「40、50発の力がある」 日ハムに“大化け”候補…OBが断言「清宮より打てる」
ガラポンのなくなった春季キャンプ…競争はあっても「レギュラーがいない」
日本ハムの新庄剛志監督は就任2年目を迎える。今季は最下位脱出どころか「日本一しか目指しません」と公言し、昨季と正反対の目標を掲げてのシーズンとなる。かつて“ミスター・ファイターズ”と呼ばれ、通算2012安打、287本塁打を記録した田中幸雄氏は「戦力的には厳しい」とリーグ最下位予想するものの「OBとしては優勝争いしてほしい」と一変を期待する気持ちも強い。自身の予想を覆すために、活躍が不可欠な3人の選手を指名してくれた。
田中氏は日本ハムの戦力を「投手はそこそこ揃っている。ただ、野手が……。まだまだ力不足ですよね」と分析している。実際、昨季のチーム463得点はパ・リーグ最下位だった。今春のキャンプでも、数人で定位置を争っているポジションばかりが目についたという。「同じタイプの選手が並んでいて、競争できているなとは思います。ただそれは、レギュラーがいないということ」。新庄監督が口にしている固定メンバーでの戦いには、まだ時間が必要だとみている。
昨春のキャンプでは、スタメンを懸賞のような「ガラポン」で決めてみたり、本職ではないポジションを守る選手が続出したりと奇抜な采配が話題を集めた。ただ今春、指揮官の姿はほとんど表に出て来なかった。オープン戦のスタメンを見ても、上位に出塁率の高い選手を置き、中軸には長打で返せる選手という“セオリー”に沿った日が多い。
指揮官の変化を田中氏は「昨年の打順は、4番のタイプじゃない選手を4番に置いたりしていたけど、今年は選手の特徴を把握した上での打順ということじゃないんですかね。1年やった中で考えも変わって」と経験が産んだものと見ている。狙いもはっきりしている。「固定したほうが、役割分担も自然とできていいと思うんですよ。点を取れている時はいじらないほうがいい」。点を取れるチーム、勝てるチームはそうなっていくものだという。
昨季はチームの核となる選手をつくるべく、力が足りていないことを承知で若い選手を使い続ける姿があった。清宮幸太郎内野手や野村佑希内野手はその筆頭だ。そして今季、田中氏が「どうしても使いたいんじゃないですか。そのためにポジションを探している」と見ている選手がいる。一塁守備にも挑戦している万波中正外野手だ。田中氏は「清宮よりも本塁打を打てるかもしれない。それこそ40、50発もありえる」と注目している。
万波がお手本にすべき打撃がWBCに「バットを最後まで操作できるから当てられる」
万波は昨季、100試合に出場して14本塁打。ただ打率は.203に終わった。「長打力があるから、たくさんでていれば甘く打てるボールもありますよ」。清宮と同じく、長打力という強みをさらに生かすには、確実性を上げなければならない。「外のボールをどれだけ引き付けて、強く打てるか。そうするともっと変化球にも対応できると思うんです」と指摘する。
田中氏は万波と初めて会った時に「スライダーが(バットに)全然当たりません……」と相談されたという。そして「練習すれば打てるようになるよ」と返した。「僕も(プロに)入った時そうでした。スライダーが真っ直ぐにしか見えなくて、打ちに行ったら曲がって行くんだから、当たるわけがない。でもスイングスピードが上がってきたらボールを引き付けられて、自然と打てるようになった。もちろんそのための練習はしましたがね」。
現状は、変化球で攻められた時に「体勢が崩れる。特に万波は崩れ方が激しい」のが弱点だ。克服には、突き詰めればスイングスピードをさらに上げ、ボールをギリギリまで見てさばくことが必要になる。身体能力に優れた選手だが、体のキレやプレースピードはまだ上げられるという。「昨年に比べたら対応能力も少しは上がっているはず。どれだけボールを引き付けて、強く打てるか。前に出されるのではなく、右足の前くらいで打てるようになれば」と、期待をかけている。
また、絶好のお手本もいる。巨人の主砲で、日本代表「侍ジャパン」の一員でもある岡本和真だ。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のイタリア戦で、逃げていくスライダーをうまく拾って本塁打とした場面を見た田中氏は「あの打撃を万波も出来るようになるといいと思うんですよ。少し泳いでいたんですけど、バットを最後まで操作できるから当てることができる。そしてパワーがあるから、スタンドまで運べる」。万波には岡本以上のパワーがある。決して不可能ではないというのだ。
今季、日本ハムの外野を見た時、昨季初の首位打者を獲得した松本剛外野手の左翼は「よほどのことがない限り動かないでしょう」と見ている。中堅は新庄監督にとっては2年越しの起用となる快足・五十幡亮汰外野手、右翼には阪神から移籍してきた、こちらも身体能力の高い江越大賀外野手と可能性を秘める選手が並ぶ。また昨季は大きな力になれなかった外国人打者も、新加入のアリエル・マルティネス捕手には期待できそうだ。田中氏がキャンプを訪れたのは、マルティネスが参加していたキューバ代表と練習試合を行った時期。「フリー打撃を見ていてもパワーがすごい。中日はなんで出したんだろうというくらい」と驚いた。
「新しい金村」の先発入りで生まれる2次効果…クローザーならさらに化けるのは?
野手に比べれば充実しているという投手陣でキーマンとなりそうなのが、ルーキーの金村尚真投手(富士大)だ。かつてのエースだった金村暁氏(前阪神コーチ)が頭にあるのか「新しい金村」と呼ぶ田中氏は「豊富な球種やボールのキレもそうですが、プロのストライクゾーンに対してもコントロールがすばらしい。先発に入ってくるのではないかと思います」とべた褒めだ。「プロの壁に当たったときにどうなるか」という課題はあるものの、現状の完成度の高さは十分1軍レベルだ。
先発には昨季、四球を与えないことで話題となった加藤貴之投手や、オフのメジャー挑戦を希望している上沢直之投手、WBCでも活躍した伊藤大海投手と、実績ある名前が並ぶ。さらに田中氏が「若いのにピッチングがうまい」と評する根本悠楓投手ら若手もいる。ここに金村も入ってくると、副産物が予想される。先発と比べて穴になっているリリーフ、特にクローザーに、先発から人を回す余裕が生まれるのだ。
田中氏はクローザー候補に「僕はポンセがいいと思うんですよ」と2年目の助っ人を推す。昨季は14試合に投げ3勝5敗、防御率3.35。8月27日のソフトバンク戦ではノーヒットノーランも達成した。援護に恵まれないこのチームではそこそこの成績を残したと言えるが、田中氏は「抑えは勢いで抑えられる投手がいい。ポンセは160キロ近いボールもある。昨季序盤、2軍で投げているのを見た時は全然だなと思ったけど、1軍に行ったら別人。球は速いし、コントロールもビタビタになっていた」と別の適性を見ている。
それでも、他球団と比較した時に上位にまでは予想しづらい。「去年の成績を見れば、今年優勝争いをできるという年ではない。あと2、3年はかかる。最下位と予想せざるを得ませんね……」という田中氏も「OBとしては、覆して優勝してほしいです」と本音もチラリ。「江越が大化けするとか、清宮や万波が打線を引っ張るところまで行くとか、ないとは言えないじゃないですか」。名前の上がった3人のキーマンがプラスアルファを積み重ねれば、田中氏の苦渋の予想もひっくり返せるかもしれない。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)