土星の衛星「エンケラドス(エンセラダス、エンケラドゥスとも)」に生命の必須元素である「リン」が存在することが判明しました。研究の一端を担った東京工業大学は、今回の発見により宇宙に「地球の生き物に類似した生命」が存在する可能性が広がったとしています。

Detection of phosphates originating from Enceladus’s ocean | Nature

https://doi.org/10.1038/s41586-023-05987-9



土星衛星エンセラダスの海に生命必須元素リンが異常濃集 生命誕生の鍵を宇宙で突き止める | 東工大ニュース | 東京工業大学

https://www.titech.ac.jp/news/2023/066961



New Study Proves Existence of Key Element for Life in the Outer Solar System • Freie Universität Berlin

https://www.fu-berlin.de/en/presse/informationen/fup/2023/fup_23_137-saturnmond-enceladus-ozean-phosphate/index.html

Key building block for life found at Saturn’s moon Enceladus | Southwest Research Institute

https://www.swri.org/press-release/key-building-block-life-found-saturn-moon-enceladus

エンケラドスは「液体の水」「有機物」「エネルギー」といった生命の必要条件を備えた天体として多くの研究者から注目されています。加えて、2015年には日本の研究チームがエンケラドスの海底に熱水噴出孔が存在していることを発見。熱水噴出孔は地球における生命の起源の有力候補とされていることから、「エンケラドスにも生命が存在する」という期待が高まっていました。



新たに、ドイツ・ベルリン自由大学のフランク・ポストバーグ教授を中心とする研究チームはNASAのカッシーニ探査機が収集したデータを分析し、エンケラドスの地下海から噴出されるプルーム粒子の中にリン酸が含まれることを発見。さらに、プルーム粒子に含まれるリン酸の割合をもとにエンケラドスの地下海におけるリン酸濃度が1〜20ミリモル毎リットルであることを算出しました。地球の海水のリン酸濃度は500ナノモル毎リットルであることから、エンケラドスの地下海にはリン酸が地球の数千〜数万倍高い濃度で含まれていることになります。

エンケラドスの地下海にリン酸が高濃度で含まれる要因を突き止めるべく、東京工業大学の関根康人教授が率いる研究チームはエンケラドスの海水を疑似的に再現し、太陽系初期の組成を残すとされる炭素質コンドライトと模擬エンケラドス海水の反応実験を実施しました。その結果、「アルカリ性かつ高炭酸濃度」というエンケラドスの地下海水の特徴がリン酸濃縮の要因となっていることが明らかになりました。

東京工業大学によると、「アルカリ性かつ高炭酸濃度」という特徴はエンケラドス以外の太陽系外側の氷天体の地下海で一般的に見られる特徴とのこと。このため、リン酸の濃縮はエンケラドスだけでなく「エンケラドス以外の土星の衛星」「天王星の衛星」「海王星の衛星」「冥王星」「リュウグウ」などの天体でも発生していると予想されています。

東京工業大学は、今回の研究結果について「宇宙における生命の存在可能性、特に地球生命に物質的に類似した生命の可能性を広げるものである」と評しています。