1850年以降に発行された何百万冊もの書籍を調べた研究により、感情に満ちた言葉が論理的な言葉より多く使われるという傾向が1980年代から増加していたことが分かりました。この傾向は、SNSが流行し始めた2007年頃に加速しました。

The rise and fall of rationality in language | PNAS

https://doi.org/10.1073/pnas.2107848118



'We conclude' or 'I believe'? Rationality declined decades ago - WUR

https://www.wur.nl/en/news-wur/Show/We-conclude-or-I-believe-Rationality-declined-decades-ago.htm

1850年から2019年までの書籍に使用された言葉を分析したワーゲニンゲン大学のマーテン・シェファー氏は、1850年以降、「断定」や「結論」といった合理性に関連する単語の使用率が上昇し、「感じる」や「信じる」といった人間の経験に関連する単語が減少したことを突き止めました。しかしながら、この傾向は1980年頃から逆転し、その後2019年まで感情的な言葉が増加したことが判明します。

以下が、シェファー氏がピックアップした言葉と、その言葉が登場する割合を年別に示したグラフです。上部が合理性に関する言葉で、「analysis(分析)」「data(データ)」「limit(限界)」「result(結果)」などの言葉がピックアップされています。下部は感情に関する言葉で、「imagine(想像)」「wisdom(知恵)」「mind(精神)」「think(考え)」などの言葉が並んでいます。



1850年から1980年にかけての傾向については、科学技術の急速な発展によって科学的アプローチが注目され始め、それが文化、社会、そして教育から政治に至るまで徐々に浸透した影響が言葉に表れた結果だとシェファー氏は推測しています。

感情や直感に関連する単語の使用率は2007年頃に加速度的に上昇していますが、これにはいくつかの要因が関わってくると考えられるとのこと。今回シェファー氏はGoogleの書籍全文検索サービス「Google ブックス」へ収録された書籍を調査対象としていますが、2004年から2007年にかけて、Google ブックスへの収録基準が「Googleが契約している図書館にあるもの」から「Googleに直接寄託している出版社のもの」に変わったという過去があります。このことから、2007年頃の傾向は単にその時代の流行を反映したものとはいえない可能性があります。

しかし、2007年頃は世界的なソーシャルメディアの普及が始まった時期でもあることも考慮する必要があるとシェファー氏は指摘しています。SNSの登場により、「幸福」などの主観的な感情がより人々の目に触れるようになり、同時にさまざまな主義主張が人々の間に広まったため、これに伴い言葉の流行が変化した可能性も考えられるとのこと。



こうした言葉の傾向は「ノンフィクション」に絞った調査でも同様に現れており、フィクションが取り上げられることは少ないと考えられる「ニューヨーク・タイムズ」だけを調べてもやはり傾向が一致していたことから、フィクション・ノンフィクションにかかわらず、今回の調査結果には言語変化の真の状態が反映されている可能性が高いとシェファー氏は結論しました。

ただし、言語は多くの社会的・文化的変化に影響されるため、自身の考察はあくまで推測の域を出ないとシェファー氏は付け加えています。その上でシェファー氏は「重要なことは、我々が発見したトレンドの反転は、SNSの台頭の数十年前に起源を持つということです。SNSが増幅器となったかもしれませんが、何らかの要因が1980年前後に合理性の停滞を促したと考えられます。今後は直感や感情の重要性を明確に認識しながらも、同時に合理性や科学の力を最大限に活用し、複雑なトピックに対処できるよう、社会は新しいバランスを見出す必要があるかもしれません」と主張しました。