Hさんご夫妻の生活はサウナ小屋でどう変わったのか(写真:『小屋の時間』

サウナブームが続き、多くのサウナが賑わいを見せている。本格的なサウナも次々にオープンしているなか、よりパーソナルなサウナを求めて、自分たちだけのサウナ小屋をDIYで建てる人がじわじわと増えている。

「マイ・サウナ小屋」というと贅沢なものという印象があるかもしれないが、熱気を溜めることができる箱をつくればこと足りるので、DIY初心者がセルフビルドしている例が多いのも特徴だ。

そんなDIYしたサウナ小屋を、ムック『小屋を建てる』『小屋の時間』から紹介する。

庭に夫婦でDIYした「ととのいトライアングル」

「スーパー銭湯に行くと必ずサウナに入るほど、サウナには特別感を持っていました」というHさんご夫婦は、新型コロナウイルス流行と出産でスーパー銭湯に足が遠のくなかで、「自宅にサウナがほしいなー」という妻のつぶやきから、サウナ小屋をDIYすることに。


Hさんご夫妻の新居の庭に建てられたサウナ小屋。デッキの奥には浴室があり、すぐに冷水浴ができる(写真:『小屋の時間』)

まずサウナ小屋の構造についてYouTubeなどで徹底的に研究し、小屋の立面図、平面図、部材の展開図などを一冊のノートにまとめていった。


(写真:Hさんの小屋の計画ノート(写真:『小屋の時間』)

建設作業が始まると、基礎の水平をとるのに苦労したり、外国製の金具の寸法が日本の材に合わなかったり、薪ストーブの試運転で温度が上がりすぎたりといったハプニングもあったが、ご覧のとおりの完成度に仕上がった。


天井をカーブさせて、熱気が回るように工夫した室内。壁はヒノキ、天井はスギが使われ、木の香りが楽しめる(写真:『小屋の時間』)

サウナ小屋が完成してから、Hさんの生活はちょっとだけ変わった。

「出かけなくてもふたりでサウナが楽しめるようになったので、仕事をしているときも『今日は絶対サウナに入るぞ』と思うとがんばれますね」

「サウナ→水風呂→外気浴」というサイクルを指す「ととのいトライアングル」が出来上がり、「ととのう」というサウナ用語の意味がわかるようになったのだとか。

サウナ好きの友人たちにもこのサウナ小屋のことが広く知れわたり、遠路はるばる「サウナをいただきに来る」人も増えたそうだ。

コミュニティの真ん中にDIYしたみんなが集まるサウナ小屋

統一感のある住宅が点在する広大な敷地のまんなかに、MさんたちがDIYした板張りの素朴なサウナ小屋がポツンと佇んでいる。


5組の家族が共同で購入した土地のまんなかにDIYしたサウナ小屋(写真:『小屋の時間』)/Mさん)

この土地は、5組の家族が共同で土地を購入し、それぞれが、家や週末住宅を建設した。全体の土地を6分割して、まんなかの6分の1を「みんなで集まれる場所」として共有地にして、月に1度の共同作業の日に、サウナ小屋を建てた。

その特徴はとてもシンプルで建てやすい構造ということ。


Mさんのサウナ小屋。木のフレームに板張りの簡素な構造だが、サウナとしての機能は十分。右に置かれた樽に水を張り、冷水浴を行う(写真:『小屋の時間』)

Mさんが「簡易的」というつくりは、細い木材を柱や梁とし、アカマツの板を外に張り付けたもので、だれにでも建てやすい。実際にMさんたちは、ほぼ1日で建ててしまったという。


サウナ小屋のフレーム。これに板を張って強度を確保した((写真:『小屋の時間』/Mさん)

断熱性を確保するために採用したのは、引っ越しや運送などで使う、養生用のポリエステル毛布。これを室内側の壁と天井を包むように取り付けた。中の薪ストーブに火を入れてしばらくすれば、室内は文字通りサウナ状態に。


毛布を張り巡らせたサウナ小屋内部。薪ストーブの周りは不燃材の軽カル板を張って安全性を確保した(写真:『小屋の時間』)

サウナ小屋は、家族が集まるときや来客時など、ことあるごとに利用されている。コミュニティの核となる共有地の、さらに中核のような存在だ。

「子どもたちも火を入れると、喜んで入ってきます。あまり出入りがあると、なかなか暖まらないんですけどね」とMさんは笑う。

屋根と壁が一体になった三角形のサウナ小屋


森に佇む三角形のサウナ小屋。塗装されておらず、これからの木材の色の変化も楽しみ(写真:『小屋の時間』)

高原の別荘地の森に佇む三角形のサウナ小屋は、若手の建築家・能作淳平さんが、「初めて工具を扱う人が集まってもDIYできる」ことを前提に設計した。

冬は寒さが厳しく、雪が多く降る場所なので、屋根に雪が積もらないように急勾配の屋根にすることを決め、屋根と壁が一体になるようにデザイン。建築の構造を専門に研究する東京都市大学の落合陽さんに協力を仰ぎ、部材の種類から材料同士の留め付け方まで一緒に検討していった。

鉄筋コンクリートのベタ基礎、建物の水切りは業者に依頼したが、建方は、落合研究室の学生たちが集まって一気に行い、仕上げやデッキ工事も含めて、木造部分の製作は3日弱で完了させることができたという。


サウナの内部。スギ材で制作したベンチは外に持ち出せ、コンクリート床は水洗いできる(写真:『小屋の時間』)

三角形のサウナ小屋の内部は、三角形の窓からの光で、神秘的な雰囲気となっている。

サウナで十分に体を温めた後は、張り出したデッキに腰掛け、斜め壁に身を委ねて見上げれば、木立と空が広がる景色と一体となり、最高の外気浴ができる。


屋根の勾配が、背を預けてくつろぐのにちょうどいい角度になっている。右が設計した能作淳平さん(写真:『小屋の時間』)

DIYでお財布にも優しいサウナ小屋


DIYで建てた「マイサウナ小屋」は、少しずつ増えてきている。本格的なつくりのものから簡易なものまでさまざまだが、DIYすることで、お財布にも優しくサウナ小屋を手に入れることができる。

「マイ・サウナ小屋」で使われている熱源は薪ストーブが多い。本格的なサウナストーブもあるが、この記事で紹介しているように、ホームセンターで購入できる安価な薪ストーブに石を載せてロウリュできるようする方法が気軽だ。

サウナ小屋は、気密性を高めすぎると、一酸化炭素中毒が怖いので、ある程度ラフにつくるというのも考え方。一酸化炭素検知器を付けておくと安心だ。

(写真/林 紘輝、星 亘)

(後藤 聡)
(加藤 純)