ISISによるテロ犠牲者の家族が、プラットフォームがISISを助けているとしてGoogleを訴えていた「Google・ゴンザレス裁判」で、最高裁判所は原告の訴えを退けました。この裁判は、プロバイダーの免責について定められた通信品位法第230条が争点となっており、Google側は「法律が覆るとインターネットが壊れかねない」と懸念を示していました。

Supreme Court Leaves 230 Alone For Now, But Justice Thomas Gives A Pretty Good Explanation For Why It Exists In The First Place | Techdirt

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裁判を起こしたのは、2015年にISISがパリで起こしたテロにより亡くなった23歳のアメリカ人、ノヘミ・ゴンザレス氏の両親と兄弟です。

このテロでは130人の犠牲者が出ており、原告は、ISISとその支持者がYouTubeを利用していたことを理由に、Googleがテロ攻撃に対して直接的・二次的な責任を負うべきと主張していました。

アメリカの通信品位法第230条で、プロバイダーはユーザーが発信する情報に対して原則として責任を負わず、有害なコンテンツについても削除等の対応を誠実かつ任意に行えば責任を問われないことが定められています。

Googleは、おすすめのアルゴリズムが第230条適用外になれば同種のサービスの質が低下するほか、もし第230条を改定することになればネットそのものが変容してしまうと懸念を表明していました。

裁判の結果次第で「インターネットが壊れかねない」とGoogle、ユーザー投稿に関するメディア側の責任を免除した「通信品位法第230条」をめぐる最高裁の裁判で - GIGAZINE



この裁判について、最高裁判所は全会一致で差し戻しを決定しました。この中で、判事は巡回裁判所に対して「「『Twitter・タアムネ裁判』の判決を踏まえて再検討するように」と記しています。

「Twitter・タアムネ裁判」は、2017年にイスタンブールで起きたISISによる攻撃で亡くなったヨルダン国民ナウラス・アラッサフさんの遺族が、「テロリストのコンテンツを管理できていなかった」としてTwitter、Google、Facebookを相手取り起こした裁判。

地方裁判所では原告勝訴の判決が出ましたが、Twitterは判決が反テロ法の範囲を不当に拡大したものだとして第9巡回区控訴裁判所に控訴。控訴審で、第9巡回区控訴裁判所は通信品位法第230条による保護を考慮せず、Twitter、Google、Facebookはテロ行為幇助・教唆の責任を負う可能性があると認定しました。

Twitterによる控訴を受けて、2023年2月22日から最高裁判所で裁判が行われ、5月18日、クラレンス・トーマス判事は全会一致意見として、被告の企業がISISによる攻撃の実行を幇助・教唆したと証明するには申し立てが不十分であると認定。対テロ法に基づいて原告が行った主張は認められないと結論づけ、通信品位法第230条に関しては裁定を行いませんでした。

ニュースサイトのTechdirtは、「判決の中でコモン・ローの幇助について述べた部分が、基本的に通信品位法第230条が存在する理由をすべて説明していることに驚きを覚えます」と記しています。

トーマス判事は「幇助」について、以下のように述べました。



「重要なのは、犯罪や不法行為の実行において、『幇助』の概念はかつてはなかったということです。なぜなら『幇助』と『教唆』は、直接的な援助を行った者だけでなく、罪のない傍観者にも及ぶ可能性があるからです。たとえば、あらゆる種類の援助が責任を生むとすると、強盗を受動的に見ていた人は「警察を呼ばなかった」として強盗の幇助にあたるといえます。しかし、我々の法制度は一般に、単なる不注意、不作為、過失に対して責任を課すことはありません。何らかの独立した行動義務がある場合には不作為が罪に問われることもありますが、法律は一般的に、救助の義務を課すことはありません」

「このような理由から、裁判所は幇助の責任を、本当に罪の重い行為に限定する必要性を長年認識してきました。たとえば『不法行為の実行に立ち会ったすべての者が、他人の不法行為に反対したり、異議を表明したりしなかった』という理由だけで、主体として責任を負うわけではない裁判所は注意喚起してきました。反テロ法第2333条のdの2項にある『幇助および教唆』という文言は、他の箇所と同様に、他人の不法行為への意識的・自発的かつ有責な参加を指します」

その上で、プラットフォームが悪事に利用される可能性は確かにあるものの、同じことはインターネットやスマートフォンにも該当することを指摘。具体的に「電話会議機能やビデオ通話機能によって、違法薬物の取引が容易になったとしても、サービス提供者が幇助・教唆したとは通常は言われないと考えられる」と述べています。これは、通信品位法第230条の「プロバイダーはユーザーの発信する情報に原則として責任を負わない」という考え方の根本です。

また、「Google・ゴンザレス裁判」で原告が主張していたアルゴリズムの件についても、あくまでインフラストラクチャの一部でありコンテンツの性質にとらわれるものではなく、一部のISISのコンテンツを一部のユーザーにおすすめしたとしても、受動的援助であって積極的な教唆ではないと述べました。

この判決について、電子フロンティア財団は「インターネットは最高裁判所による検閲を回避した」と題した記事を発表。最高裁判所が通信品位法第230条の解釈を回避したことを「大きな救い」と表現した一方で、議会で第230条を弱体化し仲介責任を拡大する法案が検討されているとして、警戒を続けています。

The Internet Dodges Censorship by the Supreme Court | Electronic Frontier Foundation

https://www.eff.org/deeplinks/2023/05/internet-dodges-censorship-supreme-court