我々は、経済の中にあるひとつのパーツとして存在しています。

そのひとつが稼働を止めてしまえば、すべてに影響を与えます。

会社を作った以上、自分だけ貯めに走れば、腐食の根源を作ることになります。

自分を中心に経済は滞り、お金の循環がなされぬまま腐敗し、機能停止するまで周りに迷惑をかけることになります。

そんな会社が、社会を良くすることはできません。企業は地域の見本になる必要があります。

そこに働く人、商品、関わるものすべてが企業の一部となり見本になることで、会社は発展を遂げます。

そのベースとなる企業が貯金を行えば、そこに勤める社員が貯金するのは、いたしかたありません。

企業そのものの考えが先行投資に対し積極的になれば、会社は活性化し、物凄い速度で循環を始めることになります。

このことはレムにも伝え、貯金するのではなく、次の自分の発展に使うように言っています。

「お金は必要以上に貯めたらダメだよ。お金を増やす機会を捨てることになるからね。お金を使うことで、また新しいお金が入ってくる。この循環の考えを絶対に忘れないで」
「うん。わかった」

■単なる欲を満たすものはただの消費

「そう言えばパパ。テスラの株を最初に100万円買った人は、12年で3億円を超えたんだって」
「それは凄いね」
「これからの時代、新しい視点を持った会社が、次々と出てくるから世界中をチェックしておくといいね」
「最近は、ロボットも面白いよ」
「どんな話?」

船ヶ山哲『夏休みの1週間で308万円稼いだ小学生』(徳間書店)

当然、レムは今回の取り組みでも、一円たりとも貯めようなどとは考えていませんでした。貯めれば税金を持っていかれるだけですし、貯める会社に関しては、国は強制的に循環を促してきます。

そうなればレムの未来に100%の可能性をかけることはできなくなりますので、今欲しいものすべてを紙に書き出し、稼ぐ前に、使い先を決めさせることにしました。

「今回、レムは何にお金を使う?」
「まずは寄付を行って、残ったお金で最新鋭のパソコンを自分で作りたい。でも全部揃えたら高いかな?」
「大丈夫だよ。全部のパーツが買えるように、REM’sパック(※)をたくさん売ればいいから」
「そうだね」

もちろん、この時の視点は、次にお金を生み出すものというのは、言うまでもありません。単なる欲を満たすものであれば、それは消費となり、次なる売り上げに繋げることはできなくなります。

編註:プログラミングが得意なレムとビジネスプロデューサーの著者が一緒に考えたITに特化したパッケージングサービス。

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船ヶ山 哲(ふながやま・てつ)
マーケティングコンサルタント
心理を活用したマーケティングを得意とし、人脈なし、コネなし、実績なしの状態から、起業後、これまで世界に1000社以上のクライアントを獲得。プライベートでは、子供の教育を最優先に考え、カナダに在住。その卓越したマーケティング手法は、数々の雑誌やメディアに取り上げられる。テレビ神奈川、FMヨコハマのメインパーソナリティーをつとめるほか、フォーブス、ニューズウィークなど経済誌に掲載。著書多数。
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(マーケティングコンサルタント 船ヶ山 哲)