英語の文章で用いられるハイフン記号とダッシュ記号は、文章を書いている作家やライターがプロかそうではないかに関係なく、しばしば一貫性のない使われ方をされています。それぞれの正しい使い方はどのようなもので、どう使い分けるべきなのか、句読点や文法についての記事を投稿するブログのMister Punctualが解説しています。

How to use the en dash, em dash and hyphen (also ndash, mdash)

https://www.punctuationmatters.com/en-dash-em-dash-hyphen/

ハイフンとダッシュはいずれも日本語の長音記号に似た記号であり、さらにダッシュの中には短い「enダッシュ」と長い「emダッシュ」があります。スマートフォン・PCの設定やフォントによって表示が違って見えることもありますが、基本的には以下の画像のように見えます。



さらにMister Punctualでは、拡大して比較することでよりわかりやすく違いを示しています。以下の画像を見ると、ハイフンが一番短く、enダッシュはハイフンより倍くらい長く、emダッシュは長音記号くらいの長さです。



enダッシュとemダッシュの違いは長さにあり、enダッシュは欧文フォントにおける大文字のNとほぼ同じ幅、emダッシュはMと同じ幅になっていることが名前の由来になっています。そのため、短いenダッシュは「前後をつなげる」もの、長いemダッシュは「前後を切り離す」ものとして使い分けられます。

Mister Punctualはハイフン、enダッシュ、emダッシュの使い方と使用例について、例文を交えて以下のように説明しています。

・ハイフン

ハイフンは「行末で折り返す単語内の区切りを示す」「mass-produced(量産型)のような複合語を作る」「電話番号のように、グループ化された数字をつなげる」ことに用いられます。

・enダッシュ

「1993-99」や「32-37ページ」などの数字の範囲を示す場合に用いられ、日本語の記述における「2010年7月〜10月」の「〜」と同じ役割となっています。また他にも、「ルールを超えた使い方」をされることがあります。

・emダッシュ

文の主節から補足などを切り離す場合に、コンマよりも効果的な記号として用いられます。以下の例文は「お金のために執筆することが、実に楽しいこともある」という主節から、「芸術や喜びのためではなく」という逆接を含む部分をemダッシュで切り離しています。コンマ(,)でも同じ文意にすることはできますが、emダッシュを用いることで、主節をより強調する効果を持たせています。

Sometimes writing for money-rather than for art or pleasure-is really quite enjoyable.


また、追加の考えや意見を主節から切り離して強調する例もあります。以下の文章は「ケンの文章は知識をひけらかしているような態度が信じられない」という主節に、「他にすることがないのだろうか?」という感情的な意見を追加することで主節を訴えるような効果を生んでいます。

I can’t believe how pedantic Ken is about writing-doesn’t he have anything better to do?


そのほか、以下の例文のように、会話文が遮られた場合に用いられることもあります。

“I reached in and pulled the spray can out of my backpack-”“In front of the police?”


emダッシュには古風な使い方として、ある単語から文字が欠落している場合、「欠落している文字に2つのmダッシュを挿入する」という用途もあるそうです。報告されたテキストに抜けがあった場合や、不適切な言葉を用いているという表現の伏せ字に使うことができます。

“Using dashes is a bit of an ad--n [addiction?]”, said Jennifer.


正式な文書や出版物を書く場合はダッシュを正しく使い分けるのがベストですが、雑誌やウェブメディアなどでは「スペース・enダッシュ・スペース」の見え方が好まれることが多くなっており、emダッシュは「長い横棒は不格好に見える」として避けられることもあります。Mister Punctualを運営するケン・トーマス氏も実際に、マーケティングの担当者として顧客とやり取りする場合でも、管理職として政治家とやり取りするような場合でも、emダッシュではなく「スペース・enダッシュ・スペース」を使用することがあるそうです。

I use ‘space-n-dash-space’ instead of the em-dash - just to keep everyone happy.


そのため、トーマス氏は「enダッシュとemダッシュのどちらを選ぶかは、大きな問題ではありません。正式なルールとは異なったメソッドを使っていても、それを一貫して使用するならば、問題なく機能し、最も多くの人々を幸せにする選択になるようです」と結論付けています。ただし、emダッシュの代わりにハイフンを2つつなげて使用する書き方は、友だちや家族とやりとりするメッセージでは問題なくても、正式な執筆や論文には用いるべきではないと補足しています。

さらにトーマス氏は「文章オタクのためのダッシュに関するトリビア」として、「なぜ高学歴の人でもダッシュを正しく使えないのか?」という解説をしています。トーマス氏によると、ダッシュの種類に関する違いは活版印刷の時代にさかのぼり、活版印刷で印刷に用いられる凸版の大きさが大文字のNに近いのをenダッシュ、Mに近いものがemダッシュとされていました。



その後、タイプライターの時代になると、普及したタイプライターのキーボードにはハイフンがあるのみで、enダッシュやemダッシュのキーはなかったため、他の記号で大まかに代用するしかなかったとのこと。一方で本や雑誌などの印刷物では常に正しいダッシュが使用されたため、正しい使い方に混同が起きたと考えられます。PCの基本的なキーボードも同様にハイフンのキーしかありませんが、記号を変換することでenダッシュやemダッシュも使い分けることができるほか、Microsoft Wordなどのライティングソフトでは正しく記号を使い分けるための変換補助もあるため、正式な文章を書きたい場合に助けとなります。

enダッシュやemダッシュは、「enルール」「emルール」と呼ばれることもあります。トーマス氏は「『法律』や『規則』のようなルールではなく、『定規』もしくは『まっすぐなもの』としてのルール(rule)です」と述べ、使い方にこだわるよりも一貫性が重要だと繰り返しています。