UDトラックスが新型トラクター「クオン GW 6x4」を発表。さまざまな新機能満載で、ドライバーに対する時間外労働時間の上限規制が適応される“2024年問題”にもしっかり対応しているとか。どんな新車なのか取材してきました。

13年ぶり! UDのフラグシップモデル

 2023年4月4日、国内トラックメーカーであるUDトラックスが新しいトラクター「クオン GW 6x4(シックス・バイ・フォー)」を発表。それに合わせてメディア向けの発表会/試乗会が行われました。

「クオン」はUDトラックスが発売しているトラックブランドで、その語源は遠い昔や永遠を意味する「久遠」(くおん)に由来します。

 モデルは通常の荷台式トラックの単車系と、トレーラーを牽引するトラクター系の2種類をラインナップしていますが、今回、発表されたニューモデルはトラクター系のフラグシップモデルとなる「GW 6x4」です。重量物輸送に使われるため高出力・高トルクを備えた大型トラクターで、このモデルで新型が発表されたのは13年ぶりのことだといいます。


発表会でメディアに初公開された「クオン GW 6x4」。フラグシップモデルとして外装部分もこだわっており、フロントグリルはクロームメッキの専用色となっている(布留川 司撮影)。

 発表会で挨拶したUDトラックスの丸山浩二代表取締役社長は「今、輸送業界は大変厳しい環境下にあります。貨物の個数は増加し、輸送ニーズが多様化する一方で、ドライバーの不足が深刻化しています。加えて、時間外労働時間の上限規制が適応されるいわゆる2024年問題にも直面しています。こうした深刻な物流課題に対して、私たちUDトラックスは何ができるのだろう、どう貢献できるだろうと常々考えております」と、まず現在のトラック・運送業界が置かれた厳しい状況と、それに対する自社の取り組みを説明。

 そして、その対応として「(UDトラックスが)提供するソリューションの根底にあるのはドライバーのことを常に考え、その一歩先をいくことです」と解説していました。

 今回発表された「クオン GW 6x4」も、そのような同社の思想に沿って開発されているとのことで、純粋なトラクターとしての性能向上だけでなく、ドライバーの負担軽減や安全性、運転しやすさの向上などを同時に目指したと述べていました。

 今回のモデルでは、「走る・曲がる・止まる・つなぐ」の4つのコンセプトがあり、それぞれにUDトラックスの新技術や新要素が盛り込まれているそうです。

ビックリするほどの疲労軽減「UDアクティブステアリング」

 まずは「走る」の部分。クルマにとって一番重要な部分であるエンジンは、「GH13」という新型を搭載。排気量13リッターの直列6気筒水冷ターボ・ディーゼルで最高出力・最大トルクは530馬力/2346Nmを確保しています。なお、このほかに出力490馬力と同470馬力のバリエーションも用意されています。

 このエンジンは、トレーラーとしての能力の目安となる連結車両総重量(GCW)60t以上を確保しており、大型トレーラーで行われる重量物輸送も、安全かつ確実に行える能力を十分維持しています。

 また、純粋なパワーユニットだけでなく、それを駆動力に変えるトランスミッションも新型となる「ESCOT-VII(エスコット・セブン)」を採用。この最新モデルは12段変速の電子制御式オートマチックトランスミッションで、複雑なシフトチェンジ操作が不要になりました。これによるドライバーの疲労軽減はもちろん、走行時のスムーズな加減速によって輸送中の積み荷への負荷を減らし、さらに低燃費化による経済的なメリットも併せ持つそうです。


発表会で挨拶したUDトラックスの丸山浩二代表取締役社長。挨拶では、新型モデルの開発経緯として、トラック業界の現状と、それらへの自社の取り組みを説明(布留川 司撮影)。

「曲がる」はドライバーフレンドリーな思想を特に感じる部分です。同社では2021年の投入モデルから「UDアクティブステアリング」という新機能を採用。この「クオン GW 6x4」でもそれが標準装着されています。

「UDアクティブステアリング」は。従来の油圧式ステアリングギアの上部に電気モーターを装着した運転支援機能です。電気モーターの内部には電子制御ユニット(ECU)が組み込まれており、各種センサーから1秒間に2000回の頻度で運転環境を感知。これによって走行方向やドライバーの運転意図を判断してステアリングの重さにトルクを加えて、適切で快適なステアリング環境を提供してくれます。

 たとえば、ハンドル操作時の重さは、走行速度に応じて変化するようになっています。低速時はバックや右左折を識別すると軽くなる一方、スピードを上げ高速走行に入ると安定性を重視して適度に重くなります。

大容量流体式リターダーでブレーキ操作を最小限に

 また、地面が凸凹している場所では、走行時に前輪の意図しない動きを「UDアクティブステアリング」が自動補正して、ハンドルの振動や動きを軽減。さらに橋や高速道路などで横風を受けた場合にも、タイヤの微細な動きを感知して同様に自動補正を行ってくれるのだとか。

 この「UDアクティブステアリング」搭載については、メーカーであるUDトラックスも「だれでも驚くほど扱いやすく。疲れにくく。」とアピールするほど。ベテランでなくても容易にトレーラーの運転が可能になり、経験の浅いドライバーでも一定レベルの運転ができるそうです。このように人手不足が叫ばれて久しい運送業界において、大小さまざまなプラスの影響を与えるものといえるでしょう。


試乗会でデモ走行する「クオン GW 6x4」。緩やかな勾配をリターダーで減速しながら下っている(布留川 司撮影)。

「止まる」はトラックの安全性に直結したブレーキ・制動力です。「クオン GW 6x4」ではブレーキ装置としてディスクブレーキのほかに、補助ブレーキとして大容量流体式リターダーとエンジンブレーキも装備。重量物輸送を行う大型トレーラーでも確実でスムーズな制動力を実現しています。

 坂道等の勾配を下る時や減速時に使用するリターダーは、エンジンから車軸に動力を伝達するプロペラシャフトに負荷を与えて減速します。本車のリターダーのブレーキトルクはエンジンブレーキの2倍以上(ブレーキトルク3250Nm)にもなり、その効果も4段階のレバー操作でドライバーが調節できます。

 これによりドライバーは最小限のブレーキ操作で車速を維持することができ、トラックの安全運行を実現するだけでなく、頻繁なブレーキペダル操作からも解放されて運転時の負担軽減にもつながっています。

揺れ抑える新型エアサスで積み荷にも優しく

「つなぐ」は新型モデルの一部のクラス(第5輪荷重16.0tと18.0t)に国内トラックメーカーとして初めてエアサスペンションを採用したことです。

 従来型サスペンションよりも揺れを抑える効果があり、走行時の積み荷への影響低減や、高い悪路走破性を実現。また、積み下ろし後の走行では乗り心地にも影響して、ドライバーや乗員の快適性にも繋がります。エアサスペンションの効果については、普段はトラクターに乗らない一般人でもその効果が体感できるレベルであり、新型モデルにおいてコンセプトとしてアピールするのはその効果に対するメーカーの自信の表れともいえるでしょう。

 以前から人材不足や長時間労働が問題になっていたトラック業界。その解決策は複雑であり簡単なことではありませんが、その第一歩として、ドライバーと関係企業が健全に活動を続けるには労働環境の改善が急務となっています。

 今回の「クオン GW 6x4」のコンセプトやアピールポイントは、運転する人々への配慮された部分が多く、メーカーとしてのドライバーに歩み寄った姿勢を感じさせてくれました。また、ビジネス的に見ても、業界に労働環境改善というニーズがあることは、今後のトラック業界の変化にとっても良い兆候ともいえるかもしれません。